ファッションレボリューションデーに考える。あなたの着る服が少女たちの搾取労働で成り立っていたら・・?
4月24日はファッション・レボリューション・デー。
新しく始まった、ファッション産業の仕組みを変えられないか? という国際キャンペーン・デーです。
皆さんが何気なく選んでいる服、お気に入りの服が、どんなふうにつくられているのかについて、少し敏感になって想像力を働かせてくれることが、犠牲のうえに成り立っているファッション産業の構造を変えることが出来ます。
■ 4月24日は何があった日?
2年前の4月24日、バングラデシュのダッカ郊外の縫製工場が立ち並ぶ地区の一角にあったラナ・プラザというビルが倒壊して、その工場で働いていたたくさんの労働者が犠牲になりました。
その数は1000人以上。。多くは若い女性たちでした。
前の日からビルには大きな亀裂があることがわかり、みんな怖がって出社したくない、と訴えていました。
それでも、工場のオーナーの命令で、みんなは働きに行ったのです。そして間もなく、ビルは倒壊し、多くの人が下敷きになり、生き埋めになり。。。
この痛ましい事故は世界に報道され、バングラデシュの工場労働は「非人道的」と批判を浴びました。
しかし、その工場で労働者たちがつくっていたのは、例えば以下のような世界的なブランドの服であることが、わかったのです。
Bonmarche, Camaieu, The Children's Place, El Corte Ingles, Kik, Mango, Premier Clothing, Primark, Walmart, C&A, Gueldenpfenning, Mascot, Asda, Inditex, Loblaw, LPP S.A., AdlerModemarkte, Benetton, Cato Fashions, Manifattura Corona, Matalan,NKD, Texman, Yes Zee, Carrefour, Store21, Auchan, JCPenney, Iconix, KANZ/Kids Fashion Group, LC Waikiki, Robe di Kappa, Ascena Retail
ベネトンや、ウォルマート、プライマーク、マンゴーなどの日本でも知られている有名ブランド。
InditexはZaraを含むアパレルグループですね。
そんなブランドの名前があがったことは、バングラデシュの惨劇と私たちを結びつけました。
■ 児童労働、事故のトラウマ、家族を失い、下半身まひで生きていかざるを得ない若い女性たち。
ラナプラザ事故から一年余、私は、バングラデシュを訪れ、事故の被害にあった元労働者の女性たちのお話しを聞く機会がありました。
みなさん、10代から20代半ば。ビルの下敷きになり、助け出された彼女たちは、今も足に傷跡が残り、神経が切断されて下半身まひなどの状況で治療を受け続けていました。事故の恐怖はいまも忘れられないといいます。
下の写真の真ん中にいる、黒いベールをかぶった少女は、事故当時14歳、児童労働でした。
お母さんも一緒にこの工場で働いていたけれど、母は事故で亡くなってしまったそうです。
彼女の足の傷はとても重く、一生障害を背負っていく彼女は必死に痛みに耐えていました。
このラナプラザ事故の少し前に、タズリーンという縫製工場で火事が発生して多くの労働者が焼け死にました。工場は深夜も操業を続け、外から鍵をかけられてほとんど閉じ込められていたため、多くの労働者は火事が発生しても逃げる事もできずに焼け死んだのです。
監禁されて深夜も労働・・・そこでつくられていたのも、有名ブランドの服ばかりでした。
そんな過酷な労働環境は、事故後も変わっていない、それが昨年バングラデシュに行った時に痛感したことでした。
事故後、最低賃金はあがったけれど、物価も上がったので、工場で働く人たちの生活は苦しいまま。
土日も関係なく、朝から夜10時、11時まで働いていても、住めるところはスラム街。トタンで簡単に囲われただけの、多くの人が密集したスラム。不衛生で狭く、暑くて息苦しいスラムに住む女性たちにお話しを伺ったときには、言葉を失いました。
■ 低価格競争が招く悲劇
ラナプラザのような悲劇はどうして起きるのか。どうして労働者たちはいまも苦しい生活なのか。
国際ブランドが、人件費の安く、労働法規制も十分でないアジアの途上国に生産拠点を移し、人件費コストを抑制して巨大な利益を得ていること、途上国の工場に「低価格」で「短い納期」の生産を厳しく求めていることが大きな原因なのです。
ブランドは、熾烈な低価格競争の犠牲を生産現場に強いており、安全で権利を保障した労働環境を実現するに足るだけの価格での買取りを保障していないという訴えを、私はバングラデシュ滞在中に何度も耳にしました。
「もっと価格をあげてほしい」「こんな価格では作れない」というと、ブランドは、「それなら中国やミャンマー、アフリカの工場に発注に切り替えますよ」と言い、実際にそうしてしまうというのです。仕事を失いたくない工場は、文句を言わず、発注を受けるしかないというのです。
もちろん、バングラデシュの国内企業が労働法規をまったく守らず、労働者を搾取するということは横行していますし、政府も十分な対策は全然打っていない、しかし、大きな要因として、発注元である国際ブランドの関与なくして、これだけ大規模な構造の労働搾取は成立しません。
こうしてつくられた製品は、米国、ヨーロッパ、日本などで低価格のファストファッションとして提供され、私たちは低価格競争の恩恵を受けて、安くてスタイリッシュな製品を買うことが出来るわけです。
■ カンボジア・中国では何が?
私たちヒューマンライツ・ナウは、このバングラデシュの調査の後、中国、カンボジアでも搾取労働の調査を進めました。
すると、日本のブランド、ユニクロ(ファーストリテイリング)も含む世界的なブランド企業の下請け工場での過酷労働の実態が明らかになったのです。
既にこちらのページでもご紹介した通りですが、
・ユニクロ: 潜入調査で明らかになった中国・下請け工場の過酷な労働環境
http://bylines.news.yahoo.co.jp/itokazuko/20150113-00042192/
調査報告書はこちら
・ユニクロ:再び問われるグローバル企業の責任: 今度はカンボジア労働者が過酷労働を告発
http://bylines.news.yahoo.co.jp/itokazuko/20150401-00044415/
ステートメントはこちら
カンボジアの労働組合からのさらに詳しい、下請け工場の労働法違反の報告書は
記者会見全文http://iwj.co.jp/wj/open/archives/241131#jyouhou
それぞれの工場での実態や労働者からの告発は、氷山の一角に過ぎないでしょう。
その陰でどれだけ同じような苦しみを抱えている労働者が多いかは想像もできません。
そして、私たちが指摘した問題について、まだ改善は十分にはかられていません。
中国の問題についてはファーストリテイリングと交渉中ですが、進展も情報公開もまだ十分とはいえません。
私たちは、ファーストリテイリングに対して、
・徹底した調査と検証、改善、そのプロセスと内容を詳細に公表することで、説明責任を果たすこと
・モニタリング体制の改善
・低い発注価格の見直し
・すべてのサプライヤー(下請け工場)の公表
・労働者への研修と労働組合結成の支援
などを求めています。
カンボジアの報告については、今のところ、ユニクロのファーストリテイリング、ZaraのInditexからレスポンスがきています。
H&Mなど他のブランドからはレスポンスを待っている状況です。
■「安い服の高い代償」アジアの女性たち・少女たちの権利を守り、オールタナティブを示すために。
Voice Newsの番組
"From Sex Worker to Seamstress: The High Cost of Cheap Clothes"
「売春か縫製労働者か」
https://www.youtube.com/watch?v=EnXhB1XtL2o
は、最近のカンボジアの女性を取り巻く状況を切り取っています。是非一度見てください。最低賃金は月額128ドルに引き上げられましたが、その他の状況はあまり変わっていません。
工場労働者は朝から晩まで働いても低賃金で生きていけない、売春をしたほうが稼げる、生き延びられるとしたら、女性たちの自立にとって縫製工場で働くことは健全なオールタナティブとは言えないでしょう。
カンボジアなどで少女たちを意に反する人身売買や売春から守りたい、そんなことに関心を持ってくださっている方は多いと思いますが、子どもたちの性搾取の問題と、工場での労働搾取の問題は無関係ではない、女性・少女たちを取り巻く現実のパーツのそれぞれ一部なのです。
バングラデシュでも、縫製産業は、農村の少女たちが、伝統的な社会で、幼児婚、強制結婚、DVなどの無権利状況の結婚の犠牲に会ったり、人身売買の犠牲にあったりすることのオールタナティブとして期待されています。
みんなが求めているのは、ブランドがバングラデシュを去ることではない、
人間らしい、搾取されない働き方を保障するようイニシアティブをとること
なのです。
もし縫製産業で労働基準が守られるようになれば、女性・少女たちのエンパワーメントにとって大きな前進につながるでしょう。
■ では私たちは何が出来る?~意識の高い消費者に
実は私もニューヨーク留学当時から、Zara、H&Mの大ファンでした。
貧乏留学生には、チープファッションはとても嬉しい味方でした。
でも、今は、チープファッションを積極的に推奨することはありません。
搾取構造がそのまま続いていることを知ったら、なぜこんなに安いのか~それは現場で働く人に支払われるお金が雀の涙程度だからだ、
とわかりながら黙って買い続けることでは、搾取構造~その末端は若い女性・少女たち~に加担していることになってしまいます。
最近、国際ブランドは事態の改善に努めつつあります。それは、消費者による抗議活動、不買運動、株価の下落などを恐れ、世論やメディアもとても厳しい目をブランドに向けるようになってきたからです。
ラナプラザの被害者への補償金の支払いを渋る企業名は公表され、厳しい批判にさらされています。
もしブランド・イメージが傷つけられ、商品を買ってもらえなくなれば、ブランドは大きな打撃をうけます。
いまや、率先して事態の改善に努めている姿勢を明確にしたり、ファッション・レボリューション・デーにもブランド自体が関わったりすることもあるのです。
それに比べるとまだ日本ではブランド企業の取り組みも国際的な水準にはほど遠く、こうした問題に意識した報道も少ないのが現状です。
新聞・TVに加えて、ファッション誌がこうしたことについて特集を組んでくれたり、継続的にフォローしてくれると随分違うはず。
その影響もあるのか、消費者のなかでもこうした問題への注目度がとても高い、とは言えません。
是非、多くの方に関心をもってほしいと思います。
不買運動をして産業に打撃を与える、ということを推奨しているわけではありません。
消費者として、各ブランドの取り組みや報道・指摘される労働問題に意識を持ち、改善していくのかどうか、よく見ていく、例えば、ブランドに手紙を書いてもらう、SNSやブログでつぶやいてみる、などの小さな行動も、つもりつもればとても有効だと思います。
例えば、H&Mは、すべての製品をオーガニックコットンでつくるなど、自社のポリシーを明確にしています。
https://www.hm.com/jp/customer-service/faq/our-responsibility
また、H&Mは、すべての下請け工場を公開しています。
http://sustainability.hm.com/en/sustainability/downloads-resources/resources/supplier-list.html
どうしてオーガニックコットンなのか?
本当に自社ポリシーが徹底しているの? (私たちの調査ではH&Mの下請け工場の深刻な問題についての労働者の告発がありました)などとチェックを入れてみたり、
では、ほかの企業はどうだろう、と比べてみて、商品選択の参考にするのもひとつです。
「ファッションレボリューションデー」を検索して考えてみたり、関連するイベントに参加してみたりすることもできます。
また、オールタナティブとしての、フェアトレードをサポートすることも素晴らしい、そして重要な選択だと思います。
ファッションは私たちの生き方やライフスタイル、自分なりのこだわりを示すものです。
もし、そのファッションが誰かの犠牲の上に、アジアの女性たちの過酷な労働搾取のうえに成り立っているとしたら、そのまま黙って買って着こなすのは本当におしゃれなのか?
あなたのこだわりのなかに、是非、「どうやってつくられているのか? 」ということを加えて、ちょっとしたアクションにつなげてほしいと思います。
そんなひとつひとつの選択がファッション産業のゆがんだ構造を変えるきっかけになると思うのです。
意識の高い消費者が増えることは、めぐりめぐって、世界を変えることに確実につながります。
※ 参考となる本はこちら♪
ナオミ・クライン「ブランドなんかいらない」