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“余命5年”を告げられた男に学ぶ、2014の生き方

河合薫健康社会学者(Ph.D)

「ワクワクする一年に!」と年初めに安倍首相は言っていたけど、「所詮、ワクワクするのはアベノミクスの恩恵を受ける大企業だけっしょ」などと口をとがらせている人もいるに違いない。

とはいえ、この正月休みはどこにいっても人・人・人……。曜日の並びも手伝ってか、大賑わいだった。デフレ脱却だのなんだとか、経済の専門家じゃないので、景気の詳しいことはよく分からない。でも、これまで日本中に降り注いでいた土砂降りの雨は止み、晴れ間が見え始めているのだと思う。

つまり、もうすべてのうまくいかないことを「不景気」のせいにするのは終わりにして、もう少しだけ元気に、もうちょっとだけ前向きに生きるためにも、一人ひとりが自ら光を見いだすフェーズに突入したと考えたほうがいいだろう。

そこで、今年の初回は、「光」について話をしよう。

「光」について話をする時にぜひとも取り上げたいのが、数年前にインタビューさせていただき、いまだにその時の感動が薄れることなく残っている、西室泰三さんだ(現在、日本郵政株式会社代表執行役社長)。西室さんは、大手エレクトロニクスメーカーの東芝で数々の業績を残し、経済界で名を馳せた人物である。

西室さんは就職して間もない時に「余命5年」という宣告を受けた経験を持つ。原因不明の筋肉が衰えていく病に侵され、医師から「足から始まっている筋肉の衰えが、次第に身体の上部に移っていき、最後に心臓までいったら終わりです」と診断され、25歳という若さで余命を告げられたのだ。

だが「あと5年」と言われても、これっぽっちも実感がわかない。何せ余命を告げられたところで、いつも通り息をしていれば、いつも通り会社だって行ける。友達とだって話せるし、お酒だって飲める。

「余命宣告は何かの間違いだ」と信じた西室さんは、半年以上もの間、複数の医師に診察してもらった。ところが、何度検査しても、何度先生に問い詰めても、答えは同じ。すべての先生から一様に「原因不明。余命5年」と宣告された。

繰り返される余命宣告に、西室さんはひたすら恐怖心だけが募っていった。そこで、西室さんは、とにかく頭からその恐怖を遠ざけようと、がむしゃらに働いた。

頭の中を仕事で埋め尽くせば、恐怖を忘れることができる──。がむしゃらに仕事に励むことで、“現実”から逃げようとしたのである。

ところが、西室さんの気持ちに、ある時、変化が起きる。「あと5年しかない」という残された時間を、「まだ5年もある」と思えるようになったのだ。

そのきっかけとなったのが、母親の存在だった。

唯一無二の存在である母親は、息子の身を案じ、お茶断ちをし、毎日お百度参りをし、ひたすら回復を祈った。そんな母親の姿を目の当たりにした西室さんは「残された時間で価値ある生き方をしないと母に申し訳ない」と思い始め、何度も何度も、「価値ある生き方とはどんな生き方か」と自問した。

「何回も何回も自分で考えるうちにね、5年もあれば何かできると思った5年もあるのだから、自分がいなくなった後でも、『あの人がここにいてくれればな』と思ってくれるような生き方をすればいい。自分のモニュメントを東芝に作ろう。そう思うようになったんです」

西室さんは当時の心境をこう語っていた。

迫りくる死を受け入れるなど、そうそうできることではない。つらいし、しんどいし、逃げたくもなる。でも、西室さんはその恐怖から逃げず、自分と向き合ったのだ。

光を見いだすとは、つまりは、こういうことなのだと思う。

「光」の存在は、「ホープ(HOPE)」という概念で説明され、近年欧米を中心に注目を集め、いかなる人もホープを持ち続け、あるいは再び持つことの重要性が叫ばれている。

ホープは直訳すると希望だが、希望とは若干ニュアンスが異なる。

「希望がある」というと、「頑張れば必ず報われる」とか、「未来に良いことがある」といった具合に、ポジティブな未来が待ち受けているような期待感や可能性を示す使われ方をする場合が多い。

これに対してホープ、すなわち「光」は、「逆境やストレスフルな状況にあっても、明るくたくましく生きていくことを可能にする内的な力」を指す。

少しばかり言い過ぎかもしれないけれど、いわゆる「希望」が環境で作ることができるものであるとするならば、「光」は自分で見いだすしかない。

光とは、すなわち、本気で自分がいる意味を問い、価値ある自分になろうともがき続けること。

家族のため、子供のため、好きな人のため、後輩のため、部下のため、はたまた社会のため……。そんな気持ちを持つことができた時、どんなに厳しい状況の中でも光を見いだし、前に進む勇気を持てる。

あなたの周りにも、“光”があるはずだ。

人生に光を見いだせない限り、精一杯生きることなどできない。だからこそ生きている以上、光を見いだし、前に進もう。

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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