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星野源 最新主演ドラマ『プラージュ』は、「生きづらさ」と「再生」の物語

碓井広義メディア文化評論家

星野源さんの最新主演ドラマ『プラージュ』

ヒット作『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の後、次の出演作が注目されていた星野源さん。その主演ドラマが、現在放送中の連続ドラマW『プラージュ~訳ありばかりのシェアハウス~』(WOWOW 土曜夜10時)です。

主人公は、旅行代理店の社員だった吉村貴生(星野源)。酒に酔って見知らぬ連中について行き、よせばいいのに覚せい剤を試してしまいます。案の定、警察が踏み込んできました。

逮捕されて、裁判。執行猶予付きとはいえ、立派な「前科一犯」となったのです。会社はクビ。さらに住んでいた部屋も火事で失った貴生が紹介されたのが、カフェも営むシェアハウス「プラージュ」でした。ここが物語の舞台です。

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魅力的な「訳あり」の面々

プラージュのオーナーは、朝田潤子(石田ゆり子)。独身みたいですが、詳細は不明です。そして、ここには貴生同様、まさに「訳あり」の人たちが暮らしていました。

小池美羽(仲里依紗)は、路上で誘われた男とホテルに行くことで稼いだりしています。かなりヘビーな体験をしてきたらしく、自分と社会との距離感がうまくつかめません。保護司の老人からは、「もっと自分を大切にしなさい」と言われています。

矢部紫織(中村ゆり)は、コカイン所持の容疑で逮捕歴があります。親切な弁当屋さんでアルバイトをしていたのですが、逃亡中の元カレが訪ねてきたことで、警察にマークされるようになりました。結局、そのために店を辞めることになります。

また古着屋で働いている中原通彦(渋川清彦)は、恋人を守るために人を殺めた過去をもっています。さらに加藤友樹(スガシカオ)は殺人の罪で5年間服役し、現在は再審公判中。

その加藤を題材に記事を書いている、覆面ライターの野口彰(眞島秀和)もプラージュの住人です。潜入取材を続けていた彼が書いた記事の見出しは、「日常に潜む殺人鬼」でした。

そんなシェアハウスに加わったのが、思わぬことから「前科者」となった貴生なのです。さっそく再就職しようと動きますが、ハードルが高いことを痛感します。とりあえず、カフェを手伝うアルバイトをすることになりました。

「生きづらさ」と「再生」の物語

というわけで、ここに暮らしているのは、「訳あり」どころか、かなりの「生きづらさ」を抱えた人たちです。

犯した罪はつぐなってはいますが、一旦、元犯罪者とわかれば、世間の目は厳しくて、普通に暮すこと自体が困難。いや、「普通に暮すこと」を許されないのが現状です。

そう、このドラマの根底には、「犯罪者は社会に受け入れられるのか」という重いテーマがあります。しかしこのドラマ、決して重くて暗いわけではありません。星野源さんならではの“おかしみ”と“軽み”が、絶妙の劇的空気感を醸し出しているからです。

それに、石田ゆり子さんをはじめとするプラージュの面々は、いずれも芸達者。特に仲里依紗さんは、『あなたのことはそれほど』『黒革の手帖』と、このところ絶好調です。

心の傷が原因だと思うのですが、感情をどう表現したらいいのか、どうしたら相手に伝わるのか、それがつかめない女性という難しい役を好演しています。

全5話のうち、第3話までが放送されました。住人たちについても、徐々にいろんなことがわかってきましたが、まだまだ謎が多いです。

また、ドラマの冒頭で描かれたシーン、“殺害現場”の真相も明かされていません。そして何より、彼らと貴生の「再生」への道はひらけるのか。

「向こう側」と「こちら側」の境界線・・・

原作は、『ストロベリーナイト』などで知られる誉田哲也さんの同名小説。そちらはライターの野口の視点を生かした、巧みな構成になっています。

ドラマ化に際して、かなりアレンジされていますが、大浦光太さんと吉田康弘監督による脚本はよく練られていて、この「生きづらさ」と「再生」の物語、最後まで油断は禁物です。

そうそう、タイトルのプラージュは、「海辺」とか「浜辺」を意味するフランス語だそうです。それは海と陸の境目ではありますが、どこか曖昧です。ましてや人間においては、「向こう側」と「こちら側」の境界線は、あるようでないのかもしれません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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