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なぜ韓国人女子ゴルファーは日本で勝つことができるのか~日本ツアーを選ぶ背景~(後編)

金明昱スポーツライター
2015、16年に日本ツアー賞金女王となったイ・ボミ(写真:Nippon News/アフロ)

韓国は”飛び”より”美しさ”のワケ

 韓国人女子ゴルファーがアメリカや日本ツアーで活躍できる背景には、何があるのか。そのことについて知るため、数人の選手に質問をぶつけてみると、さまざまな角度から答えが返ってきた。

 日本でデビューして17年目の李知姫は、日本と韓国ではジュニア時代からの「スイング習得の違い」について挙げた。

「韓国ではまず、スイングの見た目がきれいじゃないといけないという教えがあるんです。スイングがきれいでないとゴルフを長く続けられないとも言われます。ボールは真っすぐ飛ばさなくていいから、先にスイングの形を作ることを優先させます」 

 イ・ボミも同じことを言っていた。

「韓国では距離を飛ばすよりも、きれいなスイングを作ることを優先しますね。スイングができたら、次は球の方向性です。私も基本的なスイングの形ができるまでは、ずっとスイングの練習ばかりしていました」

 子どものころ、プロテニスプレーヤーを目指して米国でもプレーしていたジャン・ウンビ(2011年から日本本格参戦し15年まで日本でプレー)は、ゴルフに転向したのは「いつか朴セリさんのように、米ツアーでやってみたいという思いがあったから」という。

「ゴルフをしているジュニアは、目標設定がすでに高いところにあります。プロゴルファーになって、米ツアーに行く。それが前提としてあると思うんです。意識は日本の選手とは少し違うのかもしれません」

日本は”過程”、韓国は”結果”を重視する

 そうした目標や意識の違いは、勝負欲にも現れるのかもしれない。韓国、米国、日本の3ツアーを経験している申ジエが面白いことを教えてくれた。

「日本は過程を重視し、韓国は結果を重視すると感じます。韓国、米国、日本の3つのツアーで、もっとも過酷なのは韓国です。韓国は、1位でないと意味がないという意識が強いですし、完璧を求める国民性です。日本は2、3位でも褒めてくれますよね。韓国ツアーは試合数や賞金額が日米ツアーよりも少ないので、勝たないと生き残っていけないという強い競争意識が働くのだと思います。韓国は短いスパンで一気に選手をトップまで押し上げようとする瞬発力はピカイチ。ただ、その分、選手生命は短いかもしれません」

日本の環境の良さで「さらにうまくなる」

 賞金女王のタイトルを3回獲ったアン ソンジュは、決して韓国人選手が秀でているとは思っていない。

 成績を安定して残せる理由を聞くと、「日本のゴルフの環境がいいから」の一点張りだった。

「韓国にいたときは練習環境がよくないので、練習量も少なかったんです。日本ではいろんなショット、アプローチを試すことができるので、レベルが高くなっています。それに、日本のコースのほうがグリーンをはじめ、難易度が高いです。私が戦っていたころの韓国のグリーンはアンジュレーションもなく、アプローチもそこまで難しくなかった。日本では、全体的なレベルが向上しないと、通用しないという感覚があったので、逆に練習量が増えました」

 イ ボミが続ける。

「日本の練習環境が抜群にいいからです。コースで練習できる環境をこんなに整えてくれるツアーは中々ないと思います。ゴルフがうまくならざるを得ない環境が広がっている」

 現在は韓国ツアーでプレーし、2014年に日本ツアー初優勝を飾ったジョン・ヨンジュも、環境の違いを挙げていた。

「韓国にはショートゲームやパットの練習をできる環境がそう多くはありません。日本には練習場所がコースにたくさんあって驚きました。韓国のゴルフ場数は、日本や米国よりも少ないですし、プレーフィも高い。そうすると、普通の練習場で球を打つ時間が必然と増えるんです。そこでスイングと球の方向性の精度を磨くしかないので、上達するところは上達しますが……」

生活環境に慣れることも大事

 そして、日本参戦3年目にして第2の全盛期を迎えているキム・ハヌル。彼女は練習環境は良くても、生活環境に馴染むことの大切さを説いていた。

「日本の練習環境は確かにいいです。ただ、私がこうして好調なのは、練習環境が良いから技術が伸びたなとか、そういうものではなありません。日本に来るときは、自分の実力さえあれば勝てるとばかり思っていました。でもそれは私の間違いで、大きな誤解をしていました。メンタルや思考を変えないといけなかった。

 いくら球を正確に飛ばせるからといっても、日本の生活環境に慣れないことには成績が出ないのだと気付きました。1年目はどこに行っても知らない人、知らない場所ばかり。自分が一人にされたみたいな感じで、すごく嫌でした。今ではみんなが声をかけてくれて、自分からもあいさつができるようになり、すごく居心地がいいんです」

 海外での生活に適応する能力も大事な要素なのだろう。国民性、ゴルフの環境、そして一番を取るために最新理論を展開して実践。

 心・技・体と徹底的に基礎をたたき込まれた韓国のトッププロが日本で活躍している。それこそが”韓国ゴルフ”の強さの証ではないだろうか。

※この記事は「週刊パーゴルフ(2015年7月28日号)」の『韓国人選手が勝つ理由』に掲載されたものを加筆したものです。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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