悲しい知らせについては、多くがその理由と背景を知りたがるものだ。なぜだ。どうしてそんなことになるのかと。
11月24日に訃報が報じられたク・ハラさんの件でもそうだ。SNSで攻撃を受けた件、元彼氏との裁判の件、支えてくれていた母を亡くしていた件、日本での状況の変化の件など。それらはもう、他の場所で多く報じられたのではないか。
ここでは別の話を。
少しでも美しく彼女を見送りたい。
韓国メディアがハラさんの歩みをどう評しているのか。
彼女が活動したグループ、KARA。自国では「韓国でも人気があるが、日本でより多くの人気を得ている」というイメージを持たれてきたのは確かだ。
いっぽうで今回の訃報に際し、韓国で改めて彼女の活躍が評価されている。
韓国で彼女がどう見られているのか。メディアの記事から抜粋、翻訳して紹介する。
中央日報「気の利いたセンスを披露」
中央日報は、KARAへの合流過程、活躍とともに「タレントとしてのセンス」を詳しく伝えている。韓国のテレビ番組で短距離走を走り、思いっきりずっこけるハラさんの動画は日本でもよく鑑賞されたのではないか。
「ノーカットニュース」はKARAとして得た人気ぶりを、日韓の細かいデータとともに紹介している。冒頭の「もう一つの星」とは、f(x)のソルリさんに続く訃報を指していると思われる。
KBS「KARAの救援投手」
地上波の公営放送「KBS」もニュースで訃報を知らせた。短い表現ながらも、「ク・ハラ」の名前の個性をしっかりと伝えている。
また、「クッキーニュース」は見出しでハラさんの歩みを称える記事を掲載した。彼女の優れた運動神経についても言及している。
日本でのク・ハラさんは「YouTube第一世代のアイコン」ではないか
韓国では2013年の東京ドームでの単独公演への称賛が多い。一方ハラさんの日本での歩みについては、こんなことを思う。
韓国では「韓流第2世代」という表現もあるが、日本にとってのク・ハラさんは「YouTube 第1世代のアイコン」ではないか。アメリカで始まった同プラットフォームが世界的シェアをぐっと高めたのが2010年だった。この年、ちょうどKARAが日本デビューし、日本でガールズグループのブームが起きた。KARAはその中心にいた。
そこまでネットの動画といえば「画質が悪いし、途切れるし、データ量を多く消費する」というイメージだった。そんななかでKARAは「ネットで観ない限り、情報が探せない」という状態にあった。何せアーカイブの多くは韓国にあるのだ。一方で、YouTubeを観さえすれば、動画を多く掘り起こせるという状態は日本での人気をより強固なものにした。
また、日本で放映されたドラマ「URAKARA」のなかでひとつ、鮮烈に記憶するハラさんのセリフがある。メンバーが本人役で出演。各回でメンバーそれぞれのキャラクターを生かしたストーリーが展開された。
ハラさんの回は「韓国に旅行に来た日本の自信過剰なプロゴルファーに、ハラさんがアタックする」というものだった。冴えない日本のプロゴルファー役が「なんで俺なんかに声をかけたんだ?」と聞くと、"ハラ"はこう答えた。
「だって、あなた一人で晩ご飯食べてたでしょ!」
今でこそ「ホンパプ」といって一人で夕食を食べる習慣が出てきた韓国だが、元来は「食事の時間こそ、みんなでワイワイやるもの」「そうしてこそおいしい」という考えが日本より強い。ドラマのセリフで、しかも本人役によるものだが、彼女のキャラクターがとてもよく感じられた。同時に、ああやって日本の地上波という大きなステージで、POPなかたちで韓国の文化を伝える手法は2010年当時ではエポックメイキングだった。
グループを2度ほど取材した機会もあるが、ご本人とは多くの言葉を交わすことができなかった。いっぽう、いちファンとしてソウルに観に行った2013年6月15日の韓国ファンミーティング(@サンミョン大学内ホール)では驚くべきシーンを目にした。
楽曲の途中でハラさんはステージから降りて客席に向かった。
席にいた韓国の女性のファンと肩を組んだのち、マイクを渡した。
なんとその女性ファンは、ハラさんと肩を組んだままひとフレーズをマイクを通して歌い上げたのだった。女性ファンと残り4人のメンバーの「合唱」というかたちになった。
ハラさんの優しく、遊び心があり、オープンな性格を垣間見た瞬間だった。
安らかに。そして美しいままの記憶で、永遠に。