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HPVが原因の皮膚がん、CXCR4阻害薬で治療できる?WHIM症候群の患者さんの例

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【WHIM症候群ってどんな病気?】

WHIM症候群は、イボ、免疫グロブリンの低下、感染症、白血球減少を特徴とするまれな免疫の病気です。CXCR4という遺伝子の変化が原因で、CXCL12というたんぱく質を受け取るCXCR4の働きが強くなりすぎてしまいます。

WHIM症候群の患者さんでは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が大きな問題となります。体中にウイルス性のイボができたり、肛門や生殖器、のどにできものができたりします。これらは皮膚がんに進行してしまうこともあるのです。

【CXCR4阻害薬の効果は?】

プレリキサホルというCXCR4阻害薬(サノフィ・ジェンザイム社の薬)は、WHIM症候群の患者さんで白血球が減る症状を改善し、イボを小さくしたり、HPVが原因の皮膚がんを小さくしたりする効果が臨床試験で示されています。

今回の研究は、CXCR4の働きが強くなるWHIM症候群に似た病気の29歳男性の患者さんに、プレリキサホルを6ヶ月間飲んでもらい、その後6年間の経過を観察した結果を報告しています。

治療開始から5ヶ月後、患者さんの白血球やリンパ球の数は3~4倍に増えました。また、免疫に重要な樹状細胞は58倍にも増え、健康な人と同じレベルまで回復しました。

患者さんの肛門にできていた皮膚がんからは、HPVの一種であるHPV5型が見つかりました。プレリキサホルを6ヶ月間飲み、イミキモドという薬を短期間一緒に使ったところ、皮膚がんは完全に消えてしまったのです。

プレリキサホルを長く飲み続けることは、WHIM症候群の患者さんだけでなく、HPVに感染しやすい免疫の病気の患者さんにも効果があるかもしれません。

【免疫の病気とHPVによる皮膚がん】

WHIM症候群のような免疫の病気の患者さんは、皮膚のHPV感染が問題となることが多いです。皮膚の細胞に感染しやすいHPVが原因で、イボやがんができやすくなってしまうのです。

HPVが原因で肛門や生殖器に皮膚がんができた患者さんで、一般的なHPV16型やHPV18型が見つからない場合は、ほかの種類のHPVも調べてみることが大切だと言えます。

免疫力の低下した患者さんの皮膚がんは、早期発見と適切な治療が何より重要です。プレリキサホルのような新しい治療薬を使うことで、免疫の働きを根本から改善しながら、皮膚がんをコントロールできる時代が近づいているのかもしれません。

参考文献:

Viviana Marin-Esteban et al. CXCR4 Antagonist in HPV5-Associated Perianal Squamous-Cell Carcinoma. N Engl J Med 2024; 390:1339-1342

DOI: 10.1056/NEJMc2213180

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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