天皇賞の2強の鞍上は果たしてライバルをどう考えながら戦うのか?
昨年の有馬記念で直接対決
27日、東西のトレセンで天皇賞(春)の有力馬が追い切りを済ませた。
「先週も乗せてもらい、テンションが上がる事なく良い走りが出来ました。現時点での不安点は何もありません」
そう語るのは横山和生。春の盾の有力馬タイトルホルダー(牡4歳、美浦・栗田徹厩舎)の手綱を取り、美浦で追い切った。
「単走で終い重点にやりました。時計も出たし、それでいて余裕のある走り。いつも通りリラックスして良い雰囲気です」
こう言ったのは和田竜二。こちらも有力馬の1頭であるディープボンド(牡5歳、栗東・大久保龍志厩舎)に跨り、栗東で追った。
2頭は共に前々走で有馬記念(GⅠ)に出走。菊花賞(GⅠ)を勝った直後だったタイトルホルダーは4番人気、凱旋門賞(GⅠ)に挑戦したためフランス帰りだったディープボンドは5番人気にそれぞれ推された。
この有馬記念の前に騎乗依頼を受けた横山。これがタイトルホルダーとの初タッグだった。
「レース前の調教で乗せていただきました。イメージ通り少し難しい面のある馬だと感じたけど、充分にコントロール出来る範囲でした」
一方、ディープボンドのフランスでの2戦を日本で見守った和田は、その前の天皇賞(春)以来のコンビ復活。次のように感じた。
「沈むような走りで、春の頃より更に成長して馬がグンと良くなった感じでした」
こうしてゲートが開くと大外16番枠からタイトルホルダーが絶好のスタートを決める。しかし、内のパンサラッサが行く構えを見せると無理せず2番手に控える。逃げ馬とは差を開けて、実質的に逃げるような形でレースを進めた。
一方、5番枠から出たディープボンドも抜群のスタート。しかし、こちらも無理する事なく好位の5~6番手を追走した。
レースが動いたのは2周目の3コーナーあたりから。先頭を行くパンサラッサとタイトルホルダーの差がなくなると同時に後続勢も詰めてくる。そして直線の入り口ではタイトルホルダーがついに先頭を奪った。横山は述懐する。
「『もしかして勝てるのでは?!』と思える場面がありました」
しかし、その時、すぐ直後に上がって来ていたのがディープボンドだった。右前の射程圏にタイトルホルダーを捉えた時の心境を和田は次のように語る。
「やりたい競馬が出来たし、一瞬『勝てる!!』って思いました」
しかし、先頭のタイトルホルダーに馬体を並べるか否かというタイミングで、外から一気にエフフォーリアが並び、かわしていった。
「結果は5着だったので満足は出来ないけど、やっぱりタイトルホルダーは走る馬だと改めて思いました」
横山がそう言えば、和田は笑みを交えて次のように語る。
「勝ったかと思ったのは3秒くらいでした。勝ち馬は強かったけど、ディープボンドも頑張って走って2着は確保してくれました」
互いにライバルをどう見ているのか?
両頭共にこの春の目標として天皇賞を見据え、タイトルホルダーは日経賞(GⅡ)をプレップに、ディープボンドは阪神大賞典(GⅡ)をステップに、それぞれ選択。そして、共にその前哨戦を勝利して、本番を迎える事になった。
「栗田調教師と『目標はあくまでも次だけど、そこへつながる競馬をした上で勝ちたい』と話していました。実際、そういう形になったので良かったです」
横山がそう言って前走を振り返ると、和田は次のように述懐した。
「スタミナ勝負だけでなく、速い上がりにも対応出来たという点で、幅が広がったのが良かったです」
下馬評では2強と目される存在となったわけだが、互いをどう意識しているのだろう。まずは横山の弁から。
「おそらく自分の方が前で競馬をする形になると思うので、相手はあまり意識をしても仕方ないと思っています。それよりもタイトルホルダーにゴールまで気持ち良く走ってもらえるように導く。そう出来るように乗りたいです」
次に和田の弁。
「タイトルホルダーに自分の競馬をさせたらしぶといですからね。GⅠ馬でもあるし、自分より前にいると思うので意識しながら進める事にはなると思います。ただ、タイトルホルダーだけでなく、他の馬や流れも見ながら最終的にはどの馬よりも先にゴールイン出来るように乗るつもりです」
盾獲りへ向けたそれぞれの想い
最後に改めてそれぞれの意気込みを語っていただいた。出走馬中唯一のGⅠホースを操る横山は次のように言う。
「馬はGⅠを勝っている実力の持ち主なので天皇賞を勝つだけの資格が充分にあります。ただ、僕はまだGⅠを勝っていないので挑戦者のつもりで臨みます。こんな僕にGⅠでチャンスのある馬に乗せてくれたオーナーや栗田調教師、そして応援してくださるファンのためにも何とか良い結果で応えたいです」
一方、天皇賞(春)を2勝、2着2回という和田は次のように語る。
「確かにディープボンドはまだGⅠを勝てていないけど、成長していつでもGⅠに手が届くところまでは来ています。昨年は2着に惜敗したのにまた乗せてくださるオーナーや大久保調教師、そして声援をくださるファンのためにもディープボンドにビッグタイトルを取らせてあげたいです」
第165回天皇賞(春)(GⅠ)は5月1日に運命のゲートが開く。軍配は横山和生&タイトルホルダーに上がるのか、それとも和田竜二=ディープボンドが戴冠するのか、はたまた第三の存在が息を潜めて大魚を釣り上げるのか。3200メートルの長編ストーリーの結末に刮目したい。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)