川島海荷が舞台で飛躍。16歳の役に「無理なことなんてないと思ってた自分を忘れず演じたい」
12歳でデビューして15年になる川島海荷が、本日が初日の舞台『ブライトン・ビーチ回顧録』に出演している。大御所コメディ作家ニール・サイモンの名作で、佐藤勝利(Sexy Zone)が演じる主人公が思春期の想いを寄せる16歳の少女の役。自身の青春時代から抱き続ける女優業への熱意と葛藤を聞いた。
同じシーンを何10回と追求するのが楽しくて
――去年から、上演中止になった作品も含めて舞台が続いています。海荷さんの希望からですか?
川島 ご縁もありますけど、舞台をやらせてもらうと鍛えられるというか、集中的に稽古して、いろいろなことが得られます。立ち止まってひとつの作品にじっくり取り組む時間があまりなかったので、自分自身と向き合う感覚もあって。スタッフさんと話して「舞台をやっていきたい」ということになりました。
――「いろいろなことを得られる」というのは、たとえばどんなことでしょう?
川島 ドラマや映画だと1シーンは何回かしかやらないところを、舞台だと稽古から何10回、何100回と追求していく。それが職人の作業みたいで、楽しいと思うようになったんです。同じシーンでも演じ方をちょっと変えるだけで、違う雰囲気になったり。演出家さんによっては「その解釈もアリだけど、こうやってみない?」と提案してくださって、自分でも役の考えていることを想像します。そうやって、いろいろ試せる時間、失敗してもいい時間があるのが楽しいですね。
演技が毎回変わっても許されるので
――舞台の本番ではどんな楽しさが?
川島 今回の『ブライトン・ビーチ回顧録』の演出家の小山(ゆうな)さんは「毎回違うでしょうから」と言ってくださいました。コンディションや気持ちの乗り方で、どのシーンも変わるだろうけど、「それでいいと思います」とのことでした。舞台って同じことを何回も繰り返すイメージがあるかもしれませんけど、少し解放して、いつもと違うことをやっても許されるんです。だから、そのときにしかできない演技をしていきたいと思っています。
――前回の舞台『ぼくの名前はズッキーニ』でも、“その日の公演ならでは”ということはありました?
川島 ありました。あるはずの物がその場所になかったり(笑)。ちょっとした手違いですけど、動揺も含めて笑いにしました。舞台にハプニングはつきもので、生ならではの雰囲気として、お客さんに体感してもらえたらいいなと思っています。
――生でお芝居をする緊張感はないですか?
川島 初日は心臓が飛び出るかと思うくらい緊張します(笑)。でも、やっていくうちに、何となく「ここで笑ってくれる」とかわかってきて。そういうお客さんのリアクションがあることで、より良い舞台になる感じがします。
普段の自分以上の力強さを出します
ニール・サイモンの自伝的作品で、ブロードウェイで上演が1306回を数える大ヒットとなった『ブライトン・ビーチ回顧録』。第二次大戦前夜のニューヨーク・ブルックリン地区の一角。ユダヤ人の少年・ユージン(佐藤)は野球選手か作家になるのが夢で、秘密の回顧録を書いている。両親と兄の4人家族で、夫に先立たれた叔母とその2人の娘も同居。いとこのノーラ(川島)はブロードウェイの演出家に呼び出され、女優になると言い出した。
――この取材が『ブライトン・ビーチ回顧録』初日の10日ほど前で、もうノーラ役は仕上がってきています?
川島 だいぶキャラクターが鮮明になってきましたけど、まだまだ課題もあります。7人しか出演しない舞台のギュッと凝縮された物語で、ずっと気を抜けません。集中力を切らしたら終わり。スピード感のある展開の中で流されず、押さえるところは押さえて、ノーラをちゃんと見せられたらと思っています。
――女優になるチャンスが来たけど家族の事情があって……という役どころで、感情移入はしやすいですか?
川島 ノーラは16歳の役で、自分より10歳以上若いんですけど、思っていた以上に大人びていて、しっかりしている子でした。だから、作り込みすぎないようにしています。私も負けず嫌いですけど、ノーラは私以上に芯が強くて、曲げない意志も持っていて。その力強さは普段の自分より増し増しで出したいです。
――泣くシーンも多いようで。
川島 この作品の中では常に悩んでいるので、すごく負荷はかかります。泣くお芝居もそんなに得意でないので。でも、ちゃんと気持ちから入りたくて、稽古から全力を出しています。それぞれの役に個性がある中で掛け合いも面白くて、やり甲斐はすごくあります。
何ごとにも120%のパワーを思い出しました
――後半の須藤理彩さん演じるお母さんと言い合うシーンは、見せ場になりそうですね。
川島 そうですね。本音を言い合うので、稽古で何回も詰めています。本番直前まで変わりそうなくらい、いろいろなことを試しています。
――実際にお母さんと言い合いをしたことは?
川島 ありますけど、もっと子どもっぽいケンカでした(笑)。ノーラはお母さんを論破して、言葉で説得しようとしますけど、私はそういうのは苦手で、子どもなことを武器にしてしまったり。そこでもノーラが大人っぽく思えました。
――確かにノーラは大人びているようですが、一方で、16歳ならではの思い込みも感じませんか?
川島 そうですね。快活な勢いや何ごとにも120%を出す感じは、私が忘れていたパワーがあるなと思いました。そのパワーが尽きないように、役に向き合いながら体力は本番に温存して(笑)、頑張ろうと思います。
――海荷さんの16歳の頃というと、ドラマ『怪物くん』や映画『私の優しくない先輩』に出演していました。当時の自分には、ノーラに近いところはありました?
川島 私も動き回っていました。落ち着かない、じっとしていられない。今回のノーラたちも、いろいろな意味で走り回っているので、そこは重なるかもしれません。子どもならではの後先を考えない行動。いろいろ計算して「これは無理」と、やる前から諦めることは皆無です。私も16歳の頃は「無理なことなんてない」と思っていました。天気予報で明日は雨となっていても、「絶対晴れる」と信じていたり(笑)。それくらいの勢いで、自分のやりたいことに突き進む感じは、忘れずに演じられたら。
高校時代に「一生続けよう」と本気になって
――海荷さんも一生のかかった選択を強いられたことはありますか?
川島 ノーラに比べたら、甘っちょろく生きてきたと思います(笑)。彼女はお父さんが亡くなって、お母さんはぜん息持ち。「自分が家族を支えなきゃ」と責任感を持っていて。今の私でも、ノーラより子どもかもしれません。一世一代の決断をするときは誰にでもあると思いますけど、彼女は若いうちにそれが来たんですよね。
――これまでの海荷さんの人生の中で、岐路に立ったことは?
川島 このお仕事を始めたときより、「一生続けられるように頑張ろう」と思ったときが分岐点だったかもしれません。たぶん高校生の頃で、ノーラほど力強くはないにしても、自分の中での決意があったと思います。
――はっきりとそう自覚した瞬間があったんですか?
川島 芸能人がたくさんいる高校に通っていて、間近な同年代の人たちの活躍を見ていたのは大きかった気がします。同じ環境にいて、「私も負けてられない。本気でやらなきゃ」という気持ちになりました。
怒られて泣いて、やめたいと思って最後に…
――海荷さんは小6でスカウトされて、中1で女優デビュー。最初からたて続けに連続ドラマ2本に出演しましたが、当時は幼いながらに、どんな意識で仕事をしていたんですか?
川島 ただただ楽しいだけでした(笑)。オーディションに行くのも、スタジオに入るのも、台詞を読むのも楽しい。もともとドラマを観るのが大好きだったので、その世界に自分が入れていることにめちゃくちゃ興奮しました。ただのミーハーでしたね(笑)。
――急に大人の世界に入って、戸惑いもありませんでした?
川島 それはなかったです。初めてのドラマから、まったく尻ごみはしなくて、有名な女優さんや大御所の方と共演させてもらっても、ビビった記憶はまったくありません(笑)。そういうところで、肝は据わっていたんでしょうね。
――先ほど岐路の話をうかがいましたが、出演して何かが変わったような作品もありました?
川島 高校生くらいが戦いの時期で、現場で毎日怒られてました。NGが何回も続いて、なかなかOKをもらえなかったり。『ブラッディ・マンデイ』の監督も厳しくて、毎回「もう帰りたい。やめたい」と思うくらい怒られて、悔し涙を流していました。でも、忘れられないのが、オールアップのとき、監督が肩をポンポンして「成長したな」と言ってくれたんです。一気に泣けてきて、「戦ってきて良かった」と思いました。とは言え、次の現場でも、その次の現場でもまた怒られて、鍛えられた時期でした。
――そんなに怒られていたんですか?
川島 自分の記憶の中では怒られたことが占めていて、実際の回数はそれほどでもなかったかもしれません。ただ、高校時代に強く印象に残っているのは怒られたことです。その分、「成長した」というのは私には一番の誉め言葉で、またそう言ってもらえるように努力してきました。
楽しむ気持ちを忘れないように
――デビューから15年の中で、本気で「やめたい」と思ったこともあるんですか?
川島 何回かはあります。好きなことをやらせていただいている自覚はあって、恵まれているとは思っていたんです。ただ「自分には向いてないんじゃないか? 違う仕事をしたほうがいいんじゃないか?」と悩んで、いろいろ考えた時期はありました。それでも、「楽しいから、できれば続けたい」という気持ちはなくならなかったので、ここまでやってこられたんだと思います。
――今、女優として大切にしていることは何かありますか?
川島 それこそ、楽しむ気持ちは忘れないようにしたいです。10代の頃は無我夢中でやっていたのが、大人になると仕事として大変なこともあります。それでも根底では好きでやっているので、初心というか、若い頃の気持ちは大切にしています。
――現場にいるだけで楽しかった感覚を。
川島 スタッフさんと話しているだけでも楽しかったです(笑)。今も楽しくやらせてもらってますけど、いろいろな時期があって。去年はコロナ禍で舞台が中止になって、改めて「この仕事が好きなんだ」と気づくきっかけにもなりました。
見た目はどうあれ中身はちゃんと大人になれたら
――映像では最近、『IP~サイバー捜査班』やドラマ『家、ついて行ってイイですか?』で、染みる演技を見せてくれました。白無垢姿を披露したり、童顔と言われていた海荷さんも大人の顔をのぞかせるようになりましたね。
川島 どうですかね。今度の舞台も16歳の役ですけど(笑)。でも、実年齢より若く見られるのが昔はコンプレックスでもあったのが、今は強みと考えています。若い役も演じながら、自分自身の人間性を深めて、見た目はどうあれ中身がちゃんとある大人になりたいです。
――30代も視野に入ってきた中で、自分の将来像も描いていますか?
川島 好きなことを続けて、いつも生き生きしている自分でいたいです。あと、いろいろな世界を見てみたい気持ちもあります。舞台でも現場ごとに持ってなかったものを得られますし、たくさんの経験をして、ひとつひとつを積み重ねて、30代に向かっていけたらと思います。
――『ブライトン・ビーチ回顧録』では、どんなことが得られそうですか?
川島 活発な役で、キャラクターがみんなキラキラしている雰囲気の中で、瞬発力を求められていて。私は普段のんびりしがちですけど(笑)、今回「こんなに機敏に動けるんだ。ハイテンションになれるんだ」と感じています。そこが新しい自分だなと思います。
撮影/増田彩来
Profile
川島海荷(かわしま・うみか)
1994年3月3日生まれ、埼玉県出身。
2006年にドラマ『誰よりもママを愛す』で女優デビュー。主な出演作はドラマ『アイシテル~海溶~』、『怪物くん』、『ヘブンズ・フラワー』、『花燃ゆ』、『いだてん~東京オリムピック噺~』、映画『Life 天国で君に逢えたら』、『私の優しくない先輩』、舞台『あたらしいエクスプロージョン』など。『アイ・アム・冒険少年』(TBS系)にMCとして出演中。
舞台『ブライトン・ビーチ回顧録』
9月18日~10月3日/東京芸術劇場プレイハウス
10月7日~10月13日/京都劇場