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史上初「入管問題選挙」!各党の政策は?NGOがレビュー

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ウィシュマさんの遺影と会見する遺族 筆者撮影

 今回の衆院選では、日本の政治史上、恐らく初めて、入管問題が選挙争点の一つとなったといえるだろう。先の国会では、名古屋入管でスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが今年3月に亡くなったことなどから、入管法の改正/改悪が国会論戦での大きなテーマとなり、数で勝る政府与党が強行採決を断念する事態にまで発展。メディアもこの問題を大きく取り上げた。さらに、各党の衆院選での公約では、「難民鎖国」と批判される日本の難民認定制度を抜本的に見直したり、在日外国人の人権を守り多文化共生を実現する等の政策も掲げられている。そこで、人権団体や難民支援を行っている団体による、各党政策レビューやアンケート調査を紹介する。

○人権団体や支援団体がレビュー

 今回、入管問題についての各党の政策に対しては、アムネスティ・インターナショナル日本や国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ、難民支援協会、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)、みんなの未来を選ぶためのチェックリストなどが、政策レビューやアンケート調査を行っている。

 いずれも、各党の政策をわかりやすく一覧表にしているので参考になる。また、#選挙は人権で考える は、候補者ごとのアンケートの回答を公開している。

○長期収容の見直し

 現状の入管行政では、様々な事情で在留資格を得られていない外国人の人々を、難民申請中であったり、逃亡の恐れがなかったりしても、入管の収容施設に拘束(収容)するという、全件収容主義がとられている。しかも、収容の期限はなく、事実上、入管の裁量で無期限に収容し続けることができるのだ。さらに、ウィシュマさんの健康状態が著しく悪化し、本人が入院を何度も求めていたにもかかわらず、仮放免(一定の条件の下、収容施設から解放されること)を許可せずに、むざむざとウィシュマさんを死なせてしまったことなど、収容についての入管の裁量は人権軽視が甚だしい。この全件収容主義や長期収容の見直しに前向きなのは、立憲民主党、共産党、れいわ新選組、社民党だった

 また、収容するか否かの判断で、速やかな司法の判断を伴わず、入管の裁量に任されていることは、国際法違反だと国連の人権専門家や人権理事会からも指摘されている。収容に際し、裁判所が判断するように制度を変えることへ前向きなのは、立憲民主党、共産党、れいわ新選組、社民党だった

○「難民鎖国」の見直し

 日本は、難民条約を批准し、難民を助ける国際法上の義務があるにもかかわらず、諸外国に比べ、極端に難民の認定率および受け入れ人数が少ない。認定率は0.2~0.5%程度、認定者数は年間で数十人で、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の年次報告書でも、名指しで「難民認定率が低い国」であると指摘されている始末だ。しかも、「不認定」とした難民申請者を、入管の収容施設に長期収容するなど、迫害を恐れて逃げてきた人々をさらに迫害している。そのため、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会から、「難民に対する差別」があると指摘され、改善を求められている。日本の難民認定率の低さの要因として、支援団体や専門家らが指摘するのは、外国人を取り締まる立場の入管が、難民認定審査を行っていることや、難民認定審査を行う側の専門性の欠如、そもそも難民認定基準がUNHCRの基準から外れたものであることなどだ。そのため、難民の保護を目的とし、専門性を持ち、UNHCRの基準にそった難民認定審査を行う、独立した機関が必要だとされている。こうした難民認定のための独立した機関の設置に前向きなのは、立憲民主党、共産党、国民民主党、れいわ新選組、社民党だった。日本維新の会も「慎重に検討」と回答している(ヒューマンライツ・ナウのアンケート調査より)。

○在日外国人や難民の人権状況の改善は不可欠

 入管による長期収容や、難民認定率の異常な低さなど、在日外国人や難民の人権状況については、1998年から今年まで国連の人権関連の各委員会から度重なる改善勧告を受け続けてきた。この間、入管の施設で死亡した外国人は、1997年以降、確認されているだけでも20人にものぼる。米国のバイデン政権やEU諸国が人権外交を展開し、日本もこれに加わるとしている中、国際法や国内法にも反する差別的・非人道的な在日外国人、難民に対する行政や制度を抜本的に見直す必要があるだろう。

(了)

 以下、各団体のレビューやアンケートについてのツイート

*2021年10月30日20時30分、TRYのアンケートを追加。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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