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反対尋問でアンバー・ハードのボロが続出。ジョニー・デップが笑いを隠せない

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
笑顔で弁護士と話すジョニー・デップ(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 ジョニー・デップの名誉毀損裁判で、ついにアンバー・ハードの反対尋問が始まった。自分の弁護士によってハードの証言のボロが次々に出ていく様子を見て、デップは笑顔を隠すのに必死だった。

 1週間のお休みを経て、裁判は、東海岸時間16日午前9時に再開。この日の大部分は、ハードの弁護士の質問に対してハードが証言することに費やされている。後に控える反対尋問を意識してのことだろう、このやりとりの中では、デップから受けた暴力のせいでできた顔のあざを隠すためにハードが使っていたというコスメについても言及された。

 裁判の冒頭陳述で、ハードの弁護士は、4色のカラー・コレクターが入ったコスメを陪審員に見せて、「ジョニー・デップと一緒だった頃、アンバーはいつもこれをバッグの中に入れていました。彼女はこれを使っていたのです。違った色をどう混ぜるのかについては、彼女が証言で語ってくれると思いますが、状態によって混ぜ方を変えてあざを隠すのです」と語った。しかし、裁判の中継映像を見てそれが自分たちの商品だと気づいたミラニ・コスメティックスというブランドが、その特定の商品はデップとハードの離婚が成立しておよそ1年後にデビューしたものだと告発。これをデップの弁護士が放っておくわけがないと思ったハードのチームは、あえて同じコスメを再び出し、冒頭陳述で約束したとおり、ハードがどうやって色を混ぜ、あざを隠していたのかを説明した。ただし、ハードは、「正確にこれと同じ商品ではありませんでしたが」と言い逃れをしている。

このカラー・コレクターは、デップとカップルだった頃はまだ発売されていなかった。そのことについてハードは「正確にこれと同じではありませんが」と言い訳をしている
このカラー・コレクターは、デップとカップルだった頃はまだ発売されていなかった。そのことについてハードは「正確にこれと同じではありませんが」と言い訳をしている写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 ハードはまた、パパラッチに写真を撮られるので、あざがある時は必ず隠していたとも証言した。隠し方の手順は、まず氷で冷やし、ファンデーション、コンシーラー、そして例の4色のカラー・コレクターの順につけていくと、彼女は説明している。その証言に対し、ソーシャルメディアでは、「その順番はおかしい。普通はカラー・コレクターが先でファンデーションが後でしょう?」などという声が女性たちの間で上がった。

 また、ハードは、デップのDVを長い間ただ耐えていたことについて、「彼を守りたかったからです」と主張した。DV通報を受けて警察が来た時(通報したのは自分ではない、おそらく友達のひとりだとハードは述べている)、警察に加害者がデップだと言わなかったのもそれが理由だと、ハード。彼との離婚で求めていたのは自分の身の安全であり、お金ではないとも彼女は主張した。離婚に当たり、ハードがデップに要求するお金400万ドルから700万ドルまで吊り上げていったとデップのビジネスマネージャーは証言しているが、ハードは「私が数字を出したことはありません。それに、彼らがオファーしてくれたのはずっと高い金額だったのに、私はそれよりとても少ない金額で了承したのです。ジョニーのお金に興味はありません」と否定した。

 その700万ドルをアメリカ自由人権協会(ACLU)とロサンゼルス子供病院に寄付するとハードは公言したが、まだそのごく一部しか寄付をされていないことが、この裁判では明らかにされている。その理由を自分の弁護士に聞かれると、ハードは、デップがこの訴訟を起こしてきたから払えなくなったのだと述べた。「寄付をしたいけれども、もうできません。ジョニーが私を訴訟するのをやめてほしいです」とも、ハードは語っている。

暴かれる数々の矛盾

 だが、それらの言い訳は、デップの弁護士チームには通用しなかった。

 この日の終了まで1時間というところで始まった反対尋問でハードに鋭い質問の数々を投げかけたのは、女性弁護士カミーユ・ヴァスケス。ヴァスケスは、ハードが証言の中で具体的に出してきたデップによるひどい暴力の内容について、まず詳細をはっきりとハードに確認。たとえば、デップの暴力で鼻がつぶれたという事例や、ホテルのクローゼットで背中に膝を強く押し付けられたという事例などだ。その後に彼女は、「これは、その暴力を受けた翌日の写真ですね?」と、普通の鼻のまま笑っている写真や、「背中にあざができたのではと不安だった」と言ったわりに、背中が大きく開いたドレスを着てプレミアに出席した写真などをハードと陪審員に提示したのだ。

デップに暴力を受け、鼻がつぶれたという翌日の写真。デップの弁護士に「鼻が潰れたようには見えませんね」と言われると、ハードは「メイクをしていますから」と答えた(CourtTV)
デップに暴力を受け、鼻がつぶれたという翌日の写真。デップの弁護士に「鼻が潰れたようには見えませんね」と言われると、ハードは「メイクをしていますから」と答えた(CourtTV)

 それに対し、ハードは強気で「メイクをしていましたから」と苦しい言い訳をしたが、すでにソーシャルメディアでも大きな話題になった「The Late Late Show with James Corden」の映像をヴァスケスが流すと、顔をこわばらせている。ハードによると、この番組に出演する前夜、デップは彼女にひどい暴力を振るい、ハードの鼻はつぶれ、唇が切れて膨れ上がり、顔にあざができ、髪を引っ張られたせいで髪が抜け、あちこち血だらけになった。しかし、このテレビの映像に映っているハードは、明るくはしゃいでいて、暴力の形跡は一切見られない。その映像を陪審員が見る間、ハードの顔はどんどん下に向いていっている。

 また、ヴァスケスは、ハードがデップに接近禁止命令を出したというスキャンダルを報じる「People」誌の表紙を見せた。その表紙を飾るのは、あざのあるハードの顔写真。デップを守りたいと言っていた人がこのような写真をメディアに提供するのかと聞かれると、ハードは「写真を渡した相手は私の弁護士とパブリシストです」と言い、雑誌に渡したのは自分ではないと否定。そう聞いたヴァスケスは、「離婚の真っ最中にある時に、あなたの弁護士やパブリシストがこういう写真をメディアに提供するなんてことがありますか?」と鼻で笑っている。

「あなたは寄付をしないことを選んだのですね?」と追及

 最後にヴァスケスは、デップから訴訟されたせいでお金がかかるようになり、寄付したくても寄付ができなくなったというハードの言い訳を見事に打ち砕いた。

 証拠としてヴァスケスが持ち出してきたのは、2018年10月にハードが出演したデンマークのテレビ番組。その中でハードは「700万ドルは全部寄付したわ。私はお金なんてほしくないの」とはっきり言っている。そしてヴァスケスは、今回の名誉毀損裁判の焦点となった「Washington Post」の記事が出たのは2018年12月で、デップがこの裁判を起こしたのは2019年であること、先にビジネスマネージャーも証言していたとおり、デップはハードへの700万ドルの支払いを2018年2月1日に完了しているという事実を、書面も見せつつ強調。「つまり、あなたは寄付をしないことを選んだわけですね」と厳しく攻撃した。ヴァスケスはまた、これまでに支払われた寄付金についても、そのほとんどはデップが直接払ったものか、ハードが一時期交際していたイーロン・マスクの懐から出ていることも指摘した。「もらった700万ドルをできるだけ自分でキープしておきたかったからでしょう?」と聞かれると、ハードは何も答えられなかった。

 さらに、ヴァスケスは、ハードがイギリスの裁判でも、宣誓した上で「700万ドルをすべて寄付した」と嘘の証言をしたことに言及している。そのように「実際には寄付していない」と言われるたび、ハードは「いえ、私は寄付すると約束しました。私にとってそれらは同じ意味です」と逃げるので、ヴァスケスは「約束をした」と「寄付をした」は全然違うと苛立った様子で反論した。

 こんなやりとりの間、デップとデップのほかの弁護士たちは、明るい表情で声を潜めてお互いに何かを言い合ったりしていた。時間が来たため、反対尋問は途中でぶつりと終わり、明日に引き継がれることになったが、席を立ち上がったデップのチームにはリラックスした雰囲気が見て取れた。反対尋問は、まだ始まったばかり。明日、彼らはハードをどこまで追い詰めるだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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