「謹慎処分」のセレッソ大阪・乾貴士の復帰はいつなのか? 最悪の結末への不安
日本代表復帰待望論も高まりつつあった矢先の出来事
昨年8月末に10年ぶりに古巣・セレッソ大阪に復帰し、今季は森島寛晃(現社長)、柿谷曜一朗(現名古屋グランパス)らが背負っていたエースナンバー8をつけて挑んでいた元日本代表MF乾貴士。
4月2日の川崎フロンターレ戦では、Jリーグ新記録となるホーム26試合無敗に王手をかけていた昨季王者を粉砕する2ゴールをゲット。同日の2022年カタールワールドカップ(W杯)本戦抽選会で、日本がスペインと同組になったこともあり、ドイツで4年、スペインで6年プレーした経験のある乾の日本代表復帰待望論も高まりつつあった。
しかしながら、その注目の男が5日の柏レイソル戦で、交代時に小菊昭雄監督やコーチ陣らとの握手を拒否。副キャプテンという立場でありながら、不満を表に出したことが問題視され、当面の練習参加停止という謹慎処分を言い渡されたというから、驚きを隠せなかった関係者やサポーターも多かったはず。筆者ももちろんその1人だ。10日のヴィッセル神戸戦でベンチ外になったという事実を知り、衝撃を受けた。
事態はすぐに収束すると期待されたが…。
「負けている状況で、負けず嫌いの性格なので責任感の強さがああいう形になった。興奮してプレーしている状態ですので、そこはノーマルかなと思っています。
ただ、やはりそういった中でもセルフコントロールというのは当然していかないといけない。彼も学ぶことはしてほしい」と指揮官は神戸戦後の会見で乾のキャラクターに理解を示しつつ、改善を促した。
2008年にセレッソに移籍してきた乾。19歳の頃から近くで親身になって接してくれた小菊監督の言葉なら、すぐに聞き入れて、行動を正すだろう…。そんな見方も多く、事態はすぐに収束すると期待された。
ところが、13日のYBCルヴァンカップ・鹿島アントラーズ戦に向けた12日のオンライン会見で、筆者が現状を質問したところ、小菊監督は「乾に関してはですね、申し訳ないですが、ちょっとノーコメントということにさせていただきたいと思います」と多くを語らなかった。
「今、しっかりと競争しながらいい準備をしている選手で、明日をいい内容で結果を勝ち取りたいというふうに思っています。選手たちは引き続き、いい準備をしてくれていますし、一体感を持って昨日今日とホントに素晴らしい雰囲気で練習をしてくれました。明日の試合が今から非常に楽しみです」と、乾が離れた影響が全く出ていないことも併せて強調。現有戦力だけで当面の鹿島戦を乗り切る意向を示したのだ。
攻撃陣の陣容が充実。乾の今後は…。
確かに最近のセレッソは好調だ。J1は8戦終了時点で勝ち点12の暫定6位。冒頭の通り、川崎を撃破するだけの勢いを見せている。ルヴァンカップの方もAグループで3連勝中。3月26日の前節・大分トリニータ戦では中原輝らフレッシュな面々がゴールラッシュを披露しており、指揮官の中では「次の鹿島戦も若手中心の陣容で十分に戦える」という算段があるのだろう。
加えて言うと、4月に入ってから新外国人のジェアン・パトリッキがじわじわと調子を上げ、負傷離脱していた清武弘嗣も復帰。攻撃的MFの陣容も充実している。今、どうしても乾を戻さなければいけないわけではないのも確か。そういったチーム事情も彼の扱いをより慎重にさせていると推察される。
メンタルコントロールは自身も認める課題
ただ、懸念されるのはこの先。「乾をどうするか」という方向性が見えてこないことに、どうしても不安が募るのだ。
単なる選手交代時の態度、握手・挨拶拒否だけならば、普通に話し合いをすれば収められる話だろう。しかし、発覚から1週間が経過してもクラブから何のアナウンスもなく、本人の状況が不透明になっている現状はどうしても引っかかる。もしかすると我々の想定以上に深刻な事態に陥っている可能性もあるだけに気がかりだ。
「淡々とやれるなら、それはそれでいいと思いますよ。相手も分かりにくいし、メンタルによるプレーの波も出ないしね。自分はそういうのがコントロールできないから」
乾は今年2月の筆者のインタビュー時にこんな発言をしていた。
もともと感情の波が激しく、不満が渦巻くと自分でもどうにもならなくなる傾向があることを自身も理解している様子だった。それは小菊監督も話した通り、勝利への意欲や野心、闘争心や情熱が誰よりも強いからだ。気持ちを前面に出す若手が減ったと言われる今、こういう選手がチームに前向きなエネルギーを注入するケースは少なからずあるだろう。
とはいえ、スポーツ界におけるコンプライアンス意識が高くなった今、選手の発言や行動が何でも自由というわけにはいかない。間もなく34歳になるベテランフットボーラーの一挙手一投足は周囲への影響が特に大きい分、より規律ある行動が求められる。そういった認識が乾自身、少し甘かったのかもしれない。
アットホームなクラブだからこそ、求められる規律
森島社長、梶野智統括部長、小菊監督という10代の頃からよく知っている首脳陣が揃うクラブに10年ぶりに帰ってくれば、懐かしい気持ちにもなるし、「ある程度のことは許される」という感覚にもなるのも分かる。実際、セレッソというクラブは本当に和気あいあいとしたアットホームなクラブだ。だからこそ、お互いの距離感が近くなりすぎたのではないか。そのことに周りも早く気付き、本人も本気で自覚を持って行動していたら、ここまで世間を騒がせる事態にはならなかったかもしれない。
いずれにせよ、重要なのはこれからだ。クラブ側が乾のサッカー選手としての能力や経験を高く買っているのは紛れもない事実。「セレッソを優勝させたい」と意欲満々で戻ってきた男に大きな仕事をしてほしいという期待も強いはず。本人も「もう厳しく練習からやっていくしかない。練習で甘いことをやってたら、試合ではできないと思う。練習から高い要求をしながらバシバシやることが、タイトルを取るチームの絶対条件なんじゃないですか」と語気を強めていた。それを身を持って示せるだけの底力が彼にはある。クラブと選手本人が歩み寄り、信頼関係を再構築するチャンスは必ずある。お互いが同じ方向を見ることはきっとできるはずだ。
前向きな方向の早期解決が強く望まれる
昨年2月に浦和レッズのリカルド・ロドリゲス監督が、ルールを破った柏木陽介(現FC岐阜)のチーム帯同を認めず、そのまま退団になるという残念な出来事があったが、そういった結末だけは何としても回避してほしい。乾の早期復帰を望む声も少なくないだけに、彼らには最善の解決策を模索し、前向きな道筋を見出してほしいものである。