【衆院補選】大阪12区、自民敗北の衝撃~現代ニッポンの縮図地域から起こった改革への渇望~
1】「北川地盤」の崩壊~巨大な地殻変動~
夏の参院選挙の前哨戦と位置づけられた二つの衆議院補欠選挙(2019年統一地方選挙後半)の結果が、21日夜、出そろった。沖縄3区と大阪12区である。玉木デニー氏の知事転出で行われた沖縄3区補選は事前から屋良朝博氏の圧倒的優勢が伝えられており、ゼロ当確(開票と同時に当選確実がつくこと、”ゼロ打ち”とも)で驚きはなかった。
しかし衝撃だったのは大阪12区。こちらもゼロ当確だった。自民でも既存野党でもない”第三極”。日本維新の会の藤田文武候補(38)の勝利である。
同区補選は自民党の北川知克氏(環境大臣など歴任)の死去に伴い行われた。自民党は北川知克氏の甥にあたる北川晋平氏(32)を地盤継承の後継として”弔い合戦”の格好となり、当初は有利かとみられたが、ふたを開けてみれば維新の藤田氏に完全敗北した。
長らく続いた「常勝北川」「北川地盤」が崩れ去った瞬間である。更にすごいのはこの選挙区、小選挙区時代になってから以降、過去8回の国政選挙すべてでその議席を、自民党の北川知克氏と既存野党系の樽床伸二氏のふたりで分け合ってきた選挙区だったのである。今回、樽床氏も立候補していたが立候補4候補中及ばず3位だった。そこへ割って入ってきた”第三極”の勝利と自民党の敗北は、選挙史上まれにみる大番狂わせであり、特筆すべき巨大な地殻変動だ。
2】人口減少に悩まされ続けている大阪12区、現代ニッポンの縮図
はっきりいって大阪12区は、8年連続総人口減少と少子高齢化が止まらない現代日本の縮図、いやその前衛のような位置づけの地域である。
大阪12区は、大阪府の淀川南岸(北河内)に位置する寝屋川市を中心として、大東(だいとう)市、四条畷(しじょうなわて)市の3市にまたがる小選挙区だが、最大人口を誇る寝屋川市(人口23万人)、大東市(同12万人)は共に、1990年代中盤頃をピークに人口減少に悩まされている自治体である。
12区の中でもその市域の多くが奈良県に隣接する四条畷市(同5万人)は人口微増・微減が続くものの、大阪12区全体を見れば、日本全体の人口減少に先駆けて、バブル景気崩壊以後、20年以上前から人口の縮小と産業の空洞化に悩まされてきた地域だ。
まさに現代ニッポンの縮図、いやその最前衛といっても過言ではない。特に同区の中でも最大都市である寝屋川市は、筆者も在阪時代長く住んだ街として親しみ深い。
同市は淀川に沿うような形で、市の中心部を南北に京阪本線(京阪電気)が縦貫し、南部は「萱島(かやしま)駅」を中心として門真(かどま)市に隣接する。ここは昭和レトロな文化住宅や商店街、町工場がまだ数多く残存する。一方、北部にある「香里園(こうりえん)駅」は枚方市に隣接し山手に位置する準高級住宅地として、近年ではタワーマンションが続々建設されるなど再開発が進む。このように同じ市内でも色分けが極めて激しいのが寝屋川市の特徴だ。
高度成長時代、門真市に本社を置く松下電器産業(現・パナソニック)の企業城下町、あるいは企業下請け城下町として、隣接する寝屋川市の人口も急増した。それは松下の下請けの町工場に職工等として勤める、主に西日本出身者を中心とした労働者たちの吸収先としてであった。
3】パナソニック、三洋電機の企業城下町
ところが、高度成長と安定成長、そしてバブル景気が終わると、パナソニックが実質的に本社機能を東京に移転するのと同様に、この街にも不景気と産業空洞化の波が訪れた。
同時に、かつて下請け町工場等で働いていた多くの労働者たちは故郷に帰ることなく、在地で高齢化し、自治体財政は高齢化にともなう福祉費等の圧迫で急速に悪化していった。人口は大阪府下で、住宅地としてより人気の高い枚方市や北摂(高槻市・茨木市等)に移動し、高齢者ばかりが取り残される格好となった。
かつて白物家電で世界に名をはせた三洋電機も、この地域(北河内/守口市)を拠点として、門真・寝屋川一帯に巨大な城下町を作ったが、ご存知の通り経営悪化から2011年にパナソニックの完全子会社となって現在に至る。
方や、大東市と四条畷市は、私鉄である京阪本線ではなく、JR学研都市線が南北に縦貫する比較的新しい住宅地も目立つ街だが、三洋電機が伝統的に大東市にテレビ開発事業部の本拠地を置いたことから、大東市もまた例にもれず、寝屋川市ときわめて似た構造を持った企業の”下請け”城下町として同じような盛衰をたどった。
このように、大企業の成長と共に人口が増え、そして大企業の衰退と整理と共に、日本のどこよりも早い部類で人口減少が起こり、同じく産業が空洞化していったのが、大阪12区にある特に、寝屋川市と大東市の地域的特性だったのである。現代ニッポンの縮図たるゆえんである。
4】有権者は自民にも既存野党にもNO。”第三極”による改革を求めた
このような大阪12区の状況を鑑みると、「緩やかな衰退」の中で安住していた北川知克氏の地盤が崩れ去ったことは、この地域の縮小しつつある有権者の中にある潜在的な危機意識が、「改革」「刷新」を掲げる第三極の維新候補へ向かわせたとみるのは、当然の理屈といえるのではないか。
平成後期、大阪12区は人口減少と産業空洞化の中、自民党の基盤として「緩やかな衰退」を変えることのできぬままここまで来た。日本全体の人口減少に先駆けて自治体と産業のシュリンク(収縮)を経験してきた大阪12区の有権者は、自民党候補の継続当選を望まなかったし、さりとて既存野党系候補の当選をも拒否した。
先の見えない停滞と緩慢な衰退が、全国に先駆けて進む大阪12区は、日本の未来でありかつ縮図だ。今回の補選で、非自民、非既存野党の第三極が選ばれた意義は、今後、この国の政治や社会情勢を占う上で単なる「自民敗北」以上の大きな意味を持つと筆者は考える。「緩やかな衰退」の先にあるのは、自民党への期待でも、既存野党への期待でもない、全く新しい政治勢力への希求、渇望なのである、という重大な示唆を私たちは厳粛に受け止めなければならない。
今後、大阪12区のような、「自民にも、既存野党にもNO」を突き付ける選挙区は、この国の「緩やかな衰退」の延長の末に、必ずや続々と出現するだろう。(了)