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都議選前に「豊洲移転」決断?それでも小池旋風が強い3つの理由

米重克洋JX通信社 代表取締役
築地市場を視察した小池知事(写真:アフロ)

小池百合子知事のもと、2月の千代田区長選では支援した現職がトリプルスコアの圧勝を収め、都議選でも「過半数」確保を目指して積極的な擁立を続けている都民ファーストの会。板橋区には女優の平愛梨さんの弟を擁立するなど、話題性ある候補も登場し始め、俄然注目度が高まっている。

一方、築地市場の移転問題については、移転先の豊洲新市場の「安全」と「安心」のバランスが盛んに議論されるなか、急速に豊洲への移転を前提とした環境整備ともとれる動きが進んでいる。

知事が新たに設置した「市場のあり方戦略本部」の本部長には、昨年盛り土問題で処分された中西充副知事がつき、知事自身も豊洲問題を「旗印には考えていない」とするなど、過去「争点になる」としてきた発言からかなり後退した印象だ。加えて、30日には都議会で公明党都議が「豊洲移転に向け着実かつ確実な前進にとりかかるべきだ」と、「渡し舟」ともとれるような踏み込んだ発言をするに至った。

このまま仮に、小池知事が豊洲新市場への移転を決断したら、そして、それを都議選前に行ったら、都議選の結果に対してどう影響するのか―。昨年の都知事選と、これまで紹介してきた直近3ヶ月の独自世論調査の内容をもとに分析したい。

※これまでに公開してきた個別の世論調査の結果は、筆者のこれまでの記事一覧から参照いただきたい。

2大ボリュームゾーン「無党派」「自民支持層」に支えられて

昨年7月の都知事選では、我々を含む各社の情勢調査や出口調査に共通した傾向として、小池知事が無党派層の多くと自民党支持層の過半数を確保したことが示されている。無党派層と自民党支持層は、ここ数年の日本の選挙で最も大きい、いわば「ボリュームゾーン」であり、そのいずれもから十分な支持を確保したことが、次点候補に対して100万票以上もの大差をつけて圧勝する要因となった。

中盤時点の態度既定者ベースでも「無党派」「自民党」のボリュームが他を圧倒
中盤時点の態度既定者ベースでも「無党派」「自民党」のボリュームが他を圧倒

知事に就任して半年だが、この傾向は変わらないどころか、むしろ強化された感がある。就任後の支持率が我々の調査で7割弱、最高レベルでは8割台に達している背景には、この強力なボリュームゾーンの獲得をしたうえで、更に民進や共産をはじめとする国政野党の支持層も上積みしていることが大きい。

今月25日・26日実施のJX通信社都内世論調査より(詳細は26日記事参照)
今月25日・26日実施のJX通信社都内世論調査より(詳細は26日記事参照)

これらを踏まえると、小池知事が自発的に自民党を離れないできたことにも「支持の繋ぎ止め」という戦略的な観点では合理性がある。ただ、小池知事に限らず、高い知名度と支持率を誇る「人気首長」は、その任期が後半に近づけば近づくほど、その政策展開や言動により、全方位から支持を集め続けることは困難になる。元の支持母体だった自民党・公明党を敵に回して大阪都構想をぶち上げ、大阪維新の会を設立した橋下徹大阪府知事(当時)はその代表例だ。

小池知事を取り巻く現状はといえば、豊洲新市場の地下水から基準値を大幅に超えるベンゼンやシアンが検出されても「地下水は使わないから科学的には安全」(都専門家会議・平田健正座長)とか「科学が風評に負けることはあってはならない」(石原慎太郎・元都知事)などと批判され、更には我々や日本テレビの世論調査で豊洲への移転に賛成する声が、反対の声を上回る結果となっている。加えて、小池知事の築地市場移転問題への対応そのものへの評価もやや下がっている状況だ。言ってみれば、一時の豊洲危険論が急速に鳴りを潜め、早期に移転決断を迫る声の大合唱に変わりつつある。

こうしてみると、一見、小池知事は追い込まれているようにも見えるが、実際にそうなのだろうか。

豊洲「移転」判断は知事に不利なのか

仮に小池知事が豊洲新市場への移転を決めれば、豊洲に反対してきた共産や民進などの支持層は一定程度離反する可能性が高い。特に共産党は、豊洲への移転に一貫して強く反対してきた経緯がある。

しかし一方で、現在の共産党は都政では「野党」なのかという疑問も残る。それを体現するのが、小池都政下で初めての本格予算である平成29年度の予算案だ。共産党はこの予算案に賛成し、結果として都議会は「全会一致」で小池知事の政策実現を追認する格好になった。都議会が全会一致で予算案を可決するのは、実に44年ぶりという。前回は革新美濃部都政のもとでのことだった。

更に、民進党に至っては、予算案に賛成しただけでなく、それ以前に旧民主党系と旧維新の党系の2つに分かれていた都議会会派を統合し、わざわざ知事のキャッチコピーにあやかった「東京改革議員団」という会派名を付け直すまでして距離を縮めた。

こうした党派が、仮に豊洲への移転に反対する立場で都議選を戦うとして、一度認めた小池都政下の他の政策への賛否はどうするのか。そして、どこまで支持層をまとめられるのか。大いに疑問だ。

そして、それよりも更に困るのは都議会自民党だろう。

そもそも市場問題を重視して投票する有権者は少ない(3月25日・26日調査より)
そもそも市場問題を重視して投票する有権者は少ない(3月25日・26日調査より)

小池知事自らが選挙前に移転を判断すれば「早期移転」を求めて公約に盛り込む構えすら見せている自民党にとっては「攻めどころ」が失われることになる。しかも、自民党もまた事実上の都政野党の立場でありながら予算案に賛成したことで、他の政策的争点を設けるオプションはほぼ失われた。

結果、移転反対派の有権者の受け皿は実質的には共産党しかなくなる。これは、非共産支持層の移転反対派にとっては事実上投票先が失われることをも意味する。そもそも「豊洲」が有力争点に浮上したことはない。こうして小池知事が弱点になりかねない「豊洲の争点化」を潰すカードを切れば、都議選は再び小池知事の信任投票に立ち戻るだろう。

政策課題より期待感・イメージ先行?全方位から支持

ここで改めて確認すべきなのは、小池知事は「豊洲」や「五輪」で都政がクローズアップされる機会を作ったが、都民は「豊洲や五輪をなんとかしたいから知事を支持しているわけではない」という実態だ。その証左となるのが、我々の世論調査で聞いた「有権者が都議選での投票時に重視する政策課題」についての回答だ。

「投票の際に重視する政策課題」1〜4位別の支持動向(今月25日・26日調査より)
「投票の際に重視する政策課題」1〜4位別の支持動向(今月25日・26日調査より)

実は、就任後約9ヶ月の間に知事が仕掛けた「五輪」そして「豊洲」の二大問題はこの直近3回の調査で「都議選で重視する政策課題」には上がってきていない。いずれもずっと下位であり「経済」「福祉」「教育」などを重視するとした有権者が圧倒的多数という結果になっている。

この傾向を踏まえたうえで、1月の情勢記事で指摘したポイントを改めて引用しておきたい。

ここで注目したいのが、有権者が主要な争点とみなしている全てのテーマで、小池知事への支持が圧倒的に多いという点だ。言い換えると、政策課題の内容に関わらず知事の支持率がかなり高い傾向がある。これが現在の小池都政を支える世論の特異なポイントだ。

例えば、同じ「都市型政党」でも、大阪維新の会の候補の場合は、教育・子育てなど若年層、現役世代寄りの政策で強く出やすい一方、福祉など高齢者世代向けの争点では弱くなる傾向がある。小池知事の支持動向にはそういった争点や世代別の「差」は少ない。今後在任期間が伸びるにつれこうした傾向は変わり得るが、今はまだその兆候が殆ど見られない。その意味では、現在はシンプルな「期待感」や「イメージ」で支持獲得が先行していると解釈できる。

政策課題を問わず知事の支持率が高いこと、「豊洲」「五輪」はこれだけクローズアップされながらも有力な争点に浮上していないことは、つまり事実上最大の争点が「小池知事自身」であることを示す。要は、まず「小池印」へのイエス・ノーがあって、その後に政策ー というのが有権者の現在の心理ということだ。

出典:1月の拙稿 "迫る東京都議選 1番手に「都民ファーストの会」=JX通信社 都内世論調査"より

1月に筆者が指摘したこの傾向は、間もなく4月になろうという現在でも殆ど変わっていない。

こうした状況を踏まえると、「風」とは、政策の中身に関わらず広く支持を受ける状態のことを指す― こう言ってもよいのではないだろうか。そして、その「風速」が非常に強い勢いになっている現象を我々は「小池旋風」と定義づけられるのではないか。更に言えば、その旋風の「風速」が強いことは、これまでの都政と有権者の距離感の遠さの裏返しでもあるだろう。となると、「政策論争が無い」「具体的な争点がない」などという決まり文句だけで否定し得るものではない。

小池知事にとっては、都議選前にも難しい「豊洲移転」の判断を下すのに好適なタイミングがいくつかある。そのひとつが、都の専門家会議が豊洲新市場の安全性について報告書をまとめるとみられる6月だ。

こうしたタイミングで「豊洲」というハードルを乗り越えられれば、小池知事は、現状の勢いを都議選までの今後3ヶ月間維持して多くの議席を得ることが出来るだろう。しかし、噂される都民ファーストの会自体の国政進出や、知事自身が望んでいるであろう「次期首相」としての国政再転出を叶えるには風ではなく「凪」の状態で支持を定着させる必要がある。

これが、都議選後の小池都政最大の課題になるかもしれない。

JX通信社 代表取締役

「シン・情報戦略」(KADOKAWA)著者。1988年(昭和63年)山口県生まれ。2008年、報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、テレビ局・新聞社・通信社に対するAIを活用した事件・災害速報の配信、独自世論調査による選挙予測を行うなど、「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

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