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ディズニーとフォートナイトの本気コラボにみる、「体験」空間としてのゲームの可能性

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:Fortnite公式YouTube)

ディズニーが先週カリフォルニアで開催した「D23 2024」の発表会では、「アナ雪3」や「トイ・ストーリー5」などの今後の映像作品や、テーマパークの新エリアの発表など、ディズニーの新しい取り組みが発表され話題になっています。

参考:「D23 2024」ディズニー発表まとめ、タイトルと公開日の一覧

ただ、日本ではあまり話題になっていませんが、その中でもひときわ異彩を放つ発表の中に、今後のディズニーのデジタル戦略の方向性が垣間見えましたので、ご紹介したいと思います。

その異彩を放つ発表とは、ディズニーとゲーム「フォートナイト」でおなじみのエピック・ゲームズとのコラボです。

ひときわ注力されていたコラボ発表

この発表に際し、ディズニーは、ディズニー・アニメーション、ピクサー・アニメーション、マーベル、そしてルーカスフィルムの4つのスタジオのトップ4人を壇上にならべ、順番に各スタジオとフォートナイトコラボの新情報を公開するという選択をしたのです。

筆者もこのイベントに招待いただき会場で発表の様子を撮影してきましたが、他の発表が基本的に1人や2人で実施されていた点と比較すると、このフォートナイトコラボへのディズニーの本気度は明白だったと言えます。

しかも、発表当日は、このフォートナイトとのコラボパートのみ、フォートナイトのゲーム内でもライブ配信が実施されていたのです。

当日は130万人を超えるフォートナイトユーザーが、リアルタイムで発表の様子を見守っていたようで、様々なゲーム実況者の動画でも、今回のコラボが歓迎されており、さらに多くのユーザーにこの話題が広がったのは間違いありません。

2000億円を超える巨額出資後のコラボ

もちろん、フォートナイトでは、マーベルやスター・ウォーズのキャラクターとのコラボは過去にも何度も実施されていますので、それ自体は珍しい出来事ではありません。

ただ、今回ディズニーの主力4大スタジオのトップがそろってフォートナイトとのコラボを発表したことの意味は、決して小さくないと言えるでしょう。

何しろ、ディズニーは2月にエピック・ゲームズに対して2000億円を超える出資をしたばかりです。

参考:ディズニーがEpic Gamesに約2225億円の出資、フォートナイトと繋がる新空間を共同開発

今回の「D23 2024」での発表は、出資後初めての大規模な発表になりますので、ある意味力が入っていて当然とは言えます。

特に皆さんに注目していただきたいのは、このコラボ発表が、「D23 2024」の2日目の「Disney Experience Showcase」というテーマパークの新エリアやアトラクションなどを発表する日の中で実施された点です。

「体験」する場としてのゲーム

実は、ディズニーの中で、フォートナイトのようなゲームは、単純にIPを切り売りして収益を上げる手段ではなく、ディズニーのストーリーや世界観をゲストに「体験」してもらうための一つの選択肢として位置づけられているのです。

象徴的なのは、この発表の翌日にメディア向けに開催された説明会での議論です。

この説明会では、ディズニーのパークの設計やアトラクションの企画・管理を行うウォルト・ディズニー・イマジニアリングのトップと、国際パーク事業、クルーズ事業、ゲーム事業のトップが一堂に会し、ディズニーがゲストの「体験」をどう考えているかについての議論が展開されました。

(出典:ウォルト・ディズニー・カンパニー)
(出典:ウォルト・ディズニー・カンパニー)

その議論の過程では、ディズニーにおいて、クルーズ事業やゲーム事業も、テーマパークやDisney+などの映像コンテンツと同様に、ゲストがディズニーのストーリーや世界観を「体験」するための事業であることが明言されていたのです。

特に印象深かったのは、世界にはテーマパークに行きたくても行けない多くの人々がいるため、エピック・ゲームズとの提携はそういった人々にデジタル空間でテーマパークの体験を提供することを一つの目的としているという発言です。

ディズニーではゲームなどでのデジタル空間での、ディズニーのコンテンツの「体験」が、確実に他の映像コンテンツやテーマパークに好影響があると確信し、ゲームを「体験」の事業として取り組んでいるわけです。

ディズニーのメタバースへの再挑戦

実は、このビジョンについては、すでに2月の段階で一部が明らかになっています。

ディズニーがエピック・ゲームズへの出資を発表した際に、今後の取り組みを想像させる一つのティザー動画が公開されており、動画の最後にデジタル空間のディズニーランドのような場所が描かれているのです。

実はディズニーは一度メタバースの構築に挑戦しようとしたものの、2023年にコスト削減のために7000人ものメタバース部門のスタッフをリストラした歴史があります。

参考:ディズニー、前CEOが提唱したメタバース部門を閉鎖

ただ、自前での構築は断念したものの、メタバース的なデジタル空間の重要性は引き続き感じていたため、翌年にエピック・ゲームズへの出資を決断したということのようです。

ゲームの可能性を広げるフォートナイト

何しろ、フォートナイトは毎月2億3000万人以上のアクティブなユーザーがいると言われており、すでに象徴的なサバイバルゲームだけでなく、レゴとコラボしたゲームや、ユーザーが開発したゲームなど大量のゲームをプレイすることができるプラットフォームになっています。

日本では、まだまだフォートナイトのようなゲームは、子供やゲーマー向けの特殊な空間という位置づけで考えている経営陣が少なくないと思いますが、ディズニーの経営陣は明確にフォートナイトをテーマパーク同様にゲストに「体験」を提供することができる場所と考えているようです。

現時点ではまだフォートナイトのゲームと、ディズニーの様々なキャラクターとのコラボが中心になっていますが、おそらくはフォートナイトの中に今後ディズニーランド的な仮想テーマパークを構築する挑戦がされていくことになるでしょう。

まだフォートナイトがどういうサービスか良く知らないという方は、今のうちにちょっと覗いてみることをおすすめしたいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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