「殺人もいとわぬ世に」北朝鮮で“生計型犯罪”が激増
極端なゼロコロナ政策を緩和しつつある北朝鮮。北朝鮮と中国を行き来する貨物列車には、食糧が満載されているが、前年の収穫物が底をつく春窮期のせいか、食糧難の解決には至っていない。
そんな北朝鮮では、食べ物欲しさの犯罪が後を絶たない。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
事件が起きたのは先月初めのこと。咸興(ハムン)市内にある行政機関の建物から、パソコンを盗み出そうとした20代の若者が、安全部(警察署)に逮捕された。
取り調べで彼は、家の経済状況が悪く、食べるために盗みに入ったと供述した。彼は裁判にかけられることもなく、3年の労働教化刑(懲役刑)を言い渡された。
社会安全省(警察庁)は今年2月、全国の道安全局(県警本部)に対して、社会に混乱をもたらす集団暴行、強盗などの犯罪行為を強力に取り締まり、厳罰に処すよう指示を下した。
(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた)
20代の若者がパソコン1台を盗んだだけで、裁判も受けられずに懲役3年の刑となったことについて情報筋は、社会安全省が指示を下してからあまり経っていないため、見せしめとして厳罰に処されたのだろうと見ている。
3年も続く食糧難に、多くの人が生きるために犯罪に手を染めている。だが、民家に空き巣に入ったところで、食糧がないのは皆同じ。得られるものが何もないので、機関、工場、企業所などをターゲットにする人が増えている。そうしたことも厳罰化に影響しているようだ。
情報筋は「若者がなぜ泥棒を余儀なくされたのか、国は一回でも考えてほしい」とした上で、昨今の食糧事情についてこう述べた。
「最近になり『苦難の行軍』のころを凌駕するほど、生計型犯罪が増えているが、厳罰化以外の対策は出されていない。人は腹をすかせると分別がつかなくなるものだが、このままでは殺人も厭わない世の中になってしまう」
1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころには、生きていくための犯罪が激増した。それに対して故金正日総書記は、現場の即決審判で犯罪者を処刑するよう命令を下した。そんな荒っぽいやり方でも犯罪の増加を止めることはできなかった。
コロナ前の北朝鮮は、国内経済がそれなりに機能し、多くの人が食べ物に困るようなことはあまりなかった。
それが、相次ぐミサイル実験、核実験のせいで、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁を受け、徐々に苦しくなり、コロナ鎖国で経済は著しいダメージを受けた。北朝鮮の人々の苦しみは、すべて金正恩総書記の失政のもたらしたものなのだ。