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【杉並区】渋谷の名店の遺伝子を受け継ぐ味!15周年を迎えた西永福の駅前に鎮座する『焼鳥 波田野』

酔街草エディター・ライター(東京都杉並区)

西永福駅のホームからも見える近さにある店

本格的な冬の到来と共に、脳裏に浮かぶ一軒の焼き鳥屋がある。定番の地鶏に加えて、真鴨や小鴨などの野鳥を炭火で焼いた串で提供する店だ。

脂ののった真鴨の野趣溢れる味を思い起こしてしまったが最後、居ても立ってもいられなくなり、気がつけば夕暮れ時の京王井の頭線に飛び乗って西永福へと向かっていた。

西永福駅の南側、ものの1分も歩かない内の線路脇にポツンと赤提灯を灯すのが『焼鳥 波田野(はたの)』である。

今年(2024年)の9月14日に開店15周年を迎えていたのだが、前回訪問してから彼これ10年近くは経ってしまったであろうか。

あまりに不義理過ぎて暖簾を潜る際は気後れする思いだったのだが、店主の波田野宣広(のぶひろ)さんの「お久しぶりですね~!」のひと声に、そんな雑念はすっかり吹き飛んでいた。

木の温もりを感じる店内

4月にリフォームされたテーブル席。
4月にリフォームされたテーブル席。

厨房前のL字のカウンターは9席と開店当時のままだったが、小上がり部分がテーブル席に改装されていて、12人近くが椅子に座れるようになっている。

小ぢんまりとした店内は、宣広さんともう一人でのオペレーションとあって、”目の行き届くサービスを提供したいから、この広さで充分”との昔に聞いた話が蘇った。

野鳥の未入荷と先代の訃報

宣広さんの話好きは先代の親父さん譲りだ。焼き台の前では、左手でパタパタと団扇をあおぎながら右手で串を表裏にしつつ焼くのだが、その間であっても客との会話は途切れる事はない。店のアットホームな雰囲気に絆されて、地元住民の常連客が多いと言うのにも納得がいく。

早速、「今日、野鳥はないの?」と聞いてみたところ、「ここ数年、入荷が無いんですよ~」との返答。何でも渡り鳥の生態が変化していて、以前は茨城県辺りまで南下していた真鴨も、北海道か青森県止まりで狩猟そのものができなくなったのだそう。地球温暖化の悪影響が、ここにも如実に現れているような気がして誠に残念、無念。

さらに残念なことに、先代の波田野浅吉(あさよし)さんは2021年の1月にお亡くなりになっていたと言う。

後述するが、先代とは渋谷店の頃からの付き合いだっただけに、なぜもっと早く再訪しなかったのだろうと今更ながら悔やまれる。

相変わらずの品揃えと味

気を取り直してカウンター席に座り、まずは名物の「つくね」をオーダーし、ビールで浅吉さんに献杯。これまた『焼鳥 波田野』ならではの阿波尾鶏を混ぜたお任せで3~4串を追加する。

四国・徳島県名産の阿波尾鶏は、大振りながら繊細な味わいが楽しめる鶏であるが、まだ関西圏での流通が主流だった頃、東京でいち早く取り入れたのが渋谷の『焼鳥 波田野』だった記憶がある。

炭は高級な紀州備長炭を使用。
炭は高級な紀州備長炭を使用。

この串揚げ屋のようなスタイルも独特。
この串揚げ屋のようなスタイルも独特。

紀州備長炭で丁寧に焼き上げられた串はバットの上に載せられ、客が自分で小皿に移して食べるのがこの店の流儀だ。

つい話に夢中になって取り忘れている場合などは、「温め直しましょうか?」との細やかな気配りも嬉しい。

串2本を刺して細長いのが特徴的な「つくね」(330円)
串2本を刺して細長いのが特徴的な「つくね」(330円)

「つくね」は練り込んだ柚子の風味を損なわないよう、塩のみで提供される。肉質が良いので、タレも濃過ぎずにサラリとした感じなのが好きだ。

「つくね」と並ぶ名物に、ステーキのような厚さの「大串モモ」があるのだが、メニューにこの串だけ(塩・タレ・みそ)の記載を発見!

〆の1本を味噌味でと行きたかったが、すでに満腹。次回トライすることにしよう。

メニューの品揃えは相変わらずの充実ぶり。ただ、「焼鳥丼」や「ササミ茶漬け」など、飯物が増えているのは知らなかった。家族連れの客も多い、西永福という土地柄のせいかも知れない。

焼き鳥が引き立つ酒揃えにもこだわりが

日本酒も厳選された銘柄を提供。
日本酒も厳選された銘柄を提供。

仕上げに少しだけワインもいい。
仕上げに少しだけワインもいい。

日本酒は種類こそ少ないものの、この店の焼き鳥に合わせたどっしり系が揃う。まずは「男山」を流し込み、ふと目についたミニボトルのワイン(赤・白 各970円)へと移行する。

消された部位が気になる。
消された部位が気になる。

希少部位など、その日のメニューは黒板に記載。実は「うなぎ太巻串」も隠れた名物なのだ。

サイドメニューも捨て難いものばかり

箸休めに最適の「茗荷スライス」(430円)。そう言えば渋谷に店があった当時から、一年中「みょうが」がメニューにあるのが不思議だった。

これが真鴨の串だ!

「今から真鴨を焼きますよ〜」と、若かりし頃の宣広さん。
「今から真鴨を焼きますよ〜」と、若かりし頃の宣広さん。

鴨肉には、やはりネギが欠かせない!
鴨肉には、やはりネギが欠かせない!

まだ西永福に開店して間もない頃の宣広さんと真鴨串の写真が残っていたので掲載しておこう。

甘く濃厚な脂がジュワッと口の中にまとわりつく旨さがたまらない。

死ぬまでにはもう一度食べたいものだが、果たして望みは叶うのだろうか・・・。

先代・浅吉さんとの思い出が懐かしい

この「波田野」の書体にも面白いエピソードがあるので、機会があれば店主に聞いて欲しい。
この「波田野」の書体にも面白いエピソードがあるので、機会があれば店主に聞いて欲しい。

酔街草の『焼鳥 波田野』との付き合いは平成の時代に遡る。

井の頭線渋谷駅の西口改札の目の前に構える『渋谷 森本』に通い始めて間もなく、この1948年創業の老舗の焼き鳥屋で20年間務めていた先代の波田野浅吉さんが独立し、平成12年(2000年)に同じ通り沿いのビルの2階で開業したのが切っ掛けだった。

カウンター8席のみの小さな構えで、予約は一切不可。不定休で灯りがついていれば営業中という、知る人ぞ知る隠れ家的な店でもあった。

冬の楽しみが言わずもがなの野鳥。真鴨や小鴨以外に雉や寒雀が入荷していたこともあり、野鳥目当ての常連客は我れ先にと注文したものである。

浅吉さんが雁首がついたままの丸の身を包丁1本で手際よく捌く様を、カウンター越しに眺めては生唾を呑み込んだものだ。真鴨は1羽から6本、小鴨なら4本の串になった。

1羽から1本分しか作れない希少な「肝(きも)串」や骨からこぞげ取った「小肉串」は、超のつく常連客のみの特権。自分にも焼いてもらえるようになったのは、宣広さんが店を手伝うようになった頃からだったと思う。

渋谷の名店の遺伝子が西永福で受け継がれる

やがて宣広さんが独立し、生まれ育った西永福に店を出したのが平成23年(2011年)。当初は『焼鳥 波田野 西永福分店』と称していた。

渋谷の本店は浅吉さんの体調不良やビルの解体決定などもあって2018年の9月に閉店したのだが、亡くなる数カ月前まで西永福店の焼き台に立つ日もあったそうだ。

「親父には板前衣装を着せて、棺桶に山ほどの煙草と店で出している串を全種類入れました。生涯焼き鳥屋として見送りしたかったんで、きっと親父も本望でしょう」と、宣広さんは和やかに語ってくれた。

さてさて、今宵も大満足~ご馳走様!

焼鳥 波田野

住所:東京都杉並区永福3-34-9 小林ビル 1F

アクセス:京王井の頭線 西永福駅 徒歩1分

電話番号:03-5300-8110

営業時間: 月・水・木・金・土/17:00 - 22:30 日・祝日/17:00 - 22:00

火曜日定休

*現金のみ

公式Facebook

エディター・ライター(東京都杉並区)

中央線沿線の街並みとお酒をこよなく愛する、元・雑誌編集者です。長年に渡って杉並区の荻窪に在住。居酒屋、グルメに関する話題・スポットをはじめ、季節のイベントなどを中心に、皆さんの役に立つ情報を発信して行きます。

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