Yahoo!ニュース

豊島将之九段、苦闘の末に今期A級初白星 深夜の逆転で菅井竜也八段を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月11日。大阪・関西将棋会館において第83期順位戦A級4回戦▲豊島将之九段-△菅井竜也八段戦がおこなわれました。


 11日の朝10時に始まった対局は、12日の深夜1時17分に終局。結果は177手で豊島九段が勝ちました。

 リーグ成績は豊島九段1勝3敗、菅井八段0勝4敗となりました。

残留を目指す戦い


 豊島九段は前期A級で7勝2敗の好成績をあげ、藤井聡太名人への挑戦権を獲得しました。


 今年度の名人戦七番勝負。豊島九段は1勝4敗で敗退となりました。

 豊島九段はA級8期目となる今期を、順位1位で戦うことになりました。

 1回戦、豊島九段は佐々木勇気八段と対戦。戦型は角換わり腰掛け銀で、途中は後手・豊島九段の攻めが決まり、大きくリードしていました。しかし佐々木八段はきわどいところで耐え続け、ついに逆転。結果は105手で、佐々木八段が大きな白星をあげました。

 豊島九段はその後、渡辺明九段、佐藤天彦九段に敗れ、3連敗で本局を迎えました。

 A級5期目の菅井八段は1回戦、A級に昇級したばかりの増田康宏八段と対戦。序盤の駆け引きから菅井八段は袖飛車にして、定跡形からはずれた力戦となり、95手で増田八段が勝ちました。

 菅井八段はその後、永瀬拓矢九段、千田翔太八段に敗れ、やはり3連敗で本局を迎えています。

 豊島九段、菅井八段ほどの実力者でもなかなか初白星が出ない。A級とはなんとも怖いところです。両者ともに、まずは残留を目指す展開となりました。

菅井八段優勢に

 本局、後手の菅井八段は三間飛車に振りました。以下は両者ともに穴熊に組み合う、相穴熊の布陣となりました。

 角交換から局面は大きく動き、次いで飛車も交換され、難しい中盤の戦いに入ります。局後、豊島九段は「少しずつ自信がない展開」と語っていました。しかしそれほど差はつかず、力の入った攻防が続いていきます。

 100手を過ぎた段階で、互いに金銀4枚の上に馬まで引きつけ、いつ果てるともしれない状況に。豊島九段は8筋に香を打って上部からの攻撃をねらっていました。しかし逆に、菅井八段はその香をねらいます。

豊島「香車を取り切られる形になって、はっきりまずくなって」

 いつしか両陣ともに「岩より堅し」とされる金底の歩のバリケードが出現。どちらも攻略に手間のかかる堅陣は健在ですが、形勢ははっきりと、菅井八段がリードを奪いました。

豊島九段、深夜の逆転で今期初白星

 順位戦の持ち時間は6時間。A級では依然、将棋界伝統のストップウォッチ形式が採用されています。この時間設定は、日付が変わった深夜に、数々のドラマを生んできました。

 菅井八段優勢で迎えた終盤戦。両者ともに持ち時間を使い切り、1手60秒未満で指す「一分将棋」が続いていました。形勢が苦しい豊島九段は表情も変えず、淡々とした手つきで自陣に駒を打ち、粘り続けます。一方の菅井八段は厳しい表情で盤上を見つめ、時折自分を鼓舞するように、舌打ちをし、うなり声を挙げていました。

 あやしい雰囲気が漂い始めていた中、162手目。菅井八段は59秒まで考えたあと、銀で香を取ります。これが重大なミスでした。豊島玉にはギリギリ詰めろはかかっておらず、豊島九段に反撃のターンがめぐってきました。

豊島「(162手目)△8七馬とか攻められるとまずいかなと思ってたんですけど。(△7八)同銀成▲7四桂で、まあそのとき、こちらの玉が詰んでしまうかもしれないんで、それはちょっと読みきれなかったですけど。(163手目)▲7四桂打って、きわどい図になったのかなと思って」

 164手目。菅井八段はやはりギリギリの59秒まで考えます。しかし豊島玉に詰みはなかった。菅井八段は自陣に金を打ったあと、ため息をつき、舌打ちをし、左手で自分の頬を強く叩きました。

豊島「△8一金(打)と受けられたら、それなら勝ちなのかなと思いました」


 177手目。豊島九段は歩を打って詰めろを続けます。ここで菅井八段が投了。深夜1時17分、ついに大熱戦に幕がおろされました。

 苦闘の末に、豊島九段は今期A級で初白星をあげ、1勝3敗としました。

豊島「なかなか厳しいですけど、粘り強くやっていかないといけないかなと思っています」

 豊島九段の今年度成績は5勝14敗(勝率0.263)となりました。

豊島「順位戦もそうですし、なかなか他(ほか)の棋戦でもあまりいい結果が出てないので。一局一局を丁寧に指していくしかないのかなと思っています」

 菅井八段は今期A級で0勝4敗。今年度成績も3勝10敗(勝率0.231)と不調です。ここから巻き返すことはできるでしょうか。


将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事