アトピー性皮膚炎の新薬バリシチニブ、小児への長期投与の効果と安全性が明らかに
アトピー性皮膚炎は、乳幼児期から思春期にかけて発症することが多い、慢性的な炎症性皮膚疾患です。かゆみを伴う湿疹が繰り返し現れ、患者さんのQOL(生活の質)を大きく損なうことが知られています。
従来、ステロイド外用薬や免疫抑制剤の塗布が主な治療法でしたが、近年、飲み薬による全身療法も選択肢として加わりつつあります。その一つが、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のバリシチニブ(販売名:オルミエント)です。
バリシチニブは、JAKを選択的に阻害することで炎症を抑える働きがあり、すでに成人の中等症から重症のアトピー性皮膚炎に対して使用が認められています。そして今回、小児患者さんを対象とした第III相臨床試験BREEZE-AD-PEDSの長期投与時の結果が報告されました。
【バリシチニブ小児臨床試験の概要と結果】
BREEZE-AD-PEDSは、2歳以上18歳未満の中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者467名を対象に行われた多施設共同二重盲検ランダム化プラセボ対照試験です。16週間のプラセボ対照期に続き、最長3.6年間の長期投与期に移行しました。
16週の時点で、医師による全般改善度評価であるvIGA-ADスコアが0/1/2の「反応良好」または「やや良好」だった被験者は、割り付けられた用量を継続しました。一方、vIGA-ADが3/4の「不十分な効果」だった被験者は、年齢に合わせてバリシチニブ4mg(10歳以上は4mg錠、2〜10歳未満は2mgシロップ)に移行しました。
その結果、16週時の反応良好/やや良好だった被験者のうち、バリシチニブ4mg群では1年後にvIGA-AD 0/1を56.8%が達成しており、プラセボ群の39.7%を上回りました。また、アトピー性皮膚炎の重症度を示すEASI(Eczema Area and Severity Index)スコアが75%以上改善した割合も、バリシチニブ4mg群で高い傾向にありました。
有害事象については、バリシチニブ群とプラセボ群で大きな違いはなく、重篤な有害事象の発現率にも用量による差は見られませんでした。最も多かったのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や上気道炎などの感染症でしたが、重症化した例はほとんどなく、また結核は1例も報告されませんでした。
興味深いのは、アトピー性皮膚炎では骨の健康が損なわれやすいことが知られていますが、本試験ではバリシチニブによる骨への悪影響は見られなかった点です。骨年齢と暦年齢の差は平均0.5歳以内に収まり、成長速度も同年代の健常児と同等でした。
【バリシチニブがアトピー性皮膚炎治療に与えるインパクト】
今回のBREEZE-AD-PEDS試験の結果は、バリシチニブが小児のアトピー性皮膚炎患者さんに対しても、長期的に有効かつ安全であることを示しています。
日本では2023年10月、2歳以上の中等症から重症のアトピー性皮膚炎への適応が追加承認されました。皮膚の炎症をコントロールし、痒みを和らげることで、子供たちの生活の質を高められる可能性があります。
ただし、現時点ではまだ小児での使用経験が限られているため、今後も慎重なモニタリングが必要だと考えられます。
バリシチニブは、アトピー性皮膚炎の新しい選択肢の一つとして期待されます。皮膚科医と小児科医が連携し、患者さん一人一人に合った最適な治療法を探っていくことが大切だと言えるでしょう。
参考文献:
Andreas Wollenberg et al., Longer-term safety and efficacy of baricitinib for atopic dermatitis in pediatric patients 2 to <18 years old: a randomized clinical trial of extended treatment to 3.6 years, Journal of Dermatological Treatment, 2024.