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韓国に試されている安倍総理の「竹島奪還」の本気度

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
「竹島」か「独島」か(写真:Fujifotos/アフロ)

韓国海軍と海洋警察が合同で「独島(竹島)防衛訓練」を開始した。今回の訓練には小規模ながら海兵隊員も初めて参加している。海軍から駆逐艦など水上艦約10隻に加え、哨戒機P3や対潜ヘリコプター「リンクス」などの航空機も投入されている。

実戦に近い訓練は韓国の説明では外部勢力が韓国の領土である独島を不法に占拠するため、上陸を試みた状況を想定して行われるとされているが、独島を不法占拠しようとする「外部勢力」が日本を指していることは言うまでもない。「独島」は日本の固有の領土である「竹島」であると日本が領有権を主張しているからも自明だ。

日本政府は今回も外務省を通じて、また駐韓日本大使館を通じて「訓練は容認できない」と抗議している。昨年5月の訓練の時も遺憾の意を表明して終わっている。現実には抗議する以外に術も策もないようだ。

現実に、竹島問題ではそう簡単には対抗措置は取れない。仮に日本が「竹島防御訓練」という名の下に海上自衛隊と海上保安庁が日本海で同様の軍事的な対応を取れば、韓国が猛反発し、軍事紛争を誘発しかねない。韓国の大統領が独島に上陸したからといって、対抗措置として日本の総理も竹島上陸というわけにはいかない。韓国に実行支配され、軍事的に押さえられているからだ。

安倍晋三首相は2014年1月30日の国会での答弁(1月30日)で竹島の領有権問題に関して国際司法裁判所(ICJ)への単独提訴を検討し「準備を進めている」と発言していた。その時期については「種々の情勢を総合的に判断して適切に対応する」と具体的には言及しなかった。漫談師の綾小路きみまろの名セリフではないが「あれから2年5カ月」、一向にそうした動きはない。

そもそも、単独であれ、韓国との共同であれ、政府によるICJへの提訴に関する言及はこれまでも再三あった。それというのも、1965年の日韓条約の紛争解決に関する公文、即ち「両国間の紛争は、まず外交上の経路を通じて解決し、解決できなかった場合は両国政府が合意する手続に従い調停によって解決を図る」との規定があるからだ。

日本にとっての理想は韓国同意による共同付託だ。従って、前の民主党の野田政権下では李明博大統領(当時)が2012年8月10日に竹島に上陸したことに反発し、ICJでの決着を韓国政府に呼び掛け、この年の8月21日に共同提訴を求める外交書簡を送っていた。しかし、李明博政権が日本の提案を拒否すると、一転単独提訴に切り替え、10月にはICJに単独提訴する方向で調整に入っていた。

すでにその時から3年8か月が経過している。準備は整っているはずだ。安倍首相がその気になれば単独提訴はいつでも可能だが、現実には訴訟を起こしたとしても、韓国が応じなければ裁判は開けない。国際法上、提訴された側の韓国が同意しなければ、裁判は開けないからだ。

朴槿恵大統領は「独島は韓国の領土だ。日本がそれを認めれば、簡単に解決する」と李前大統領と同じ考えだ。「日本との間には解決すべき紛争はない」として国際裁判所での解決を毛頭考えていない。竹島をすでに実効支配している韓国とすれば、裁判は「勝ってもともと、負けて損々」という考えのようだ。中国ともめている尖閣問題を日本政府が「中国との間には領有権問題は存在しない」としてICJで解決する考えがないのと同じ立場だ。

日本政府は日韓の領土問題については平和的な解決を原則としている。その方策の一つがICJへの提訴である。

何よりも提訴すれば、国際社会に韓国との間に領土問題が存在することを強く印象付けることができる。また、国際裁判所への提訴は国際紛争を解決する唯一平和的な手段であること、日本政府は韓国と争っている領土問題を平和的に解決する努力をしていることを十分にアピールすることもできる。

また、国際法の遵守を強調することで、韓国にICJの強制管轄権を受託するよう圧力を掛けることもできる。提訴すれば、少なくともICJは強制管轄権を行使し、韓国に対して裁判への出席を強制できる。

さらに、仮に竹島をめぐり紛争が起きたとしても、あるいは日本が実力行使に訴えたとしても「すべての責任はICJの調停に応じなかった韓国に責任がある」と正当化することもできるかもしれない。

しかし、単独提訴には幾つかのリスクが伴うのも紛れもない事実だ。

一つは、従軍慰安婦の問題を決着させたことで修復に向かいつつある日韓関係が再び険悪化するどころか、韓国側の一層の反発を招き、竹島の韓国の実効支配をさらに強めることになりかねないことだ。日本が騒げば騒ぐほど、韓国が実効支配を強めてきたのは否めない事実である。

次に、尖閣への対応との矛盾、二重基準を国際社会から指摘される恐れがあることだ。

前述したように日本政府は尖閣問題では「中国との間に領土問題は存在しない」との立場からICJでの解決を考慮も検討もしていない。その一方で竹島では「存在する」として一方的に提訴するのはダブルスタンダードとの指摘を招きかねない。

さらに、尖閣諸島では国際社会に「現状の維持」を訴えながら、竹島では「現状の変更」を求めるのはこれまた矛盾しているとの批判を浴びかねない。「竹島」で騒げば騒ぐほど、その反動で「尖閣」がクローズアップされるというデメリットもある。

最後に、これが最大のネックとなっているが、同盟国・米国の反発を呼び起こす恐れがあることだ。

ICJ提訴の動きが野田政権下で表面化した時、訪韓したジェイムズ・スタインバーグ国務副長官は竹島問題について「今、完全に解決する必要はない。当分の間そのままにして徐々に合意を模索するのも一つの方法だ。ICJなど国際メカニズムを通じて問題を解決するのは正しい方法ではない」と反対していたからだ。「尖閣」も「竹島」も現状維持が望ましいというのが米国の立場である。

安倍首相がICJに提訴すれば、日韓の良好な関係こそが米国の戦略的国益とみなす米国をまたもや失望させることになりかねない。揺るぎない日米同盟関係を目指す安倍首相にはICJへの提訴という「伝家の宝刀」は抜くに抜けないだろう。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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