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「私は奴隷です」子供に支配される歪んだ家族:健康な親子関係を取り戻し幸せになる方法

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
壊れてしまった家庭の回復のために(写真はイメージ)(写真:イメージマート)

■札幌・ススキノ頭部切断事件

札幌・ススキノのホテルで62歳の男性が殺害され、切断された頭部が民家の浴室で見つかった「ススキノ頭部切断事件」。その民家に住む20代無職の娘と60代の両親が逮捕起訴されました。

報道によると、母親は「私は奴隷です」と誓約書を書かされ、リビングに飾らされていました。父親(精神科医)は、娘から「ドライバーさん」と呼ばれていました。

娘は否定されると怒りが爆発して手が付けられなくなるため、両親は娘の言うことに従っていたと報道されています。

この事件の真相はまだ不明ですが、親が奴隷のようになっているいびつな家庭は、この事件の家庭だけではありません。

最悪の結末になる前に、何とかしなくてはなりません。

■親が奴隷となる様々なケース:家庭内暴力、心の病

親が子の「奴隷」になっている状態。そういう家庭はあります。背景は様々です

〇子供が非行に走り、親を支配するケース。乱暴な子供が気弱な親を言いなりにするイメージです。

〇子供の家庭内暴力がひどく、親は従うしかないケース。この場合、子供は非行少年ではありまません。むしろ外では良い子ですが、家族にだけ暴力をふるいます。多くの場合、家庭内の弱者である母親に向かいます。

相手が我が子であっても、圧倒的な暴力の前に人は無力になります。親は子を恐れ、言いなりです。

〇子供が摂食障害とか強迫性障害などのケース。これらの子の中には、こだわりが強く、その通りになっていないと気が済まず、親を召使いのように使って思い通りにする子がいます。

子供が引きこもり状態から不潔恐怖症などの症状が出て、親を使用人のように使って、自分が思うような理不尽な清潔さを求めることもあります。

病気ですから同情できるのですが、親は振り回され、神経をすり減らします。

〇そして、子が境界性パーソナリティ障害などのために、極めて自己中心的で、子の言うとおりにしないと、何をするかわからないケース。親は、まさに奴隷になってしまうことがあります。

境界性パーソナリティ障害は、強い「見捨てられ不安」を持っているとされています。無茶な要求を出し、その通りにならないと怒りを爆発させます。怒りを抑えられません。何をするか、わかりません。私たちの常識を超えることもあります。

〇さらに、重い精神障害のために奇行が目立つようになり、手がつけられなくなるケース。上半身裸になって奇声を上げながら庭で金属バットを振り回すようなこともあります。親も近づけません。

■奴隷生活から解放されるために:逃げること、助けを求めること

親が奴隷になっているような家庭は異常です。親にとっても子にとっても、非常に不健康です。しかし、親がだらしないとか、甘やかしているとか、批判は誰にでもできますが、そんな簡単ではないのです、親も好きで奴隷になっているわけではありません。

親が医者だろうが金持ちだろうが、社会的に力を持っていようが、我が子のことは別です。むしろ親の社会的地位が高いために、かえって問題が長引くこともあります。

子供からの暴力が伴う場合。暴力に対して暴力で向かってはいけません。だからといって、暴力を受け続けてもいけません。暴力を受け続けることで、親が冷静な判断力を失います。

また家庭内暴力の場合、子は親を殴ったからといって、決して気分は良くなっていません。誰のためにも、暴力を防がなければなりません。

基本は、「逃げる」でしょう。自宅内のどこか、あるいは自宅外でも、逃げ場所、隠れ場所を作っておきましょう。逃げても良いのです。

子供には、「あなたのことを愛しているけれど、暴力を振るう人とは一緒にいられない」と、落ち着いているときに伝えましょう。

摂食障害や強迫性障害、不潔恐怖。治してあげたいと思います。そのためには、親が元気を失ってはいけません。子供本人が細かいことにこだわり、そのために苦労するのは、それは現状では仕方がないでしょう。

しかし、親が付き合いすぎてはいけません。自分のことを自分でさせましょう。親が疲れ果ててしまえば、子の治療のために適切に動くこともできなくなります。

境界性パーソナリティ障害は、厄介です。言うことを聞かなければ何をするかわかりません。しかしだからと言って、言いなりになってしまっては、症状を悪化させることにもなります。毅然とした態度は必要です。

重い精神障害の場合は、やはり入院治療が優先されるでしょう。入院治療を受けることで、すっかり落ち着く人もいます。

親が奴隷になっているような異常な状態。親が我慢すれば良いわけではありません。ひたすら言うことを聞いていても、改善するものでもありません。他人に迷惑をかけるぐらいなら、自分たちが全てを背負おうと言う親もいますが、たとえ親でも背負いきれません。

基本は、逃げることと、そして第三者の介入です。

親が奴隷になっているケースで、親の方が家出をしてしまうこともあります。子供には行き先を告げません。

ただし、親が家を出る場合、解決を目指して家を出るのは良いのですが、単に親が逃げ出して見て見ぬふりをしたり、兄弟に押し付けたりしても、解決は遠くなるだけです。

親戚、友人、近隣の人にも協力を得ることができれば、それは解決への一歩です。行政の力も活用しましょう。

■ケース:9年に及ぶ女性監禁の果てに

新潟県で発生した女性長期監禁事件(事件発覚2000年)では、息子(当時37)は、9年にわたって自室に少女を監禁していました。

男は高校卒業後に就職しましたが、すぐに退職。以来、無職の状態が続きます。不潔恐怖や強迫性障害の症状が出ており、父親は追い出され母親は息子の言いなりでした(犯行時には父は他界)。

息子の部屋にも立ち入り禁止で、母は監禁に気づかなかったと述べています。しかし男の母親への家庭内暴力がさらに悪化したことで、ようやく第三者が介入します。

行政も重い腰を上げ、精神科病院、保健所、市役所などが協議し、7名の職員が母親と共に息子の部屋に入りました。そこで、誘拐監禁されていた女性が、9年ぶりに救い出されたのです。

この事件は社会に衝撃を与え、当時に比べて、現在は行政も動いてくれるようになりました。

■解決は難しいが、解決はできる #9110

親が奴隷になっている状態の解決は、とても難しいでしょう。親がしっかりすれば解決するような、そんな単純なことではありません。親がネット検索するだけで解決できるようなシンプルなことではありません。

第三者の支援を受けましょう。

警察相談ダイヤル#9110に電話をかけると、地元警察の相談窓口につながります。子供を逮捕してもらうのではありません。各警察署には、様々な問題を扱う相談窓口があるのです。少年問題を専門に相談に乗ってくれる窓口もあります。

警察に行ってみれば良いのですが、まずは#9110に相談してみましょう。

保健所、精神科病院にも相談に行ってみましょう。状況に応じて、相談しやすいところに相談しましょう。夫婦、親友、家族親戚、頼りになる人と一緒に行くことも良いでしょう。

どこの病院に行ったら良いかわからない時は、各地の精神保健福祉センターを活用しましょう。

全国の精神保健福祉センター:厚労省

解決は簡単ではありません。しかし、解決への道はあります。解決しましょう。最悪の事態になる前に。また家族みんなで幸せになるために。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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