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JAL、オーバーブッキングで欠航。国内線での実態とオーバーブッキングにならない防護策とは

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
JAL機(筆者撮影)

 日本航空(JAL)は、11月21日(水)の羽田空港発福岡空港行きのJL335便(定刻:羽田19時45分発、福岡21時45分着)において、オーバーブッキングによる座席調整に時間を要し、福岡空港の運用時間内である22時までに着陸できないと判断し欠航となった。天候や機体整備、滑走路閉鎖などではなく、オーバーブッキングによる欠航は日本国内では聞いたことがない。座席の調整に手間取り遅延するケースは稀にあるが、最終的に欠航になって全員が乗れなかったというのは初めてのケースである。

375人乗りの飛行機に401人の予約。チェックインは395人で20席が不足した

 今回の状況を整理してみよう。JALによるとこの日のJL335便羽田発福岡行きは、375人乗りのボーイング777-200型機で運航される予定となっていた。375人に対して26人オーバーの401人の予約が入っていたが、実際にチェックインをしたのは395人で、予約した人が空港に来なかった乗客(ノーショー)は6人のみだった。この時点で既に4人の乗客が振替に応じていたが、JL335便の前便となったJAL333便でも4人が振替になっていたので、最終的に20人の超過となった。

 定刻(19時45分)の45分前の19時からフレックストラベラー(今回の場合、翌日便への振替を了承してくれる人)の募集を開始し、定刻15分前の19時30分から搭乗も始まったが、それでも20人を確保することができず、最終的に20人の協力が得られてドアが閉まったのが定刻よりも35分遅れの20時20分となった。この段階で22時までに福岡空港へ着陸することは困難と判断し、20時31分に欠航を決め、20時40分に機内の乗客に欠航を案内し降機を開始した。その後、ホテルもしくは空港ターミナル内、自宅などで1泊したのち、翌日の朝の臨時便で401名のうち346人が福岡空港へ向かい、約半日遅れの福岡到着となった。

遅延ではなく欠航になった責任は大きい

 今回、遅延ではなく欠航になってしまった理由として、福岡空港の着陸に門限があったからだ。市街地にあることから福岡空港では22時までの離着陸しか原則認めておらず、1分でも過ぎてしまえば着陸できない。夜遅い時間帯では航路も空いており、着陸待ちもほとんどなく羽田空港を離陸して福岡空港に着陸する実際の飛行時間は1時間25分~1時間35分程度であることから、20時25分より前までに離陸しなければならないが、20時20分にドアクローズということで、離陸は20時30分は過ぎてしまうことは確実であり、欠航という判断を下したのだろう。

 今回のケースでは運用時間に制限のある空港への便だったことから、どこかのタイミングで大きな決断をしなければならなかっただろう。というのは、航空券のルールとして、予約がされていても、満席で席が足りなくなった場合には次便以降の振替を条件に搭乗を断ることができるようになっている。今回のような場合には、最終的にやらなければならなかっただろう。もし預けている荷物がある人が対象であれば、その荷物を探し出して降ろさなければならず、その時間も含めての判断が必要だったといえる。

 航空会社側では、「フレックストラベラー制度」で翌日便への振替に協力をしてくれる協力者をギリギリまで探すことで、どうしても当該便に乗りたい人を乗せる為の最大限の努力をしていたことは評価できるが、門限がある空港への便であれば尚更、デッドラインの時間を考えての対応が必要だっただろう。そういった意味でも、オーバーブッキングによる欠航という初めてのケースに対する責任は大きいだろう。

羽田空港JAL国内線チェックインカウンター(2018年1月筆者撮影)
羽田空港JAL国内線チェックインカウンター(2018年1月筆者撮影)

座席数よりも多く予約を取る理由とは

 ここからは、国内線におけるオーバーブッキングの実態について考えてみる。JALやANA(全日本空輸)など大手航空会社では、実際の座席数よりも多くの予約を受けるのが一般的である。特に大型機や中型機を中心に投入している幹線路線では、出張や単身赴任先との往復などで利用するビジネス利用が多く、予約変更やキャンセルが可能な航空券の利用が多いので、予約が入っていても搭乗しないケースもある。また、普通運賃やビジネスきっぷ、株主優待割引航空券などは直前の予約であれば便出発20分前までに購入すればいいので、予約だけして購入をせずにキャンセルする場合もあり、一定数のキャンセルが出ることを想定して予約を多く取っている。

 航空会社側としては、座席数と同数の予約しか受けないとなれば、当日キャンセル分は損失になってしまうが、多めに予約を取っておくことでキャンセルが出ても満席に近い乗客数で出発することができるので、キャンセルが出ても大きな損にはならない。また利用者側にとっても、予約できる座席数が増えるメリットがあり、乗りたい時間に乗れるチャンスが増えるということになる。

 そこで、何席分を多めに販売するのかが航空会社にとっての腕の見せどころであり、長年のデータを基にして実際の販売座席数を決定する仕組みになっている。その読みを誤ると予約数よりも多い乗客がチェックインをすることになり座席が不足することになる。

今回注目された「フレックストラベラー制度」とは

 座席数が不足した際に急いでいない乗客に対してボランティアを募るのが「フレックストラベラー制度」だ。流れとしては、座席の不足が見込まれる時点でフレックストラベラーの募集を空港内で開始する。ルールも明文化されており、JALやANAの国内線においては、当日中の振替便の場合は協力金として1万円、翌日以降の振替便の場合は2万円+宿泊費や移動の交通費などといった経費が支払われる。マイレージ会員であれば、協力金をマイルでもらうことも可能(当日中の場合は7500マイル、翌日以降は1万5000マイル)となっている。また、振替はせずに旅行自体を取りやめる場合には無料での払い戻し+協力金が支払われる。

 この制度があることで、オーバーブッキングで実際に座席が足りなくなっても協力金がもらえることで、振替に応じてくれる乗客も多く、大きな混乱になることはほとんどない。特に旅行者でスケジュールに余裕があれば、現金がもらえ、もし翌日便への振替になれば更にホテルも提供されるので、逆に積極的に応募してくれる。実際に座席数の調整ができ、予定通りに乗れることになったことをがっかりする人もいるほどだ(予定通りの便に搭乗できれば協力金は支払われない)。空港関係者によると、今回のように大型機で20席程度であれば振替に応じてくれるケースがほとんどだという。

3連休の2日前の夜だったことも影響

 今回は3連休の2日前の夜で、木曜日に有給を取れば4連休になることもあり、単身赴任先から福岡へ戻る人や出張帰りなど旅行での利用よりもスケジュール重視のビジネスでの利用者が多く、フレックストラベラーで協力する人が想定よりも少なかったことが混乱を招いてしまったことが大きな要因だろう。通常の水曜日と異なった乗客の流れの読みを誤ったことは否めない。この3連休は秋の行楽シーズンにも重なったこともあり、3連休前から混み合っており、木曜日の便がかなり混み合っていたこともあり、水曜日の仕事を終えてから移動した人も多かったようだ。

 JALではギリギリまで協力をしてくれる乗客を探し、最終的には20人の協力者を確保したが、ドアクローズの時点で「時すでに遅し」で欠航という判断になってしまった。

オーバーブッキングの最大の防護策は事前座席指定をすること

 強制的に次便以降への振替にならない為の防護策について考えてみよう。一般的に搭乗を断られる可能性があるのは、事前座席指定をしていない場合やチェックイン(搭乗手続き)がギリギリの場合にその可能性が高くなるといわれている。

 ひと昔前までは、空港到着後に必ずチェックインする必要があったが、現在では事前に座席指定を済ませておけば、そのまま保安検査場へ向かう搭乗スタイルに変更されたことで、羽田空港などの大きな空港ではなかなか当該便の乗客を探すことが難しく、ゲート前でフレックストラベラーを募ることが増えている。加えて、今回は19時45分発ということで仕事を終えてから羽田空港へ向かう人も多く、便出発間際に空港に到着する乗客が多かったことも協力者を集めるのにあたり苦戦したことも考えられる。

 あくまでも防護策であり、100%搭乗が保障されるとは断言できないが、事前座席指定は必ずしておくことを心がけて欲しい。最終的には座席番号を得ることで搭乗できることになるので、搭乗できない可能性は低くなる。今やほとんどの乗客が事前に座席指定をしているが、満席便では予約が取れていても「事前座席指定ができる席がありません」という表示がホームページ上に出ることもある。この時は出来る限り早めに空港へ向かうことを心がけて欲しい。実際、最終的に乗れないケースはほとんどないが、万が一、協力者が少なければ搭乗できない可能性も少なからずあるからだ。どちらにせよ、混雑が予想される時には早めに空港へ足を運ぶほうが安全である。

今回は全乗客に2万円+宿泊代などの経費が支払われた

 今回のようなオーバーブッキングによる欠航は絶対にあってはならない。最終的に航空会社都合で400人近い人のスケジュールを狂わせてしまった。JAL335便に搭乗予定だった乗客は、フレックストラベラーに協力した人だけでなく、欠航したことで全乗客に今回は2万円+宿泊などの経費が支払われたが、スケジュール変更を余儀なくされた人にとっては「欠航」という判断は納得できないだろう。

 天候や天災、機体故障、滑走路閉鎖などとは異なる今回のような人為的ミス(ヒューマンエラー)での欠航は、航空会社への信頼を損ねることにもなりかねない。航空会社のシステム障害による欠航も同様であるが、今回の教訓を踏まえて、安全と定時運航を最優先にしたオペレーションを考えるきっかけになって欲しい。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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