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Vol.2 ラグビートップリーグ NTTドコモレッドハリケーンズ 開幕戦勝利の裏側にあった意識改革

福富信也東京電機大学理工学部/(株)ヒューマナジー代表取締役
撮影:高野大寿

開幕戦の一体感

皆さん、こんにちは。2020-21シーズン、NTTドコモレッドハリケーンズのチームアドバイザーを務めている福富信也です。このコラムでは、ラグビーの話題を切り口に、ビジネスシーンなど様々な場面で応用できる「チームづくり」のプロセスを明かしていきます。ラグビーに詳しくない方も気軽にお読みいただけると嬉しいです。

コロナ禍による緊急事態宣言の影響から当初より約1か月遅れとなりましたが、日本国内最高峰のラグビーリーグ「TOP LEAGUE」が2月20、21日に開幕しました。

各チームは積極的な選手補強を行ない、今シーズンは世界的なスター選手を獲得するケースが目立ちました。そして、早速、その新戦力が期待に応えるプレーをみせたかと思えば、ハイレベルな環境で揉まれた国内選手たちが、それに負けじと身体を張ったプレーを披露。開幕戦全8試合、きっと各会場で熱い試合が繰り広げられたのだと思います。

私も「キヤノンイーグルス vs NTTドコモレッドハリケーンズ」をスタンドで観戦しました。

レッドハリケーンズは序盤から劣勢が続き、開始15分くらいまではいつ失点しても不思議ではない展開でした。ここで崩れずに耐え忍び、逆に先制することができました。これは、チームビルディングの成果と言えるかもしれません。その後、逆転を食らいましたが、前半は大きく引き離されることなく8点のビハインドで折り返しました。

後半はレッドハリケーンズが攻撃のチャンスを作り、3つのトライで逆転に成功しました。ゲームが切れるたびに、選手たちは素早く1つの輪になってコミュニケーションを図り、プレー中は選手同士が積極的に声を掛け合い、仲間を鼓舞し合っていたこの日のレッドハリケーンズ。終了間際に痛すぎる失点を喫し、1点ビハインドでクライマックスのシーンを迎えます。

後半39分の相手ペナルティで得たペナルティゴール(PG)で、川向選手がボールをセットしている際、ベンチメンバー全員が起立して肩を組み、その様子をじっと見つめていました(写真参照)。

筆者撮影
筆者撮影

その後、川向選手の足から放たれたボールはゆっくりと綺麗な弧を描き、レフリーのPG成功を告げる笛の音が響いた際、選手たちが川向選手のところに猛スピードで駆け寄っていく、というシーンには本当に心を打たれました。

正直、その日は夜まで興奮が収まりませんでした。レッドハリケーンズサポーターは皆、私と同じ気持ちだったのではないでしょうか。帰宅する電車の中、車の中、夕食の時間もラグビーの話題で盛り上がったと思います。

このコラムを通じ、普段とは違うラグビーの側面やチームワークの魅力をご提供できればと思っております。

このコラムは、チームワーク強化・最大化、いわゆるチームビルディングという点でレッドハリケーンズをサポートする役割を担っている私が、”チームがどのような課題に直面しているのか” “今後どのようなリスクが潜んでいるのか”、そのうえで ”どのような改善策を処方したのか(したいと思っているのか)” を、わかりやすくご紹介していきます。

ちなみに、前回(Vol.01)は、「チームが目指す姿」「チームの存在意義・使命」「企業のシンボリックスポーツとしてのあり方」「そのためのマインド」という内容をお伝えしました。

そして、Vol.02となる今回は、チームのミッション、ビジョン、バリューというテーマでお話をしていきたいと思っております。それでは、コラムVol.02をお楽しみください。

## 今さら聞けない!ミッション、ビジョン、バリューの基礎知識

まず初めに、そもそもの話として、ミッション、ビジョン、バリューが持つ意味について解説していきたいと思います。

▼ミッション

ビジネスシーンで使われる言葉に置き換えると「企業理念」とも言われるものです。一般的には、その組織の「社会的使命」「存在意義」などが端的な表現でまとめられていることが多く、”対 社会”へのメッセージです。

▼ビジョン

こちらもビジネスシーンでよく使われる言葉です。一般的には組織の「あるべき姿」を掲げていますが、場合によっては「具体的な数値目標と達成期限」を挙げていることもあります。つまり、どのような姿で(目標達成を通じて)ミッションを追求するのか、それがビジョンとなります。これは”組織内部”へのメッセージになります。

▼バリュー

バリューは、ミッション、ビジョンを実現していくうえでメンバーが大切にすべき価値観(思考や行動)を指します。こちらは”対 構成員向け”のメッセージになります。

参考)

脱トップダウン思考 - スポーツから読み解くチームワークの本質 - 著:福富信也

上述したように、すべての組織は、ミッション、ビジョン、バリューに基づき、共通の価値観や理念に賛同した人が集まることが第一に求められます。

その理由は、新たなチームやプロジェクトをスタートさせる際、ミッション、ビジョン、バリューという根幹部分(目指すべきゴールや大切にしたいプロセス)でズレが生じてしまうと、あらゆる取り組みがかみ合わなくなってしまうからです。

ちなみに、予めそれらを明確にしておくメリットが2つあります。

1つ目は、組織が実現させたい世界観を周囲に発信できるという点です。その組織のアイデンティティが明確になり、山ほどある似たような組織(ビジネスで言えば同業他社)と、どこが異なるのかを明確に示すことができます。

2つ目は、その想いに共感する、熱くなれる仲間だけを集めることができ、スタートからボタンの掛け違いを防げる点です。言い換えれば、チームの根幹たる想いに共感できないメンバーはそもそも集まらない、ということでもあります。

”目標の魅力”だけでチームに加入してしまうと、あとになって”目指す世界観”の違いが浮き彫りになったり、プロセスで食い違いが生じたりして、「こんなはずでは……」となってしまうことがあります。つまり、目標の一致だけではチームになれないのです。「日本一」や「優勝」を目標に掲げるチームは世の中にたくさんありますが、どのようなプロセスや価値観でその目標を達成したいのか、達成した先にどんな世の中を実現したいのか、はそれぞれ異なるわけです。真のチームになるためには、ミッション、ビジョン、バリューに共感できる仲間であることが大切です。

撮影:高野大寿
撮影:高野大寿

## レッドハリケーンズにおけるミッション・ビジョン・バリュー

ここまでは、ミッション、ビジョン、バリューの基礎知識について解説してきました。

そして、ここからが本題です。今シーズンのレッドハリケーンズにそれらをあてはめて考えていきたいと思います。レッドハリケーンズには、「チーム理念」と今シーズンの「チームスローガン」が存在します。レッドハリケーンズのWebサイト上には、以下のように紹介されています。

▼Team Philosophy

私たちはラグビーを通じて夢と感動を創り、社会に貢献できる人間となる

▼Team Slogan

PLAY TO INSPIRE

トップリーグトップ8入りを目指して、グラウンドのラグビーだけではなく、レッドハリケーンズに関わる、全ての人々・存在に対して、選手・スタッフ一人ひとりが、良い影響を与え続けるチームとなる。

参照)

NTTドコモレッドハリケーンズ「チーム紹介」ページより

https://docomo-rugby.jp/team/

それでは、これらを順にご説明していきます。

レッドハリケーンズのTeam Philosophy「ラグビーを通じて夢と感動を創る」、それこそがミッションに該当します。

続いて、そんな未来を実現させるための “あるべき姿” が「PLAY TO INSPIRE」がビジョンに当たります。「PLAY TO INSPIRE」は上記記載のとおりで、「全ての人々に対して良い影響を与え続ける」ことを意味しています。そして、具体的な数値目標にも触れています。今シーズンは、過去に成し遂げたことのない「トップ8入り」に挑戦しているのです。

そして、最後がバリューです。バリューは行動指針です。Vol.01の記事内でもお伝えしたように、現在チームには、下記10個の行動指針の徹底をリクエストしています。

1. 自ら判断し、行動する

2. 規律を守る

3. 何事にも手を抜かずハードワークする

4. あらゆる準備を怠らない

5. オンオフを切り替える

6. 味方を敬い、助け合う

7. 当たり前をあたりまえにする

8. チャレンジし続ける

9. 自己管理を徹底する

10. チームファーストで考える

これらを見ればお分かりいただけると思いますが、その内容は、いわゆる “ラグビー特有” のものではなく、人として誰にでも求められる「当たり前」なことばかりです。

人として誰にでも求められる「当たり前」なことを愚直に取り組むからこそ、応援してくれる皆さんが選手を身近に感じることができるでしょうし、それを徹底追求する姿で感動や勇気を届けることができると確信しています。

地球上でもっとも激しく危険なスポーツとも言えるラグビー。そんなラグビー選手に対して、私たちはつい「別世界の住人」という意識をもってしまうと思います。「尊敬はするけど、私たちに真似できることではない」という感覚を覚えてしまいます。しかし、それは違います。「10個のバリューを徹底するプロセス、”当たり前”を地道にコツコツと継続するプロセス、その延長上に大きな結果がついてくる」ということを証明することで、応援してくださる皆さんを勇気づけたいと思っています。

## バリューの理解徹底がチームの自立を促す⁉

このように、バリューが明確になっていれば、選手一人ひとりが判断に悩んだ際の道しるべになるわけです。

例えば、私生活で夜遅くまで面白いテレビ番組がやっていて「もっと見たいな、でも寝るべきかな」と迷いが生じたとします。そんな小さな迷いであっても、バリューが答えを示してくれるのです。「あらゆる準備を怠らない」ことが「何事にも手を抜かずハードワークする」ことに直結するわけですから、「テレビはやめて十分な睡眠をとろう。そして、明日の激しいトレーニングに備えよう」という行動に繋がるわけです。

選手・スタッフ約70名全員が、バリューを基準に行動選択し続けることができれば、”トップ8”も夢ではありません。

繰り返しになりますが、バリューとは「チーム全員が大切にする価値観」のことです。メンバーが自立していくツールであり、もちろんそれはビジネスでも同様です。

ビジネスでのリーダーの悩みとしてよく挙げられるのは、メンバーが「自分で判断できない」「言われたことしかしない」というもので、「少しは自分で考えろ!」と言いたくなります。しかし、メンバーが自分で考えて行動すると「おいおい、何を勝手にやってるんだ!事前に相談くらいしてくれ!」なんて言っていませんか?

このケースでは、メンバーが自分で考えて行動するための「判断材料」を提示できていないことがほとんどです。言い換えると、「判断材料」がリーダーの頭の中だけにある状態です。「自分で考えろ」と言われたメンバーとしては、「君の好きなようにやっていいよ」と言われたと勘違いしてしまうのは無理もありません。結局、いたずらに時間ばかりが過ぎていき、リーダーとしては不満ばかりが蓄積するスパイラルに陥ります。

行動の道しるべとなるバリューを明示できると、メンバーが自立的に判断できると思います。チームとして大切にする価値観をきちんと示せば、基準は常に高く保たれることでしょう。

レッドハリケーンズの行動指針の1つでもある「当たり前をあたりまえにする」ことを、私は選手たちに強く強く要求しました。「良いチームは、ロッカールームから違いが出てくる」と伝えました。

写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ
写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ

例えば、サッカーでいうと、Jリーグも日本代表も、試合前のロッカールームは整然としており統一感があります。心が整った状態でピッチに向かうための工夫です。なでしこジャパン(女子日本代表)のとある選手は、途中交代で出場する際、着ていたウェアを丁寧にたたんでからピッチに向かう姿がテレビで流れ、世界から称賛を浴びました。男子のサッカーロシアワールドカップ(2018年)の日本代表チームは、敗戦後にも関わらずロッカールームを綺麗に整理・整頓・掃除し、感謝のメッセージカードを残して帰国したことが世界から称賛されました。

「チームにとって、”戦いへと出発する場”つまり基地だ。それがロッカールームという空間だ。基地が乱れていては良い戦い、良いトレーニングができない」

これは、かつてJリーグ横浜F・マリノスで連覇を成し遂げ、日本代表をワールドカップベスト16に導いた岡田武史氏の考えです。

こうした当たり前の繰り返しがチームの基準を引き上げ、少しの妥協も許さない風土を作り上げます。結果的にベクトルが1つになり、各々がチームから何を求められていて、どのようにチーム貢献すべきかと考えられるようになり、最終的に団結した戦う集団へと変貌を遂げていきます。

## ミッション・ビジョン・バリューの共通認識こそ、チーム構築の第一歩

さて、今回のバリューに関するテーマはいかがでしたか。

組織における、ミッション、ビジョン、バリューと照らし合わせることで、改善点(突破口)を見つけられるはずです。私たちはどんな未来に共感した集団なのか(ミッション)、そのためにどのような姿で、何を成し遂げたいのか(ビジョン)、メンバー全員が大切にする価値観は何なのか(バリュー)、それらの共通認識こそがチーム構築の第一歩です。

冒頭でもお伝えしたように、今、レッドハリケーンズはチーム一丸となり、選手一人ひとりが「なぜラグビーをしているのか」「なぜ今自分はグラウンドに立っているのか」を考え、必死に成長を続けております。

「試合に向けた入念な準備、最後まで闘い続ける姿勢、勝利の可能性を1%でも高める努力、for The Teamの精神でチャレンジし続ける」、そんな想いを胸に戦っております。応援してくださるすべての方々をINSPIREするために、ラグビーに励んでおります。

いつも順風満帆とはいかないですが、今シーズンのレッドハリケーンズに期待してください。

そして、待望のラグビー「TOP LEAGUE」が開幕し、今節、次節、その次……と毎節が楽しみで待ちきれない!という皆さんの毎日に、当コラムを通じて、新たな角度からラグビーを見ていただけるエッセンスを注入し、ワクワクするきっかけをINSPIREできたらと思っております。

次号以降もご期待ください。

東京電機大学理工学部/(株)ヒューマナジー代表取締役

横浜F・マリノスコーチを経て、現在は東京電機大学理工学部の教員。 Jリーグ監督に必要なS級ライセンス講習会の講師を務める。2016-17年北海道コンサドーレ札幌(J2優勝、J1昇格)、2018-19年ヴィッセル神戸(天皇杯優勝)、2020-21年ラグビーNTTdocomo(リーグワン参入)、2022-23藤枝MYFC(J2初昇格)、2024年からはFC東京のアドバイザーに就任。 スポーツチームのみならず、大企業から中小企業まで研修実績多数。その他、講演・メディア出演・雑誌連載など。著書→脱トップダウン思考(2019)、チームワークの強化書(2022)など。(株)ヒューマナジー代表取締役。

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