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ピッチクロックの影響を最も受けるのは大谷翔平?!今季導入の新ルールを徹底分析

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
二刀流として他投手以上にピッチクロックの影響を受けそうな大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【米メディアの関心はWBCより今シーズン導入の新ルール】

 エンジェルスを含めたMLB30チーム中17チームが現地時間の2月15日、バッテリー組の練習初日を迎え、いよいよ本格的に2023年シーズンがスタートした。

 日本では侍ジャパンの宮崎合宿が2月17日からスタートすることもあり、MLB関連のニュースもWBCを絡めて報道される傾向が強いようだが、米メディアの関心は、WBCというより今シーズンから導入される新ルールに向いているようだ。

 新ルールの1つとして本塁べースを除くすべてのベースが拡大されるが、多くの米メディアが新旧ベースを比較する画像をSNS上に投稿している。

【投球間にかなりの時間を要していたダルビッシュ投手と大谷選手】

 中でも試合運営に最も影響を与えそうな新ルールが、ピッチクロック(MLBではピッチタイマーと表現しているようだ)だろう。

 日本でもすでにピッチクロックについて解説される報道がなされており、投手は走者なしで15秒間、走者ありで20秒間の制限時間が設定され、時間内に投球動作に入らなければならないことを承知している人も多いのではないだろうか。

 またこれまで投球間に比較的時間を要すると指摘されてきたダルビッシュ有投手や大谷翔平選手は、ピッチクロック導入で投球への影響も懸念されている。

 そんな中MLBネットワークが、ダルビッシュ投手の契約延長合意を報じた際に、興味深いデータを紹介している。昨シーズン500球以上を投げた投手の投球テンポを調査した結果、大谷選手は21.7秒、ダルビッシュ投手が21.0秒だったことを明らかにしている(画像参照)。

(MLBネットワークから引用)
(MLBネットワークから引用)

 ちなみにMLB平均は18.1秒なので、2人が平均以上に遅いテンポで投げており、昨シーズンまでのテンポでは走者がいる場合でも、基本的にピッチクロックに違反することになってしまうわけだ。

 ダルビッシュ投手や大谷選手のみならず、MLB平均でさえ走者なしの15秒間を超えている状態なので、多くの投手がオープン戦でピッチクロックの適応を求められることになりそうだ。

 そんな状況でありながら、ダルビッシュ投手にWBC終了までのスプリングトレーニング参加免除を許したパドレスの判断はやはり驚きだが、その分だけダルビッシュ投手への信頼が高い証でもあるわけだ。

【投手のみでなく打者もピッチクロックの適応が必要】

 だがここまで説明した内容は、ピッチクロック・ルールの一部でしかない。実際はこれだけに止まらず、ピッチクロックは投手のみならず打者にも適用され、やはり対応が求められるものなのだ。

 投手の場合、前述の制限時間内に投球動作に入ってないことが確認されると、自動的にボールが宣告される。

 一方打者の場合、すべての投球に対しピッチクロック残り8秒までに打席内で投手と対峙する姿勢を示す必要がある。これに違反すると投手とは反対に、自動的にストライクが宣告されてしまうのだ。

 しかも投手とのタイミングが合わない場合、打者は球審にタイムアウトを要求できたが、それが今シーズンから1打席あたり1回に制限されるのだ。当然打者も、オープン戦で確認作業が必要になってくる。

【大谷選手のみ影響を受けそうな攻守交代の制限時間】

 さらにピッチクロック・ルールには、前打者から次打者を迎える際に30秒の制限時間が設定されているほか、攻守交代時も2分15秒(ただし全国放送は2分40秒、ポストシーズンは3分10秒)の制限時間が設定されている。

 昨シーズンからユニバーサルDH制が導入されたことで、基本的に投手は投球に専念できるため、攻守交代の制限時間の影響を受けにくいと考えられる。

 ただし二刀流としてDH解除で試合に臨む大谷選手の場合、打者や走者で攻撃が終わるケースが生じ、他の投手より準備に時間を要することになる。これも大谷選手は適応していかねばならない。

【ピッチクロック・ルールに含まれる牽制球の制限】

 またピッチクロック・ルールには、牽制球の取り扱いの変更も含まれている。

 前述した通り、走者ありの場合20秒の制限時間が設けられているが、牽制球を投げる、もしくはプレートから軸足を外した際は、制限時間がリセットされる。

 だが牽制球もしくはプレートから軸足を外す行為は、今シーズンから打者1人あたり2回に制限されることになり、3度目を行った時点で(牽制球で走者をアウトにした場合を除く)投手にボークが宣告され、走者が進塁できるようになった。

 この点でも、投手は適応を求められることになるわけだ。

【マイナーでは経験を重ねれば違反数は徐々に減少傾向に】

 オープン戦である程度の準備期間が与えられるものの、やはり導入直後は適応していくのは簡単ではなさそうだ。その一方で、シーズンが経過していき経験を重ねていけば違反数は減少していくようだ。

 MLBが発表した資料によれば、試験的にピッチクロックが導入されたマイナーリーグでは、導入2週目は1試合あたりの平均違反数は1.73だったのだが、シーズンが経過するごとに減少していき、導入21週目には0.45まで減っているようだ(画像参照)。

(MLB公式サイトから引用)
(MLB公式サイトから引用)

 いずれにせよ、シーズン開幕直後は投手のみならず打者もピッチクロックの対応に追われることになりそうだ。

 特にWBCのため所属チームを離れる選手たちは、短い期間で準備していかねばならない。彼らにとって何かと慌ただしいスプリングトレーニングになるのは間違いないだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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