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西山朋佳女流王座(25)大逆転で里見香奈挑戦者(28)を退けタイトル防衛 女流王座戦五番勝負第5局

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月14日。東京・将棋会館において第10期リコー杯女流王座戦五番勝負第5局▲里見香奈女流四冠(28歳)-△西山朋佳女流王座(25歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 10時に始まった対局は17時53分に終局。結果は158手で西山女流王座の勝ちとなりました。

 西山女流王座は初防衛を果たし、女流三冠を堅持しました。

 里見挑戦者は女流王座通算5期獲得での「クイーン王座」資格、および清水市代女流七段と並ぶ歴代1位のタイトル43期目という記録がかかっていました。しかし今期女流王座戦での達成はなりませんでした。

西山女流王座、驚異の終盤力で大逆転

 女性将棋界は現在、西山、里見の「二強時代」と言われています。本シリーズはその二強がぶつかり合い、観戦者の期待にたがわぬ好勝負となりました。

 最終第5局の先後は、改めて振り駒で決められます。先手番を得たのは、里見挑戦者でした。

 両者は振り飛車党。本局は里見挑戦者が中飛車、西山女流王座が三間飛車に振って、相振り飛車となりました。

 本シリーズ、第2局は里見挑戦者が居飛車で対抗形。それ以外はすべて相振り飛車となっています。

 玉形は、西山女流王座は金を立つ一手が入っていない未完成の金無双。里見挑戦者は二枚金が一路ずつ左にずれている「離れ金無双」とでもいうべき得意の形です。

 中盤の戦いが始まり、両者の駒台に角銀歩が乗せられたあと、里見挑戦者は西山女流王座の飛車を圧迫しながらポイントをあげます。

 西山挑戦者は角香交換の駒損から強襲に出ました。このあたりでさらに差がついたか、里見挑戦者が大きくリードして終盤戦を迎えます。

 西山女流王座は手段を尽くして攻め続け、駒損を回復します。とはいえ自陣は手薄く、里見挑戦者に飛車を打ち込まれたところでは、敗色濃厚にも見えました。

 しかし西山女流王座はなおも強靭な粘り、迫力十二分の猛追を見せます。

 里見挑戦者も何か決定的なミスをしたというわけではありません。しかし流れは次第にあやしくなっていきます。

 振り返れば先日の女流王将戦三番勝負最終第3局でも、信じられないような大逆転が起こりました。

 本局もまた西山女流王座が恐るべき底力を発揮しました。西山陣の4筋、3筋に並んで打たれた底歩が粘りあるバリケードとなります。さらには2筋、攻防にはたらく下段の香が打たれました。

 131手目。里見挑戦者はと金で3筋の底歩を取ります。二段目の龍(成飛車)の横利きを利かせて開き王手。しかしこの一手でまさかの大逆転となりました。

 132手目。西山女流王座は4筋二段目に香を打って合駒とします。この香もまた攻防にはたらいています。結果的にこの香は最後、里見玉の死命を制することになりました。

 西山女流王座は龍で里見陣の駒を取りながら、里見玉を中段へと追います。形勢はあっという間に、西山勝勢となりました。

 里見挑戦者は残りわずかな時間を割いて、中段に金を打ちます。「詰めろ逃れの詰めろ」の攻防手。相手が一手でも間違えれば、また逆転となるところです。

 西山女流王座は自玉の危機も把握しながら、的確に里見玉を寄せていきました。最後は自玉の合駒に打たれた香が、里見玉の入玉ルートをふさいで受けなしに。まさに「勝ち将棋、鬼のごとし」という展開でした。

 158手目。西山女流王座は自玉の頭の歩を一つ突きます。中段の里見玉は上下左右からはさみうちの形となり、手段がありません。

 里見挑戦者はここで投了。大逆転で西山女流王座防衛となりました。

 女流タイトル保持数は西山三冠、里見四冠で変わりません。「二強」時代は、これからしばらくも続いていくのでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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