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LAに火を点けたイタリアのレジェンド

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 現地時間7月29日、米国ロスアンジェルスに建つバンク・オブ・カリフォルニア・スタディアムには、フロントガラスに「ユベントス」と書かれたバスが2台停まっていた。17シーズン在籍し、セリエA優勝9度をはじめとする数々の勝利に貢献した元同僚、ジョルジョ・キエッリーニを応援する為、米国遠征中のメンバーが訪れていたのだ。イタリアのメディアも10名近くがロスアンジェルスにやって来ていた。

写真:Maurizio Borsari/アフロ

 イタリア代表Aキャップ117を誇るキエッリーニが、LAFC移籍の記者会見で、新たな背番号である14を披露したのは6月末日。7月18日にMLSデビューを飾り、この日は3試合目かつ、ホームでのデビュー戦だった。

写真:Maurizio Borsari/アフロ

 ご存知のように、イタリア代表は2大会連続で、ワールドカップの出場権を逃した。3月24日に行われた欧州予選プレイオフで、伏兵、ノースマケドニアに0-1で敗れたのだ。ロベルト・マンチーニ監督は、プレイオフ決勝で対戦する筈だったポルトガル戦を見越し、キエッリーニを温存する策をとった。

 格下相手に30本ものシュートを放ちながらも得点に結び付かないアズーリは、90分に背番号3のベテランDFを投入。

写真:Maurizio Borsari/アフロ

 が、その2分後にノースマケドニアのアレクサンドル・トライコフスキの一撃に泣き、万事休す。37歳となったキエッリーニの最後のワールドカップ挑戦は、ここで終わった。6月1日にEUROチャンピオンとコパ・アメリカ王者が対戦する「フィナリッシマ」にて、アルゼンチン戦のピッチに立った後、彼はイタリア代表のユニフォームを脱いだ。

 現役引退を考えていたキエッリーニだがLAFCのオファーを受け、同チームに加入。キエッリーニは、週に9万2000ユーロの契約と言われる。

写真:Maurizio Borsari/アフロ

 29日のLAFCの対戦相手はシアトル・サンダース。キエッリーニはキックオフ直後から、格の違いを見せた。

 試合開始早々、ゴール前でフリーでのサンダースのシュートに、体を投げ出してディフェンス。闘う姿勢とはいかなるものかを、チーム全員に示した。ポジショニングが抜群で、誰よりも早く危険を察してはスペースを埋める。こぼれ球もフォローする。そして、最後尾から前線へ絶妙なボールを送った。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 LAFCは14分にオウンゴールで先制点を許したが、経験豊富なCBが後ろから指示を出し、スピード感溢れる攻撃サッカーを展開。元メキシコ代表のカルロス・ヴェラとの関係も良く、キエッリーニ効果で明らかに戦力アップしている。

 26分、そのヴェラがネットを揺らした一発はオフサイドとなったが、35分にガーナ人FWのクワドウォ・オポクが、43分にブェラがそれぞれ左足でゴールして逆転。37分にはキエッリーニもオーバーラップしてミドルシュートを放った。そのままLAFCは2-1で勝利し、西地区首位を守った。

 イタリアのレジェンドは71分にベンチに下がったが、この日スタディアムを埋めた2万2111名のLAファンは恍惚として帰路についた。

撮影:筆者
撮影:筆者

 キエッリーニは試合後の記者会見で言った。

 「シアトルが、今日のMLSで最も勢いのあるチームだと理解していました。だから、難しい試合になることは予想していたんです。トップでいる為には、勝ち続けねばならない。今、このチームは勝者のメンタルを身に着けているところです。

 今日はユベントス時代のチームメイトやたくさんの友人が来てくれ、楽しんでくれたようです。私もハッピーですよ。彼らは、自分がLAFCを選んだ理由を把捉したでしょう。それもまた喜びです。今後、ヨーロッパや世界中にLAFCが成長する様を見せられるでしょう」

 キエッリーニは笑顔を絶やさず、メディアとも友好的に付き合う。トリノ大学で経済商業学と経営管理学の学士を得ているだけあり、英語での受け答えもスムーズだ。

撮影:筆者
撮影:筆者

 私も挙手して質問した。

ーーあなたが現時点で感じるイタリアのサッカーと、MLSの違いとは何でしょうか? また、アメリカのサッカーで最も素晴らしいと感じる点は?

 LAFCの背番号14は、丁寧に応じた。

 「MLSサッカーはスペースが広く開いており、イタリアリーグよりもミスが多いのでカウンターアタックが多いですね。フィジカルなサッカーだな、という印象です。でも、私は多くのリスペクトを払っていますよ。ヨーロッパと比較し、簡単だなんてまったく感じません。自分の経験を生かして、アメリカのサッカーに適応しなくては。

 ファンの熱狂ぶりに驚いています。今日も2万人以上が詰めかけたんですよね。様々な国の選手がやって来て、MLSは成長中です。私も負けないようにしなくてはいけません」

写真:アフロ

 サンダース戦のバンク・オブ・カリフォルニア・スタディアムは燃えていた。正しく、百戦錬磨のジョルジョ・キエッリーニは、アメリカサッカー界に計り知れないものをもたらしそうだ。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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