ポケモンGOでAR拡張されるGoogleナイアンティックの野望
KNNポール神田です!
2016年7月6日から「アプリ」として配信となった「Pokemon Go」が拡張現実(AR)ゲームで、アプリのランキング1位を独占するなど話題となっている。
任天堂という側面から見ると、ゲームコンソールマシンから、スマートフォンでのゲームで初の成功の兆しが見えたようだ。任天堂の株価も急騰し、かつての任天堂の株価に復帰しつつある。しかし、これは任天堂という側面よりも、Google側の側面から観るほうがこのムーブメントを理解しやすい。いや、GoogleというよりもGoogleからスピンオフした事業会社、ナイアンテック社(Niantic,Inc.)に注目したい。
http://www.nianticproject.com/
2014年のGoogleのエイプリール企画から生まれた「Pokemon GO」
Googleの2014年4月1日、エイプリールフール企画として、任天堂の協力をもとに、Google Maps: Pokemon Challenge 2014が公開された。もちろん、Google MapsのAPI機能のアピールのための企画であった。当然、エイプリールフールだけども、ポケモンの世界観も織り込み済みだった。
151匹のモンスターを集めるとGoogleからポケモンマスターに認証されるという企画だった。
http://gigazine.net/news/20140618-google-pokemon-masters/
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1404/01/news075.html
そう、これがそのまま事業として2年の歳月をかけて進行したのが、「Pokemon GO」となった。Googleがそれをなぜ、できたのか?それは、Googleのジョン・ハンケJohn Hanke(現・ナイアンテック社CEO)氏の功績といいきっても過言ではないだろう。
ジョン・ハンケCEOが創りだしたAR拡張現実「イングレス」の世界
現、ナイアンテック社を率いるジョン・ハンケCEOは、Google Earthを生み出すこととなるKeyHole社を起業したことから始まる。そして、GoogleがKeyHole社を買収することにより、Google傘下となりGoogle EarthとGoogle MapなどのGeo部門の責任者となった。GoogleMapだけでなく、リアルな町を世界で撮影し地図化するというStreat Viewを手がけた手腕を考えると、単にジョン・ハンケが地図データのサービスをやりたいだけでないことがよくわかる。そう、リアルな世界をクラウド・データでサービス化しようとしているのだ。そしてハンケが生み出したのが、2013年10月開始の「イングレスIngress」だった。イングレスは、チームに別れてリアルな地図上に設定された「ポータル」を取り合うという陣取りゲームだ。そう、GoogleMapのデータと名所やスポットをマッピングもあわせてユーザーも協働して新たな価値を創造し、SFの世界観と共に成長してきた。そして、その開発陣がGoogleから2015年8月に独立スピンオフしたのが、ナイアンテック社だ。現在、株式会社ポケモン、任天堂株式会社、Google(現アルファベット)からも出資を受けている、まさに、Googleと任天堂のジョイントベンチャーとも言える。イングレスは企業の持つコンテンツとのタイアップも盛んであり、前出のエイプリールフールの企画で任天堂とつながりがあれば、任天堂とは、イングレス内だけのコンテンツ提携で終わるのではなく、キャラクターであるマリオや、ポケモンの世界観を独自にAR化できないだろうかという話しは出てきて当然だった。スマートフォンプラットフォームで出遅れた、故・岩田社長の悲願でもあったスマートフォン市場でのキャラクタービジネスがGoogleとならば成立する可能性が高いからだ。双方の利害が一致する関係が、ナイアンティックという事業体を産み、育まれた。
http://app.famitsu.com/20150910_568158/
ナイアンテックのField Tripモデル
ナイアンテック社は、イングレスのゲームだけでなく、実際の場所にカードを設置するというField Tripというアプリのサービスも展開しているので、コンテンツとジオデータビジネスのマッチングによって無限のジオデータビジネスのプラットフォームになる可能性を秘めている。もちろん、ナイアンテック社はGoogleMapやGoogle Earth,StreetView,Ingress,FieldTrip,そしてPokemonGoなどで世界で一番、ジオデータと人間の行動と収集癖や徘徊癖、関心に詳しい情報を持っている会社なのだ。Googleが、検索窓に打ちこむ検索ワードで人類がネットで知りたいことを世界で一番知っているように、地図データをクラウドデータにした時に人がARナビゲーションで何をしようとしているのかを世界で一番知る会社がナイアンテック社なのだ。
2020年、AR&VR 市場規模は1500億ドル(16兆円)
現在世界では40億台のスマートフォンとタブレットが使われており、2020年には60億台になるといわれている。さらに、AR&VR 市場規模は1500億ドル(16兆円)と予測され、その8割はARになるという。
この分野は、現在のスマートフォンやVRヘッドセットの拡張だけで終わらないというのが筆者の見解だ。AR/VRは表裏一体のビジネスでもあると思う。VR分野のビジネスや広告に強い電通のデジタルプラットフォームセンター足立光部長によると、「AR/VR分野については、2016年のソニーさんの参入で認知が一般に深まり、2018年がファーストウェーブとなるだろう。2020年の東京オリンピックの頃には、観戦や体験の50%はテレビ以外になる」と大胆な予測をしているほどだ。その市場そのもののは、AR/VRシェアというよりも、ポジショニングマトリックスの思考で考える必要がある。AR市場もVR市場も「いとこ同志の関係」にあたるとジョン・ハンケCEO氏は言う。
ARとプライバシーの先にあるもの
すでに、Pokemon Goがリリースされて一週間以内にいろんなトピックが世界を騒がせている。
むしろ気になるのがこのニュース記事だ。
この仕様は、Googleが提供しているサービスであったとしても、ユーザーに確認とそれが何を意味しているのかの説明は必須だろう。それが、関連子会社といえでも、スピンオフした独立事業、しかも外部の出資もある企業にGoogleの個人情報にフルアクセスに近い利用を許可しているのはオプトインとしては怖い。しかも若年層のユーザー層が大半であればあるほど、セキュリティの意識は希薄化していくだろう。Googleの関連企業であるから安心というほど、単純な問題ではない。影響力のあるプラットフォームになればなるほど、セキュリティには個々人の意識は重要だ。Googleのアカウントが乗っ取られてしまっては、自分だけでなく、ソーシャル全体に迷惑が及んでしまう現実社会でもある。
いずれにしても、日本でも近いうちに、PokemonGoをスマホで楽しめる日がやってくることだろう。イングレスの英語とインテリジェンスを必要とするルールで落ちこぼれていた筆者も、PokemonGoでは純粋にプレイに没頭して、外でダイエットしながらゲーミフィケーションに興じることができそうだ。新たなメディアは、常に完璧ではない、いくつもの問題と社会性とのミスマッチは存在する。それを超えていくのは、メーカーや事業者たちだけではない。ユーザーたちの熱量やマナーにも期待されている。