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【ドラクエ】キャラクター名は著作物ではないとの判決文公開(想定内)

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

ちょっと前に「ドラゴンクエスト5」の小説版における主人公名が映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」で無断使用されたことに対して小説作者がスクエニや東宝を著作権侵害で訴えたというニュースがありました。小説版では、主人公名「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」(通称「リュカ」)であったところ、映画では「リュカ・エル・ケル・グランバニア」になっています。

主人公名は著作物に当たらないということで原告敗訴になっています。キャラクターの具体的な絵やせりふの表現を離れた、名前や設定だけでは著作物には当たらないというのは確定した考え方なので結果自体は驚くに値しません。

本件、当たり前すぎる結論なので意味のある記事化をするには今ひとつ情報が足りず、判決文が公開されたら書こうと思っておりましたが、なかなか公開されず未公開で終わるのかと思っていたところ(知財関係でも地裁判決はウェブで公開されないことも多いです)、先日やっと公開されましたので、判決文のポイントとなる部分を解説します。

原告の主張は大きく①著作権侵害、および、②出版契約に基づく協議義務不履行です。当然ながら、「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」なる名称が著作物であるかが重要な争点になっています。主人公名以外にも設定等で類似点があるのかと思っていましたが、そういうことではなかったです。原告は以下のロジックにより、登場人物名が著作物であることを主張しています。

登場人物名の呼称であっても、小説中の一場面を際立たせる等の演出にとって重要な意味を持つような用法で登場人物名が使用されている場合、それは、漫画のキャラクターが絵によって描写されているのと何ら異なることはなく、もはや抽象的概念にとどまらず、具体的表現そのものになっているというべきである。本件名称は、本件小説中で呼称されることで、特定の場面を際立たせて演出しており、本件小説の演出上、重要な意味を持っている。そして、本件正式名称については、その文字数は19文字に及び、単なる文字列の組み合わせではなく、原告の思想に基づいて創作されている。よって、本件名称は著作物に当たる。

が、さすがにちょっと無理があり、裁判所は以下のとおり一蹴しています。

原告は、本件名称がそれ自体で著作物であると主張する。しかし、人物の名称は、当該人物の特定のための符号であり、そうである以上、それは、思想又は感情を創作的に表現したものとは必ずしもいえず、また、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとはいえないとして、著作物ではないと解するのが相当である。当該名称を作成した者が当該名称に対して何らかの意味を付与する意図があったとしても、それが、当該人物の特定のための符号として用いられているといえるものである限りは、その性質から、上記のとおり、それは著作物でないと解される。

そして、ちょっと興味深い、出版契約の観点ですが、

「・・・本著作物が・・・映画・・・等・・・に使用される場合、甲(原告)はその使用に関する処理を乙(被告スクウェア・エニックス)に委任し、乙は著作権使用料等の具体的条件について甲と協議の上決定する。」と定められている。

ということで、協議義務は「本著作物」の使用に限定されているので、主人公名が著作物ではない以上協議義務は発生しないとされました。契約書において「著作物」に限定した記載ではなく設定や名称等も含むより広い記載にしておけば、原告側にも争う余地が生まれていたかもしれないですが、出版契約の契約書は通常発注側が用意したものをそのまま使うので限定的になってしまうのはしょうがないかと思います。

小説の著者としては、主人公名を決めるのにも創作能力を使いますし、その後、その名前で物語を展開していくと相当な愛着が生まれるものと思います。それを断りなく使用されるというのが(金目の話とは別に)感情を害される行為であることは否定できないでしょう。正直、スクエニ側も事前に作者にあいさつやお断り、そして、エンドロールでの名前出しくらいしてくれても良かったのにと思います。

追記:小説著者の方がnoteに今回の裁判における陳述書を独自に公開されています。上に書いたエンドロールでのクレジットが実現しなかった理由も明らかになっています。正直、この陳述によって裁判における法的解釈が変わるとは思えませんが、スクエニはちょっと仁義に欠けるのではないかという印象です。

追記:YouTube動画作ってみました

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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