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「若者の固定電話離れ」で世論調査からハブられる懸念?

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 固定電話を使う若年層は随分と少なくなったが……

ウェイトバックで問題解決!?

日本に限らず諸外国においても携帯電話の急速な普及に連れ、固定電話の利用は漸減しつつある。「米電話普及率推移(2014年)(最新)」で詳しく解説しているが、アメリカでは携帯電話のみの世帯が4割近く、30代前半までの回答者では過半数に達しているほど。

↑ 自分が所属する世帯に関する電話環境主要選択肢回答率(米、大人(18歳以上)による回答)(-2013年上半期)
↑ 自分が所属する世帯に関する電話環境主要選択肢回答率(米、大人(18歳以上)による回答)(-2013年上半期)

日本でも先日総務省が発表した「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」で、コミュニケーション系メディアの平均行為率が示され、若年層では固定電話による通話をほとんど使わず、携帯電話による通話、ソーシャルメディアや電子メールを多用している実態が再確認されている。

↑ コミュニケーション系メディアの平均行為率(平日、2013年)
↑ コミュニケーション系メディアの平均行為率(平日、2013年)

このような状態が進むにつれ、つまり若年層の固定電話離れが加速するに従い、テレビや新聞が行う調査において「固定電話を持たない人が多い若年層の意見」は取り入れられにくいのでは、という懸念がしばしば持ち上がる。見方を変えれば、固定電話を利用する機会が多いシニア層の方が多く答えることになり、「シニア層が多分に含まれた答え」が「世間全般の答え」として周知されてしまうという不安がよぎるという次第である。

統計調査の上でこの類の問題は常に生じる話。調査対象母集団が偏ったデータは(あえてそのような状況下での精査を意図したものならともかく)、世間一般の実情を知りたい場合には、何の意味ももたなくなってしまう。そのため、一般的には国勢調査などを基にしたウェイトバック方式が行われている。要は属性ごとのデータの再配分。

例えば国勢調査で20代・30代・40代・50代の人数が全部同率だと仮定する。その上で、電話調査で20代10人・30代20人・40代40人・50代80人が回答したとする。このままの値を用いると、20代の意見がほとんど全体に与える影響がなくなってしまう。本来なら人口比では1/4もいるのに、回答上の比率は1/15でしかなくなってしまう。

そこで20代の意見を8倍・30代を4倍・40代を2倍して、各世代の回答数がそれぞれ同じようにし、世代そのものの人数比率に合わせる。この調整を行えば、世間全般の実状に近い値が出る(本当はどの属性までウェイトバックを行うなどの関係もあり、計算方式はもう少し複雑なものになる)。

この方式が用いられれば、たとえ若年層の固定電話利用者数が少数でも、「実際の若年層の人口比率よりも少ない」割合で世論調査への反映が行われることはない。無論、実際の人口比率以上のウェイトを若年層にかけたのでは、逆の意味でデータの不誠実さ、不正確さが生じることになる。「公正である」「実態に近い状況である」のと、「自分達の理想にかなう結果が出やすい状況にある」とは別物なのは言うまでもない。

他にも電話口に出た時、最初に世帯構成上誰を呼ぶか、電話調査の場合はどのような電話番号選択方式を使うか、対象電話は固定電話か携帯電話かとかにいたるまで、極力実状に合わせたスタイルでの調査が行われている。例えば「陸海空海兵隊沿岸警備隊…米国人にとってもっとも重要なのは? 信頼がおけるのは!?」で詳細を解説している米調査機関のギャラップ社では、通話による電話インタビューの際、選択する電話番号の半数は固定電話、もう半数は携帯電話とする場合が多い。

公平……のはずではあるのだが

かくたる手法が用いられ、固定電話離れが進行中の若年層が、世論調査で不当に不利な扱いを受けることは無い。

……はずではあるのだが。新聞やテレビに登場する調査の場合、一次ソースがあればその調査方法を確認し、その実態を確かめられれば良いのだが、日本の場合は、特に「独自調査」と呼ばれる類は調査方式が分からない場合が多い(「●×新聞独自調査によると」云々というものだ)。

スペースの問題もあるのだろうが、調査方法はしっかりと細かい部分まで公示してくれないと、調査内容の正確性が疑われかねない。かろうじて調査方法の説明がなされてもおざなりでしかなく、本当に世論全般を正しく反映したか否かを確認するすべにはならない場合がほとんど(もっとも新聞やテレビ報道による「調査結果を基にした報道」においては、調査機関の調査結果をもとにしたものでも、その調査報告そのものがどこにあるのかを明示することは滅多になく、一次ソースを確認するのが非常に面倒なことになるのが常)。

「世論全体を反映しているか否かの確認など、知ったことではない。結果をアピールできればそれでいい。詳しく、正しい情報を知りたい人のことなど我々は関知しない」という考えで情報発信をしているのなら、それはそれで構わない。無論、そのような姿勢では情報発信側の信頼性は損なわれる。真実かデマか、情報を誤解釈した上で発信しているか否かの検証ができなくなってしまうからだ。

ちなみに欧米などの調査機関、例えばPew Researchやギャラップでは、ささいな調査でもしっかりと調査方法を明記をしている。Methodのコーナーを1項目用意して解説し、調査方法も極力社会実状に合うよう工夫をし、その確からしさをアピールしている。

↑ Pew Research社によるタブレット機に関する調査結果の「Method」(調査様式)項目。1ページを使って長々と説明している
↑ Pew Research社によるタブレット機に関する調査結果の「Method」(調査様式)項目。1ページを使って長々と説明している

日本の一般報道における独自調査では、特にこの辺の「手の内を明かして誠実性を積み重ねる」ことが出来ず、「黙ってれば分からないだろう」的な発想に固執している感がある。しかしその姿勢は、とても大切な部分をないがしろにしているような気がしてならない。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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