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送別会や合格発表、卒業式の胴上げは危険 落下させて法的責任を追及された例も

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

 侍ジャパンは栗山英樹監督らの胴上げで世界一の喜びを分かち合った。ただ、一般の人が送別会や合格発表、卒業式などの機会に胴上げを行うのは危険であり、落下させて法的責任を追及された例もあるので注意を要する。

有罪となった例も

 これは、お祝いや感謝の流れなどで胴上げを行うとしても、参加者が胴上げ自体に慣れていない上、プロ野球選手のような筋力もないし、人数も少ないことが原因だ。しかも、酔った勢いだったり、投げ上げる回数を勘違いしたり、バランスを崩したりすることで、受け止めるのを失敗する。

 胴上げされる者は2メートル程度の上空から勢いよく落下し、地面で頭部などを強打するわけだから、脳挫傷や脊椎損傷、骨折などの重傷を負ったり、死に至ったりすることもあり得る。

 もし胴上げの参加者が胴上げされた者を不注意で負傷させたら過失致傷罪に問われるし、死亡させたら過失致死罪が成立する。最高で前者は罰金30万円、後者が罰金50万円であり、現に事件化されたケースもある。

 例えば、滋賀の旅館で送別会後に定年退職する男性を胴上げし、畳の床に落下させ、頚椎損傷の大けがを負わせた末に10か月後に死亡させた同僚3名は、2010年に過失致死罪で略式起訴され、罰金10万円の有罪判決を受けている。

損害賠償責任も

 もちろん、参加者は民事の損害賠償責任も果たす必要がある。例えば、徳島大学病院の歯科研修医だった女性が職場の送別会のあとに同僚らに路上で胴上げされ、頭から落下して打撲傷を負ったケースでは、2021年に裁判所が参加者5人に合わせて約110万円の損害賠償を命じている。

 飲酒状況や胴上げの人数、位置などからバランスを崩し、地面に落下させるおそれを容易に予見することができたし、胴上げをやめるか、声をかけあうことで事故を回避することができたにもかかわらず、送別会後の場の雰囲気に流され、漫然と女性の胴上げを行い、負傷させたからだという。

 胴上げは華やかだが、下手をすると刑事・民事の法的責任まで問われかねない危険極まりない行為だということを知っておく必要があるだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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