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孫正義校長率いる『ソフトバンクアカデミア』の異端・異能者たち

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
1月31日(水 )午前10時締め切りのソフトバンクアカデミア募集ページ

KNNポール神田です。

ソフトバンクグループの子会社、ソフトバンクロボティクスから2018年1月23日に、異例のリリースがメディア向けに送られた。

ヒト型ロボット「ペッパー」の「父」は誰――。ソフトバンクロボティクスが23日、報道各社に対し、OBで家庭用ロボットを作る「グルーブX」社長の林要氏を「ペッパーの父」「生みの親」などと呼ばないよう要請する文書を出した

出典:「ペッパーの父は孫正義ただ一人」 ソフトバンクが要請

記事は、「孫正義 VS ソフトバンクOB」の構造で書かれているが、よく読むと…子会社のソフトバンクロボティクス側からのマスコミへの要請であることがわかる。また、「ソフトバンクOBめぐり騒動 孫氏と“愛弟子”の因縁」とされる記事で「ソフトバンクアカデミア」が取り上げられている。筆者もソフトバンクアカデミアの外部一期生なので当然気になった…。

「ポスト孫」の期待も寄せられた林氏 林氏はソフトバンクロボティクスを退職して起業したが、今でもソフトバンクとつながりがある。それも、孫氏と深い絆で結ばれているのだ。「ソフトバンクアカデミア」。これからのソフトバンクグループを担う後継者の発掘、育成を目的として開設されたもので、2~3カ月に1~2回、ソフトバンクグループの経営課題を題材としたテーマに基づくプレゼンテーション、経営をシミュレーションするゲーム、アカデミア生による自主勉強会などを行っている。

受講生には内部と外部があり、アカデミアの開校時には「孫さんの後継者になれるかもしれない」と応募者が殺到して、ニュースになった。林氏は外部の栄えある1期生で、今も受講生として参加しているのだ。

出典:「ペッパー」の生みの親はどちら? ソフトバンクOBめぐり騒動 孫氏と“愛弟子”の因縁

今回のリリースを見ても、かなり「孫氏と“愛弟子”の因縁」とはかけ離れた印象があるので、アカデミアの事について書いてみたいと思う。あくまでもソフトバンクアカデミアのNDA守秘義務の範疇でだが…。

『ソフトバンクアカデミア 』とは何か?

アカデミアが設立された時は、約4000人の応募者がいた。その中から300人が選ばれた。東大や米国のプリンストン大学より合格率が低い。アカデミアの約半分はソフトバンク社員で、残りの多くは起業家だ。年齢が20歳から45歳の間ならだれでも応募できる。書類審査と2回のプレゼンを経て合格者が決まるが、毎年、成績下位の20%は入れ替えられる。

参加者が毎回ビジネスの課題に取り組み、勝ち残った1人が米国の不動産王ドナルド・トランプ氏の会社に役員として迎えられる全米でヒットしたビジネス・バトル番組「アプレンティス」を彷彿(ほうふつ)とさせるシーンが、そこでは繰り広げられている。「アカデミアはリクルーティング組織ではないので、うちに来てよということはないが、結果としてグループに入ってくることもプロセスとしては発生する。その時、個人として来るのか、会社としてグループになるのか、どっちかというのが普通の流れだろう」と、人材開発部長の源田泰之氏は語る。

出典:ソフトバンク 孫氏後継者か子会社社長か、アカデミアが描く未来

現在、ソフトバンクアカデミアでは、2018年4月生が募集中だ。2018年1月31日(水)午前10時締め切りだ。今すぐ応募すれば間に合うだろう。

これからのソフトバンクグループを担う後継者発掘・育成を目的とした「ソフトバンクアカデミア」が2010年7月28日に開校しました。後継者候補として高い志と資質を持った入校生を社内外問わず募集します。

出典:求む後継者 2018年4月入校生募集開始

ビジネススクールとの違いは、ソフトバンクの直面の経営課題が出題されること

ソフトバンクアカデミアは定員300名。ソフトバンク内部生200人と外部生100人の合計300人で構成される。

講義内容はすべてNDA契約の機密情報となっているが、「ソフトバンクがスプリント買収を終えたころ、アカデミアではスプリントの利益を2倍にするにはどうすればいいかというテーマが与えられていた。提案の中にはTモバイルUS買収もあった」のような、直接の経営課題を解決するというシーンもあるようだ。筆者もソフトバンクアカデミアで知り得た情報は一切、書かないし、書けない。そこで現在、公開されている情報のみで執筆すると…、孫正義校長から出題された経営課題を300名のアカデミア生が5分間プレゼンテーションの予選で発表する。それをアカデミア生同志がリアルタイムで相互採点し、その結果、予選で勝ち抜いた上位20名が本選に出場する。本選には、孫正義校長および、ソフトバンクグループの役員、幹部がズラリと並び、その前でプレゼンテーションし質疑応答するという講義が年3〜4回にわたり開催される。当然、過去の課題には、世間を騒がせた大型買収なども含まれている。また『マネージメントゲーム』という経営シュミレーションも評価プログラムとして採用されている。

後継者候補であったニケシュ・アローラとの対談も「ソフトバンクアカデミア」の特別プログラムとして公開されている。そう、ソフトバンクアカデミアは、去っていた卒業者に対してもなかったことにするような懐の浅さではないようだ。

https://www.softbank.jp/corp/news/webcast/?wcid=qvdpaclj

トヨタのエンジニアからソフトバンクロボティクスを経て、GROOVE X 林要

当時、トヨタのエンジニアであった林要(はやし・かなめ 現:GROOVE X代表取締役)も予選を勝ち抜き、本選でのプレゼンテーションで、孫校長に見初められ口説かれた結果、ソフトバンク入社を決意する。

2012年の入社と同時にPepperプロジェクトを担当。プロジェクトはステルスで進められ、「ゼロイチ」の初期から立ち上げまでのフェーズを担う。Pepper発表当時の肩書きは「ソフトバンクモバイル MD本部 事業推進統括部 担当部長 兼 新プロジェクト統括部 担当部長」。そして2014年7月にソフトバンクロボティクスが設立されると、今回ニュースでとりあげられているソフトバンクロボティクスのPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)室長となった。「PMO」では何かよくわからないので、取材者も思わず通称として「プロジェクトリーダー」とか「開発リーダー」等と書きたくなったのだろう。そして、自らの起業の道を選択し、ソフトバンクロボティクスを退社。

しかし、退社した現在でも、林はソフトバンクアカデミアの在校生である。ソフトバンクに入社するきっかけがアカデミアであり、退社してもアカデミアに残り関係性は保たれている。ロボット分野では果てしない競合企業になるかもしれないにもかかわらずだ。また、林は今回の件に関して「ペッパー開発という大変貴重な経験をさせて頂いたメンバーの一員として、ソフトバンク社様に対して感謝の念を忘れることはありません」とコメントしている。

『ソフトバンクアカデミア』というソフトバンクグループ圏外にも拡がる生態系

ソフトバンクアカデミアは「企業内大学」「企業内グループ学校」というよりも、異能や異端を集めたカリスマの「孫正義私塾」という強い性格を持っているようだ。いや、それは、むしろシリコンバレーの生態系のほうが似ているのかもしれない。特にソフトバンクアカデミアの外部一期生には、林要のような異端者や異能者が多く集っている。通常のソフトバンクグループ人事の採用基準外の人選がもたらした、もはやケミストリーとしか思えない。

ソフトバンクグループとしてではなく、ソフトバンクと距離をおいた上での『アカデミアグループ』という別の孫正義を核としたネットワークの生態系が生まれていると感じている。外部から内部へ、内部から外部へとソフトバンクという垣根を越えた大きな輪としての生態系がソフトバンクグループ圏外でも動いているのだ。

リンクトインジャパン日本代表 村上臣

2018年6月ヤフー株式会社の新社長に川辺健太郎が就任する。その川辺と共に1996年「電脳隊」を興したのが村上臣だ。ヤフーの電脳隊(PIMと合併)買収でヤフーに2000年に入社する。そして、ヤフー退社後にソフトバンクアカデミアに2011年外部一期生として入校する。ヤフーの改善案を決勝で披露し、孫正義を含めヤフー役員陣に問題提案する。その後、宮坂学社長の誘いでヤフーの執行役員、CMO(チーフモバイルオフィサー)に就任することとなった。そして、再度ヤフーを辞し、現在は、リンクトイン・ジャパン 日本代表の要職に就く。

https://jp.linkedin.com/

プラス執行役員からYahoo!アカデミアへ 伊藤羊一

元・プラスの執行役員であり元銀行マンであった『キングダム』の著者である伊藤羊一は、アカデミアのプレゼン決勝の常勝者であった。そのプレゼンがきっかけとなり、当時、ヤフーのコマース責任者だった宮坂学と意気投合し、宮坂がヤフーの社長となりYahoo!アカデミアを作ったのでということで誘われ、現在は、ヤフー株式会社のコーポレートエバンジェリストYahoo!アカデミア学長に就任する。

マクドナルドの本部長からソフトバンク社食革命へ 藤本JOHNNY孝博

マクドナルドの最年少営業部長を皮切りに、ディストリクトマネージャー(本部長)を務めた、藤本JOHNNY孝博は外部一期生から、決戦プレゼンを経て、ソフトバンクへ入社。ソフトバンクの社食革命に邁進し、社食でマグロの解体ショーをやったり、佐賀牛の一頭買い、こだわりの究極ラーメンを社食で提供した。ソフトバンクを退社後、「社食」という土地代のかからない飲食ビジネスで、日本の一流企業に続き、北京、上海、ソウルの社食プロデュースに進出している。

http://tfj.tokyo/

ソフトバンクグループのビジネスコアでない領域分野でも、外部アカデミア生がネットワークとして機能している。いわばアカデミアルートでたどれば、いろんなビジネスドメインに対しても顔が効くようになる。

外資系コンサルから越境ECプラットフォームへ中瀬浩之

元富士通、元外資系コンサル出身の中瀬浩之は、越境ECのプラットフォーム BENLYで国内ECショップ3000以上利用され物流総額は20億円以上となる。越境ビジネスのことなら彼に尋ねるのが一番早い。

http://benly.co.jp/

5ヶ国語を操るマルチリンガル タレント 堀口ミイナ

テレビでもおなじみのキャスターもこなすタレント堀口ミイナホリプロ所属。三菱商事在籍中にソフトバンクアカデミア外部生となる。現在、Eテレ『しごとの基礎英語』TBS『はやドキ!』などのレギュラー番組出演中

https://www.instagram.com/mina_horiguchi/

メークアップアーティスト 美容家 内田裕士

ソフトバンクアカデミアの外部生でも特に異色なのが、美容家の内田裕士だ。

美をテーマにメイクを教える美塾の塾長であり、全国26拠点、講師28名で累計生徒数7,000名と日本最大級の生徒を持つ。

http://bijuku.jp/

クラウドシステムで日本の農業を支える 生駒 祐一

テラスマイル株式会社の生駒祐一は、農業をデータ化するクラウドシステムで日本の農業を支援するビジネスを展開している。

http://terasuma.jp/

クルマのヘコミ修理から、子供プログラミング教室、ドローンパイロット人材派遣へ 石原潤一

石原潤一は、バイクのプロのレーサーを夢見て、レース資金を稼ぐために大学3年生の時に車の修理会社を起業し、24期目。孫校長の言葉に感銘し、子供プログラミング教室ドローンパイロット人材派遣と異業種格闘技によって経営の感を高める挑戦を続けている。

http://www.hekomi119.net/

ソフトバンクから書道家へ 前田鎌利

アカデミア内部一期生だった前田鎌利は、ソフトバンクモバイル、サイバー大学など複数のグループ会社を兼務しながら孫正義の資料作成も手がけた経験より書籍を出版。そして今では、プレゼンの指南役と書家としても進む。芸術創作とともに、一般社団法人「継未(つぐみ)」を設立し、全国各地で書道教室を開いている。

http://www.maeda-kamari.com/

ソフトバンク社長室からライザップへ 鎌谷賢之

三洋電機出身の鎌谷賢之は、ソフトバンク社長室を経て、東進ハイスクール(株式会社ナガセ)の常務を経て、現在、ライザップの経営戦略部長となり、ライザップの買収戦略を支えている。ライザップは「“イケてる会社”の“良い時期”を知る人材を登用」している。

異能や異端が、ソフトバンクグループから離れた後も、生態系として互いに影響を与え続けている。

生態系こそ、シリコンバレーの流儀

米国東部のベル研究所でウィリアム・ショックレーは、トランジスタを発明した。その後、故郷のカリフォルニアの果樹園でショックレー研究所を興す。そこに集ったエンジニアたちは、後のフェアチャイルド社を興す。更に、そこからスピンアウトした会社が、インテル社やAMD社となった。それが、現在のシリコンバレーの生態系が形成された。会社を離れても、いろんな分野で融合しながら経済圏を創造していったのだ。

PayPalの創業メンバーたちは、e-Bayに売却後 『PayPalマフィア』としてIT業界のネットワークを築く。イーロン・マスク(テスラ、スペースX)や、ピーター・ティール(クラリウム・キャピタル)、リード・ホフマン(リンクトイン)らがいる。

ソフトバンクアカデミアのメンバーたちも、ソフトバンクの内外の経済圏で、孫正義から学んだ経営戦略の生態系をなしていると感じている。ことさら、孫校長が力説するのが『同志的結合』だ。300年生き続ける企業になるためには、志しの高い、同志的結合の存在が必要なのだ。

「ソフトバンクの事業領域は情報革命」とした上で「世界の優れた企業とのパートナーシップでやっていく。資本的な結合よりも、同志的な結合を結ぶことで、戦略パートナーとなる企業を現在の800社から30年後には5000社に増やしたい」

出典:30年後に時価総額200兆円へ=ソフトバンク社長

一期あたり100人いる外部生…もうすぐ2桁期を迎える

ソフトバンクグループの内部生200人、外部生は100人、合計300名で足切りなので、毎年新たなアカデミア生が入る事によって、生存率は当然低くなる。アカデミアに残り続けることも重要なのだ。

それでも、個々に、マスコミに登場することが少なくなった孫正義が、今、何を考え、何に悩み、何を決断するのかを、後継者的な立場で考える300人が集うのがソフトバンクアカデミアの魅力といえる。

狭き門でもあるが挑戦する価値は十分にあると思う。来たれ!孫正義の後継者志願者たちよ!

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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