Yahoo!ニュース

サッカーの中身を気にしない人が増えている

杉山茂樹スポーツライター

「サッカーをつまらなくさせる要素が年々、増えている」

最近取材したバルササッカーを信奉する、あるスペイン人の元監督、現評論家はそういった。

「サッカーの中身について語る場所が、以前よりグッと減ったため、サッカーの内容に拘る監督やクラブも自ずと減ってしまった」とも。

同意したくなる意見である。

ザッケローニが監督に就任して2年と半年が経過。代表チームの国際試合の視聴率は高水準を維持している。先のオマーン戦は30%にも及んだ。それは国民的関心事として定着しているが、肝心の中身については、その割にあまり語られていない。

サッカーの中身について発信する役割を担うメディアが、その点を積極的に語ろうとしているかといえばノーだ。

先のオマーン戦の内容は一言でいえば苦戦。相手との戦力差を考えれば、もっといい内容の試合をしなければならなかった。

だが、勝った。最後の最後に、岡崎の劇的なゴールが決まり、W杯出場に王手を掛けることになった。この場合、まず伝えるべき優先事項が内容ではなく結果であることは理解できる。しかし、だからといって、苦戦した理由について触れなくていいという話ではない。等分とは行かなくても3割ぐらいは欲しい。それが適切なバランスというものだが、実際には1割にも満たなかった。劇的な結果の前に、弱小相手に大苦戦を強いられたという事実は、蓋をされることになった。

日本の場合、それはいまに始まった話ではない。野球という結果で語りやすいスポーツが、長きにわたりNo.1スポーツであることと大きな関係がある。この結果をタイトルや見出しに使いやすいスポーツに、日本のメディアはずっと寄り添ってきた。その流れで、サッカーと向き合っている。

野球はチームスポーツではあるが、個人競技としての側面もある。「ダルビッシュ完封」。「イチロー4−2」という見出しは、「香川無得点」。「本田フル出場」。「清武ゴールに絡めず」より、はるかに競技の本質に迫れている。だが、日本のサッカーメディアはその強引さを顧みず、野球的なもの、つまり慣例に従おうとする。

ネットの時代になり、その傾向はいっそう増している。そのトピックスの上位にくるのはまず結果。次に個人の話。監督交代等々の騒動やゴシップだ。まさに、サッカーの中身とはほとんど関係のないニュースで占められている。サッカーの報道量は、いま野球より多いほどになったが、ニュースの中身は非サッカー的だ。ピッチ上の話は結果報道と、メディアがしきりに報じるピッチ外のニュースによって、すっかり隅に追いやられている。

「勝利と娯楽性は車の両輪のような関係で求めるべき」とは、クライフが述べたバルサのクラブ哲学だが、これはサッカーのいわば理想型だ。遂行することは簡単ではない。つい、勝利9割、娯楽性1割の関係になりがちだ。しかし、その点を問題視する人は少ない。なによりメディアがこの関係を是としている。

哲学は不必要なものになりつつある。拘りを持つ監督が増える環境にはないのだ。

前述の元監督はいう。

「肉と付け合わせが載ったお皿があるとすれば、いまのサッカーは付け合わせが肉を食ってしまっている状態。肉の味は重要視されていないのです。サッカー界全体、スポーツ全体をよくしようと考えている人より、自分が携わる分野だけよければそれでいいという関係者が増えているからです。で、監督はそうした世界にすっかり飲み込まれている。こうした問題は、サッカー界、スポーツ界に限った話ではありませんけれど」

ザッケローニもその一人になりつつあるというのが僕の感想だ。サッカービジネス界の期待通り結果は出している。しかし、どんなサッカーがしたいのか。拘りをどこに求めているのか。試合をこなすうちに見えなくなっている。それを語ることすらしなくなった。結果よければすべてよしと言っているかのようだ。日本のサッカー界に欠けている非野球的文化の醸成に一役買ってくれそうな期待感はすっかり薄らいでいる。日本の従来のスポーツ文化の中に埋没した感あり。最後まで一線を画そうとしたオシムが、いまさらながら貴重に見える。

日本代表監督は拘りを持つ監督を選ぶべし。僕はそう思うのだ。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

たかがサッカー。されどサッカー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月4回程度(不定期)

たかがサッカーごときに、なぜ世界の人々は夢中になるのか。ある意味で余計なことに、一生懸命になれるのか。馬鹿になれるのか。たかがとされどのバランスを取りながら、スポーツとしてのサッカーの魅力に、忠実に迫っていくつもりです。世の中であまりいわれていないことを、出来るだけ原稿化していこうと思っています。刺激を求めたい方、現状に満足していない方にとりわけにお勧めです。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

杉山茂樹の最近の記事