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新型コロナストレス対策:生活の乱れや慣れない対応……終わりが見えない心の危機をどう乗り切るか

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
ストレッチする女性(写真:アフロ)

この1か月ほど新型コロナ感染拡大によるストレスが続き、「不安で睡眠の質が悪い」「何となく気分がもやもやする」という訴えを聞くことが多くなりました。家にこもっているため間食をしすぎて胃の調子が悪いという方もいます。いつまで続くか見通しが立ちにくいこのストレスをどう乗り切るかについて考えます。

生活リズムが変化して過食ぎみのAさん

テレワークが多くなった20代のAさんは、通勤のための早起きをしなくなり生活リズムが乱れてきました。通勤ストレスがなくなり気分がいいはずですが、早起きしなくていいと思うとつい夜更かししてネットの新型コロナ情報を見たりしながらチョコレートやアイスクリームを食べ、過食状態で調子が悪いということでした。外出できないので近くのコンビニに行くのがストレス解消になっていて、行くとお菓子を買い込みたくなるそうです。

急に仕事が増えた総務人事担当Bさん

企業で総務の課長を務める40代のBさん。これまで残業はほとんどない環境でしたが1月末から次第に忙しくなりました。海外の事業部とのやり取りや社内の新型コロナ対策が同時並行で進み、テレワーク対策も発生。消毒用アルコールの手配などをしているうち2月中旬から不安感や動悸がひどくなり、社内で感染者が出たらどうしようと心配で目が覚めることもあるということでした。仲間から「経営者ではないのだからそんなに責任感を感じなくてもいい」と言われても不安感がひどく気持ちが落ち込んでいます。

対策1.ながら過食を防ぐ

仕事が多くなり残業が増えた方、時差出勤で起床時間が遅くなった方、テレワークで普段の生活時間と変化が生じ時差ぼけのような状態の方は、生活時間を元の時間と大きく変わらない時間に戻すことが大事です。起床時間を遅らせない、あるいは大きくずらさないことが必要です。食事の時間をずらさないことは生活リズムをキープするポイントになります。間食をしない、朝食を抜かない、など胃腸のリズムをキープすることは生活リズムを保つのに役立ちます。ストレスで過食になっている方は間食する前にカモミールティーなどリラックス効果があるハーブティーをゆっくり細く長く息をフーフー吹いて冷ましながら少しずつ飲んでみてください。息をゆっくり吐くことが自律神経の調整に役立ち、過食を防止する手助けになります。またテレビを見ながら何となく食べるという習慣も過食につながります。ストレスがある場合、「見ながら食べる」「見ながらつまむ」という習慣をストップすることが必要です。

対策2.身体を緩めて心のケアにつなげる

不安を感じるのは人間が身を守るために必要な反応です。不安になるのは悪いことではありません。不安を否定して「コロナ感染は暖かくなれば自然に消滅するだろう」などと考えたり「たいしたことはないから人込みでも自分はかかるわけはない」と言って必要ではない外出をわざとするような人がいますが、こうした方は楽観バイアスの可能性が大きいといえます。しかし一方、不安で緊張状態が続く方は、身体へのアプローチが心のケアになるのです。身体を緩めると心の緊張が緩和します。いくら頭で不安をなくそうと考えてもうまくいきません。逆にうまくいかず不安が続くことでイライラしてしまいます。こうした場合は身体に働きかける次の対策を取り入れてください。

対策3.鼻呼吸で緊張と不安対処

まず鼻呼吸でストレスによる緊張状態を改善してください。方法は次の通りです。目を閉じ無理のない範囲、できる範囲で

1.右の鼻をおさえ左の鼻孔から3ゆっくり数えて息を吸う

2.左の鼻をおさえ右の鼻孔から6ゆっくり数えて息を吐く

これを2-3回繰り返す

3.右の鼻をおさえ左の鼻孔から4ゆっくり数えて息を吸う

4.左の鼻をおさえ右の鼻孔から8ゆっくり数えて息を吐く

これを2-3回繰り返す

5.右の鼻孔をおさえ左の鼻孔から5ゆっくり数えて息を吸う

6.左の鼻孔をおさえ右の鼻孔から10ゆっくり数えて息を吐く

これを2-3回繰り返す

このように吸う息の倍の長さで息を吐くようにしていると、交感神経の緊張が緩み身体がリラックスします。緊張しているなと感じた時、過食になりそうな時、不安な時、寝る前など、こうした鼻呼吸をしばらく続けると緊張感が緩和します。

対策4.情報依存に注意

一日中スマホで新型コロナ情報を検索したりテレビのワイドショーを見たりして不安になっている方がいます。ストレス対処の研究で知られるアーロン・アントノフスキー博士は、絶え間なく情報を求めている人は始終閉じこもっている人と同様にストレス状況に適応できないとし「情報は役に立つ可能性がある時に求め、過大負荷をもたらすようなときは求めず、一貫して求めないのもよくない」と述べています。

正確な根拠のある情報源を見つけ時間を決めてそれを見る。それ以外の時間はスマホやテレビで情報の垂れ流しをしない習慣を作ることも必要でしょう。

対策5.最新AIツールを活用して不安を軽減する

日本認知療法・認知行動療法学会理事長の大野裕先生のグループが開発中のAIによるツール「こころコンディショナー」(https://carechat-demo.kiku-hana.jp/)をご紹介します。このツールは不安やうつ気分を抱えちょっと相談したいなと感じている人向けに開発されました。認知行動療法を応用し、考え方や行動を変えていくプロセスでストレス対処できるように整えていくものです。新型コロナ感染拡大で不安を抱えている方が多いという状況を踏まえ、試運転期間として4月末頃まで無料公開される予定です。取り急ぎ公開されたので一部機能はまだ整ってはいませんが、不安やうつ気分を認知行動療法で乗り切るプロセスを学ぶのに役立つはずです。治療ツールではありませんが試してみてはいかがでしょうか。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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