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「森発言“女性というには年”は下品で高齢者と女性を差別」「五輪は日本人サービスではない」米識者に聞く

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 女性蔑視発言をして東京五輪組織委員会会長を辞任した森喜朗氏が、また問題発言をした。 

 元官房長官の河村建夫氏のパーティーで、河村氏の事務所の女性スタッフについて「大変なおばちゃんがいる。女性というには、あまりにもお年だ」と述べたのだ。

 アメリカのメディアも早速、この発言を報じている。

 例えば、ABCニュースは「東京オリンピックの元チーフが再び、差別コメントで批判される」というタイトルで、森氏が秘書のことを“Old Mama"を意味する「おばちゃん」と呼んだことや森氏の発言がオンラインニュースやSNSでトレンディングとなり、怒る人もいたと指摘。「彼は変わることができない」「彼は悔い改めていない」というコメントを紹介するとともに、日本は世界の経済先進国の1つであるにもかかわらず、取締役会や東京五輪組織委員会を含め、役職への女性の昇進が遅れてきたことも問題視している。

 女性蔑視発言をした森氏については、2月、オリンピック問題に詳しいオレゴン州パシフィック大学政治学教授のジュールズ・ボイコフ氏が森氏に“即時辞任”を求めるオピニオン記事「彼(森氏)は去らなければならない」を五輪の放映権を握っているNBCニュースに寄稿して注目されたが、そのボイコフ氏は今回の森氏の問題発言についてはどう見ているのか? また、東京五輪を取り巻く現状についてどう考えているのか? 再び、話をうかがった。

ーー森氏がまた問題発言をしましたが、今回の発言についてはどう思われますか?

 森氏の発言は下品で、高齢者差別及び女性差別をしています。この発言は明らかに、氷山の一角でしょう。また、この発言は間違いなく、森氏が公人としての生活を送るにふさわしいのかという問題も提起していると思います。

 その一方で、森氏は世界の役に立っているとも言えるでしょう。彼は性差別は解決されなければならない重大な問題であり、社会にある根深い構造的問題だと我々に頻繁に思い出させてくれているからです。

ーー森氏に代わって会長に任命された橋本氏をどうごらんになっていますか?

 橋本氏は、非常に難しい状況下で、会長に任命されました。橋本氏の仕事は非常に不人気なオリンピックを推進することですが、時間は同氏の味方をしていないと思います。橋本氏は、基本的に前任者(森氏)と同じ舵取りをしているようですが、広く報じられていたように、2人が近い関係だったことを考えると、それは驚くにあたりません。

ーー菅首相が4月の訪米の際に、バイデン大統領を五輪に招待しようとしていますが、これについてはどう思われますか?

 国外のオリンピックに出席した直近のアメリカの大統領は、2008年の北京オリンピックに出席したジョージ・W・ブッシュ氏です。オバマ氏は、大統領としてはオリンピックに出席しませんでしたが、ミシェル夫人は2012年の夏季ロンドンオリンピックに出席しました。

 バイデン大統領が東京五輪に出席するかですが、アメリカも政治的問題を抱えていることを考えると、バイデン大統領がオリンピック出席を控えたとしても驚きではありません。特に、世界的にパンデミックが起きている間は。

(ちなみに、ホワイトハウスのサキ大統領報道官は26日の記者会見で、バイデン大統領の東京五輪出席について「大統領の今夏の外遊がどうなるかはまだ予測できない」と語っている)

ーーボイコフ教授は「聖火は消されるべきだ」と題するオピニオン記事を寄稿されたばかりですが、五輪の放映権を握っているNBCのニュースサイトの編集は、記事を掲載することに躊躇しなかったのでしょうか?

 それはNBCサイドに聞いて下さい。1人の独立したライターとして、また思想家として、私はNBCの社説ではなく、私のオピニオンを書いたのです。それは発行側が出す公式のオピニオン、つまり社説とは別のものです。アメリカでは、オピニオン記事は通常、発行側の編集スタンスとは切り離されています。

ーーオリンピックは中止される可能性がまだあるでしょうか?

 オリンピックが中止されることになるとしたら、それは、新型コロナウイルスの感染拡大で、オリンピックをするには安全とは言えなくなったという理由からでしょう。昨年、私たちはどんなことでも起こりうるということを認識しました。大きなスポーツ・イベントも中止されました。

 また、日本のワクチン接種のペースがスローである状況を考えると、新型コロナウイルスの感染拡大が現実的に起きる可能性はあると思います。私は、オリンピックが公衆衛生にとってリスクになるなら、その時は、オリンピックは中止されるべきだという立場を以前からとってきました。スポーツ・イベントはオプションであって、日本の人々に向けた不可欠なサービスではないのですから。

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 オリンピックは日本の人々への欠くことのできないサービスではなく、オプション。この見方は実に的を射ているのではないか? 主催者側は、今、オリンピックをオプションとしてではなく、日本が成功させなければならない不可欠なイベントとして捉えているのではないだろうか?

 ボイコフ教授は前のインタビューの際、「“世界の公衆衛生”のためにも、東京オリンピックを中止すべき」と“公衆衛生”最優先を明言したが、公衆衛生がリスクになるとするなら、中止というオプションも考えられて然るべきなのかもしれない。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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