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澤円×倉重公太朗「あたり前を疑え」~軽やかに生きるヒント~第3回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

倉重:先ほども少し話が出ましたが、やはり時代に遅れないための思考のアップデート、昔の成功体験にしがみついてはいけないと。でもやはり無意識でも知らず知らずのうちに、前のやり方がいいのではないかと思ってしまう自分もいたりすると思うのですが、そこはどのように自分を律していますか。

澤:やはり自分も完全にそういうタイプなのです。過去の成功体験というものは非常に強烈で、それにしがみついているほうが楽だというのはすごく分かるのです。実際僕は今の会社に22年勤めていますし、今の役職に就いて、2011年からなので8年目なので、結構それというのはしがみついているよねと、はたから見れば間違いなくそうなのです。だから今は、「軸足はそこにあるのだけれども、他で欲張る」という考えなのです。その軸足が別側に移ったとしても、それは後悔をしないようにしておくというふうに考えているだけなのです。両方とも精一杯やってはいるのだけれども、いつこちら側の軸足が何らかの理由で外れなければいけないとなったときに、1本脚打法で立っている状態だと、これが外れたら終わります。両方が軸だと、両軸だと思えば、この軸というのは、別の所にポンと置けばいいだけの話なので、そのように考えるといいかと思うのです。

倉重:本業6割、副業4割とおっしゃっていらっしゃいますね。

澤:軸というふうに考えると、今もしかしたら副業のほうが多くなっているかもしれません。他でも自分は役に立てるということは、それは自信にもなるし、他者への貢献というのはやはり非常に大きいと思うのです。他社への貢献というのが自分で言語化できないのであれば、おそらくは他者への依存で生きている状態になっています。

倉重:そうなってはいけないという話になりますよね。

澤:そうすると、リスクが高いのです。結局ここで言う所の他者というのは、おそらくは所属組織であったり。

倉重:会社とかですね。

澤:会社とか、あるいは特定のクライアントというものに。

倉重:ここから切られたら終わりだと。

澤:そうです。なってしまうと恐ろしいですね。だとしたら、それを複数持つことは大いに結構かなという。あるいはもし業務という意味で言うと、副業とかでできないとか、両軸にする時間がないというのであれば、いつ何時切られたとしても、すぐに次の行動に移せるような精神状態にしておく。「よし、クビになったら1カ月絶対にアメリカに旅行に行ってやる」。そのお金だけ取っておいて。1カ月行って、ずっと英語を話して、戻って来るときには英語をバージョンアップして就職活動できるようにしようと、これはマインドセットとしては結構健全だと思うのです。

倉重:いいですね。もう何か全く関係のないことをやってしまうわけですね。アメリカへ行ってしまうとか。何か会社とどう戦うとか、根回しするとか、文句言うとかではなくて。

澤:ではなくて、よし、ではその日を境にこれをやろうと。妄想はコスト0円ですから、考えるのは勝手なのです。ただそれに対して少しお金が必要なのであれば、その分だけ貯金をしておこうかなと。そうしたらそれは安心にもなるではないですか。

倉重:そういった意味でリスクに備えてもう一本持っておくと、それは大事だと思うし、一方で、では今乗っている列車から降りるという話をしたのですが、その判断というのは難しくないですか。

澤:そうですね。これは人によるのですが、強制的に降りることを好む人も中にはいるのです。ある程度うまく行っていたら、自分からバサッと降りてしまう、やめてしまうというような、周りから見ると「えっ、なんで?」ということを平気でやる人も中にはいるのですが、自分がそういうタイプでないのであれば、降りるという、要するにいつ降りてもいい状態で乗っているというふうに自分を常に定義しなさいと。いつでも降りられるんだよ、だけどたまたま乗っているだけだよ、と思うと気が楽かなと思うのです。

倉重:そうでないと、この会社がなくなったら終わりだ、あるいはこの事業部が閉鎖されたら終わりだとなってしまうと、やはり人生なかなかしんどいものがありますよね。

澤:だから他にもたくさん路線はあるのだということを、要するに電車に例えれば窓の外を見ようという話です。ずっと下ばかりを見ているのではなくて、車窓から見るのでもいいし、あるいは列車の窓が開く所であれば、窓から顔を出すのでもいいし、ああ、あっちにも電車が走っているなとか、とにかく外の世界を見ておけよという話です。

倉重:本当におっしゃるとおりだと思うのですが、そうは言っても、日々サラリーマンをやっていて、他のことを他のスキルとか、もう片一方の足なんて、そんな簡単にはできないというご意見もあると思います。そういうご意見に対してはいかがですか。

澤:もしそれが自分のエクスキューズとして、「もうだからできない!」ということであれば諦めてください。僕から言えることはもう何もありません。逆にそれで幸せなのであればいいという話なのです。ただ今これだけ不確定な世の中で、それは怖くないですかという話なのです。

倉重:これは本当に私の分野とも関連していて、やはり労働法の分野でも解雇の規制があるのですが、これは高度経済成長期にできた規制で、やはり終身雇用が当たり前の時代だから、もう定年前に会社から追い出すなんてもっての外でよっぽどの場合だという考えから、一社で勤め上げるのが正しいという価値観の下にできたルールが今でも存在しているのが問題だと思っているのです。

逆に一社で勤め上げれば、それは結果としてそうなればよかったねという話ですが、そこに依存してしまって、それが泥船だった場合はどうするのですか。あるいは会社は無事でも、その部門がなくなってしまう場合もあります。あるいは身売りされてしまって、条件がガラッと変わってしまう場合もあります。ということを考えると、もちろん転職万歳と言うつもりは全くないですけれども、それだけでいいのですかとは思います。

澤:そうですね。日本はやはり人材の流動性の低さは、他の国から見てもかなり異常なのです。あと少なくとも社内において、自分から仕事を選ぶということはほとんどしないですよね。

倉重:言われたものをやるという意識でしょうね。

澤:辞令というのが降って来て、「私はこれをやりたいのだけれども、それは仕組上できない」という所もたぶん多いと思うのですけれども、ちなみに僕が勤めている会社は自分で選べるのです。国も含めて全部自分で選べるのです。

倉重:どこで働くかも含めてですね。

澤:そうです。それが全部オープンになっていて、これは外部の人も見られるサイトになっていて、それで国を選んで、ロールというのですが、役職、ロールを選んで、アプライすると、すぐにそのマネージャーに連絡が行って、すぐにインタビューが組まれて、上司はこれを止められないのです。

倉重:社内FA制度どころではないですね。常にそれがオープンになっていると。

澤:常にそれが回っています。

倉重:ポジションに空きがあるとそれが全部オープンになっていると。

澤:そうです。空きがなければでは諦めるのかというとそうではなくて、空きがなければ、そのマネージャーに、もし仮に空きが出たときには俺に声をかけろということは言っても構わないわけです。

倉重:そう言っておくと、また思わぬ所で空いたりしますよね。

澤:やはりアウトプットは過多の人間というのは気付かれやすいですから、そうすると声もかかりやすいという所があります。

倉重:たぶん日本人の人でアウトプットをしようというと、「えー、そんなプレゼンなんかできないです」とか「本を書くなんてレベルが高いです」などとそのように捉えてしまう人が多いと思うのですが、澤さんがおっしゃっているのは、もっと気軽なものですよね。

澤:そうです。全然もっと気軽でいいのです。だからちょっとしたことで良いと思うのです。例えば全社横断の何かのプロジェクトが走ったから、誰かやる人と言えば、まず手を上げてみるのです。そうしたら普段会わない人と会うことになるので、会えばいいのではないか、面倒くさいと思うのか、それともやってみると思うのか。

倉重:そういうところでまた誰かが見ていたりするわけですね。ちょうど別の外資系の人事部長の方とも話をしたときに出てきたのですが、やはり外資だから、当然ジョブディスクリプションとか仕事定義が決まっていて、これは俺の仕事だというのがはっきりしているのだけれども、それでもこれというのは誰がやるのだろうな、みたいなものは当然結構あるのです。それを、「あ、それ、僕やっときましょうか?」ということを続けていくと、かなりいつかチャンスが舞い込むということを仰っていて、外資でもそうなのだなと思いました。

澤:もう全然、全くその通りです。

倉重:やはりそういう何か自分を変えたいという行動をしている中で、つらいときもあると思います。うまくいかないときもあるでしょう。でもやはり諦めないだけで道は開けると思いますね。

澤:あとは自分を責めないことです。僕はこれが成長の阻害要因だったと思うのですが、自分には能力がないと思って、要は自分で自分を貶めていました。

ハッキリ言って良いことは何もないのです。なぜかというと、これは成長しないことに対する言い訳になってしまうからです。

倉重:能力がないからこんなものなのだろうという言い訳になってしまいますね。

澤:もう仕方がないと思ってしまう。それで、本当に仕方がないと思っているのであれば、たぶんそれは幸せなのです。

倉重:自分の能力で最大限頑張っているということになりますね。自分の中ではね。

澤:そうですし、そこに満足をしているということなのです。でもそうではないなと少し思っているのであれば、その自分を開放してあげることも自分にしかできないのです。

倉重:子育てなどにも通じる話ですね。

澤:全く同じだと思います。キャップをしているのは、結局自分自身であったりとか、まだ年端も行かないお子さんであれば親だったりするわけです。

倉重:これはどうやって取り除いたらいいのでしょうね。

澤:やはりそれは自由であることのほうがいいと、これは言い聞かせるしかないかなと。最近かみさんが子ども向けのワークショップとかをやっているのですが、やるとやはり子どものイマジネーションのすごさというともうみんな自由なのです。ただ面白いのは、「うまく作ろうとしないでいい、あなたが作りたいものを作ればいいんだよ」と、かみさんが言うのはこれだけなのです。作り方に関しては、道具の使い方程度は教えますけれども、こうやるといいは一切言わない。

倉重:正解はないと。

澤:ない。みんなのびのびと素晴らしいものを作って、これは記事にもなったのですが、大人向けのワークショップをやった後に少し面白いことが起きたのです。あるイベントがあって、そこの一つのコマとしてかみさんもワークショップをやったのです。他の人たちは別のセミナーがあったり、演劇を見たりとか、いろいろな部屋があって、それぞれにコンテンツがあって、外にノートが置いてあって、そこに感想を書くというふうになっています。イベント会場ではよくありますよね。それで、楽しかったですとか、為になりましたとか、みんなきれいに字で書いてあるのですが、かみさんのワークショップを見た人だけ、ノートいっぱいに絵を描いたり、他の人が書かないような文字で書いたりとか。

[澤さんの奥様、澤奈緒さんのワークショップ一例

倉重:もう発想が違うのですね。

澤:解放されてしまっているのです。解放されると人間というのは思わぬ能力を発揮したりできるので、だから何か非常にこわばっているなと思ったら、とにかく解放をしましょう。それは例えば解放のされ方というのはいろいろだと思うのですが、環境を変えるかもしれないし、男性でなくて女性で結構あるのが、女性というのはその手段をいくつか持っているのです。一つが髪を切る。髪型を変えるだけで女性というのは行動が思いっきり変わります。

倉重:確かに雰囲気も変わるし、周りからの印象も変わりますよね。

澤:あと女性だとメイクをするのもあるし、あとちょっと面白いのは、即効性があるのはネイルなのです。ネイルをきれいにしますよね。

倉重:ネイル、なぜ即効性があるのでしょうか。

澤:なぜかというと、ネイルのおしゃれというのは、自分で常に観察できるおしゃれだからです。

倉重:なるほど!確かに、指はよく目に入りますもんね。それで自己認識がまた変わっていくわけですか。

澤:そうです。服というのは駄目なのです。鏡に映さないと分からないし。だけれどもネイルというのは、いつでもこうやって見ると気分が上がるのです。

倉重:男はどうしたらいいですか。

澤:男。だからこれから大事なのですよ。

倉重:男もネイル?

澤:全然ネイルもありだと思います。少し今は汚いのですが、僕は実は定期的にネイルに行っているのです。磨くだけですが、やはり指先がきれいであるというだけでも自己肯定感が増します。あとは男性の場合であれば、体を鍛えるのも良いと思います。

倉重:それでまた自信が出るのでしょうね。

澤:自信が出るから。できる範囲でいいのです。別に全員逆三角形になって、若かりし日のシュワちゃんみたいになれとか、スタローンになれとか言うつもりはないのだけれども。

倉重:それなりに良いボディで。私もそう思って、今ジムへ通っているのですが、完全にプロレスラーになっていますね。

澤:レスラー、すごいじゃないですか。

倉重:やせずに、脂肪の中に筋肉が埋まってます…

澤:より強靭な体ができあがって。

倉重:スクワットで100キロぐらい上がるようになったのですが、体形は見た目はアレですね…

澤:でもそれでいいのですよ。100キロ上がっている自分というのは、達成感があるじゃないですか。

倉重:確かにそれはありますね。

澤:それも全然ありなのです。

倉重:確かに100キロ上げれるようになったら、大概の男性には勝てますよと、100キロ上げれる人なんて、そんなにほとんどいませんよとトレーナから言われました。そうなのだと思って、少し自分のイメージが、印象が違いますね。

澤:割とそれは投資が少なめでできるじゃないですか。単純ですよね。だけれども、自分が気持ちが良ければそれでいいので、それを見つければいいと思うのです。

倉重:自分の中で必ず結果が出ますしね。

澤:例えば倉重さんみたいに、司法試験に受かって、弁護士に今からなれと言って、全然違う仕事をしてきた人がやろうと思うと、少しハードルが高めですよね。かなり集中して勉強しなければいけないし、そもそも受かるかどうかも分からない。でも100キロ上げる体を作るであれば、けがや疾患があったら別ですが、大概の人は目指しようがあります。

倉重:それはそうです。定期的にさえやれば。

澤:100キロでなければ、今までであれば5キロしか走れなかったのが10キロ走れるようになる。これも自分を褒めてあげる理由になります。何でもいいのです。

倉重:そういうちょっとしたアップデート、変化、これを繰り返していくと、いつか大きな結果となったり、生活も変わってくるということなのでしょうね。

澤:自己肯定感につながったりします。これはあともう一つが服もそうなのです。僕の非常に仲良くさせていただいている方で、政近準子さんというパーソナルスタイリストの方がいるのですが、その方が「装力」という装う力というものを提唱していて、装うことによって得られる力がある。装うことによって得られる力というのは、割とハードルが低めなのです。どういうことかというと、服は買って着れば身に付くので、肉体改造というのは時間がかかります。

倉重:確かに肉体改造は数カ月かかりますね。服は一瞬ですね。

澤:顔を変える、整形というものもそう簡単ではありません。背を伸ばす、ほぼ無理です。だけれども、服を着る、服を変えるというのは。

倉重:もうその日のうちにできますね。

澤:そうです。その日のうちに。で、自分を生まれ変わらせることもできます。おしゃれをするというのは、これは大いにありだと思います。外見から変えます。

倉重:そうですね。それだけで本当に自己認識が変わりますよね。

澤:僕の場合だともう髪型がこうなのですが、髪型がこうだということをキープしていることにより、やはり印象というものをすごく付けることができているわけです。

倉重:澤さんの髪型はキリスト様的なイメージがありますよね。

澤:よく言われます。だけれども、それを維持するということにも一つの意味ができているわけです。これは僕の外側の一つの個性になっているわけで、それに対してある意味責任も発生するのです。

倉重:美容室へ行ったり、メンテナンスするのも大変ですよね。

澤:あとやはりこの髪型で礼儀正しくない状態という振る舞いは、ネガティブに非常に振れます。そうならないようにするには、自分を律するという一つの理由にもなるし。

倉重:必要以上に厳しく見られますしね。

澤:洋服に関しても、非常に派手なものを着たりすると、当然そういう目は向けられるかもしれないけれども、まず気分が上がるのであれば大いに結構です。気分が上がっている状態で、かつそれで自分に対して律するとなれば、ストレスはそんなにないと思うのです。着たくもない服を着て、我慢させられれば、これは非常に嫌だと思います。着たくもないのに白いシャツを着て、着たくもないのに黒いスーツを着て、というと気分が上がらないと思うのです。シャツがピンクだろうと、柄だろうといいではないですか。

倉重:本当です。全員でリクルートスーツ着て、入社式行っている場合ではない、一人ぐらい違う服装で来いよと。

澤:僕のころには「リクルートスーツ=紺色」だったのですが、紺色のスーツというのは結局一度も買ったこともないのです。

倉重:私もそうです。持っていないです。

澤:まず似合わないです。似合わないものを着るというのはばからしいです。だから似合うものを着たいということで、あれは選ばなかっただけなのです。

(第4回へつづく)

立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、外資系大手IT企業に転職。 ITコンサルタントやプリセールスエンジニアとしてキャリアを積んだのち、2006年にマネジメントに職掌転換。

幅広いテクノロジー領域の啓蒙活動を行うのと並行して、サイバー犯罪対応チームの日本サテライト責任者を兼任。

現在は、数多くのスタートアップの顧問やアドバイザを兼任し、グローバル人材育成に注力している。

また、美容業界やファッション業界の第一人者たちとのコラボも、業界を超えて積極的に行っている。

テレビ・ラジオ等の出演多数。

Voicyパーソナリティ

琉球大学客員教授。

Twitter:@madoka510

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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