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総合的な選手層の厚さで、アメリカの初のWBC制覇

豊浦彰太郎Baseball Writer
決勝戦で快投を見せたストローマンはMVPに。(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

試合開始の2時間前にドジャー・スタジアムに到着すると、すでにプエルトリコサポーターのお祭りムードは最高潮に達してた。唄って踊って、打楽器叩いてシャウトして・・・

彼らは準決勝のオランダ戦でも相当なテンションだったのだけれど、この日は一層ヒートアップしていた。まあ、そうだろう。なにせ、念願の世界一(敢えてこの表現を用いよう)まであと1勝に迫っていたのだから。

しかし、そんな彼らも試合が始まると中々盛り上がれない。何せ、7回に先頭のエンジェル・パガーンがレフト線に二塁打を放つまで、無安打だったのだ。チームUSAのジム・リーランド監督はそこで先発のマーカス・ストローマンを引っ込めた。ノーヒッターを継続していた投手が初安打を献上すると、即降板させられるのはメジャーでは良くある話だ。しかし、リーランドは彼がノーノー中でなければ、68球を投げていた6回終了時点で交代させていたはずだ。何せ、準決勝の日本戦では完璧な投球を続けていたタナー・ロアークをわずか48球で降板させたのだ。WBC決勝ラウンドでの球数制限は95球であるにもかかわらず。やはり、スター集団(これでも)の監督にとって、勝利以上に大切なのは、自らの起用の過失で選手を故障させないことなのだ。

逆に、プエルトリコは先発のセス・ルーゴを引っ張りすぎた。これは、同チームに限ったことではないが、中南米諸国は、野手にはバリバリのメジャーリーガーを揃え強力打線を誇っていても、投手陣は層が薄く、先発がそれなりに踏ん張らないと後が苦しい。もっともこのことは偶然ではない。故障のリスクが大きい投手の方が、高給のメジャーリーガーの参加を募るのが難しいのだ。したがって、プエルトリコは決勝戦では昨季メッでメジャーデビューを果たした先発のルーゴがどこまでイニングを消化できるかがポイントだった。

勝負は時の運だ。8対0の点差ほど両軍の力量に差があったわけではない。事実、2次ラウンドでは、プエルトリコはストローマンを攻略し、米国を下している。しかし、この決勝戦のようにビハインドの展開になると、投手陣の層の薄さを露呈したと言えるだろう。逆に言えば、マイク・トラウトやクレイトン・カーショウ抜きでも、アメリカの総合的な戦力は群を抜いていた。

初のWBC制覇を果たしたアメリカには心からの賞賛を贈りたいが、リーランド監督の選手起用には一言述べておかねばならない。

前述の通り、先発投手の替え時は戦術より各球団への配慮が重視されたように思う。また、準決勝の日本戦で8回に守護神格のマーク・メランソンがピンチを迎えると、左打者の筒香嘉智を迎えた場面で左打者を苦手とする変則サイドハンドのパット・ネシェクを投入したのは結果オーライだったが不可解だった。決勝ラウンドから参加のメランソンには、投球数で配慮すべき前提があったのだろうか。また、一戦必勝のシリーズでありながら、捕手はバスター・ポージーとジョナサン・リクロイをきっちりローテーションで起用した。デール・マーフィーやアレック・ブレグマンらはほとんど出場の機会がなく、ポール・ゴールドシュミットも限られた出番しか与えられなかった。一方で、ノーラン・アレナードは三振の山を築いてもスタメンから外れることも、打順が下がることもなかった。恐らく、所属球団との約束事もあったのだろうが、このフレキシビリティのなさは気になった。

今回の米国による初の制覇で、WBCはどのように影響を受けるだろうか。願わくば、全米的な関心喚起に繋がって欲しい。「ベストメンバーでなくても、やっぱりアメリカは強いじゃないか」で終わってしまうと、今後とも有力選手、それも先発投手の参加回避傾向が続いてしまう。そして、それは、ファンの注目を集めるという点でプラスにならない。

ぼくは、最終のアウトを見届けると、そのまま徒歩でユニオン・ステーション向かった。深夜便で帰国するからだ。ユニオン・ステーション発の空港行きバスには、ぼくと同じ行動パターンの日本人ファンが少なからずいた。ロサンゼルス国際空港のターミナルには応援コスチュームに身を包んだプエルトリコのサポーターも多かった。そうか、みんなタイトなスケジュールをやり繰りして、この4年に一度の野球の祭典に駆け付けているのか、と思うと妙に親近感が湧いてきた。また、4年後に会おう、と心の中で呟いた。おっと、その前にプレミア12もあるな。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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