笹かまぼこを日常の食卓に―/武田の笹かまぼこ 武田武士さん
仙台・宮城の名産品である笹かまぼこ。その笹かまぼこをアヒージョにした「canささ」や、クリームチーズと合わせた「ささかまディップ!」など、革新的な商品開発を続けている株式会社武田の笹かまぼこ。会社を率いるのは、4代目となる武田武士さんです。
武田さんは、創業家3人男兄弟の3男。祖父、父、兄の後を継いで4代目となりました。
「私は高校を卒業して、コピー機のセールスマンをしていたんです。そこで骨を埋めるつもりで仕事を頑張っていたのですけれど、当時営業部長だった方が脳梗塞で倒れてしまって…。私が営業職として入社することも親孝行かなと思って、会社に入りました」。
その後、経営基盤を固めるために宮城県中小企業家同友会の会合に参加した武田さん。
「そこでは経営指針などをつくるのですが、これがまぁ、本当に自分自身をさらけだして丸裸にされるような会でして(笑)。それに兄弟で参加したんです。その会に参加するうちに社長を交代するかという話になったんです。そして、創業80年を目前にした2011年3月、東日本大震災が起こりました」。
さらに震災から3日後、病気で入院していたお父さまが亡くなってしまいます。
「正直、すぐに会社を立て直すなんていうことは考えられませんでした。工場は1階が浸水してしまいましたが、2階部分を避難所としてご近所の方々に開放しました。レストラン事業も行っていたので食べ物もありましたし、少しでもみなさんのお役に立てたらと思って」。
多い時には60名もの人が滞在したそうで、「そのときに『早く復活してね』とお声がけいただいたのが励みになりました」。
そして2019年、お兄さまが会長に、武田さんが社長になりました。しかし、そこで世界を襲ったのが新型コロナウイルスのパンデミック。武田の笹かまぼこの売り上げの多くはおみやげ需要、ドライブイン事業からであったため、売り上げにも大きな影響が出ました。
「雇用を確保するのが第一で、その中で創業家が2名も役員でいるのはどうなのだろうという話になり、2020年に会長が辞任しました」。
現在、創業家で経営に携わるのは武田さんだけになりました。
おみやげ需要が見込めなくなったため、武田さんは日常使いしてもらえるような商品開発に挑みます。それが、第7回新東北みやげコンテストで最優秀賞を受賞した「canささ」と第9回の同大会でお取り寄せ特別賞を受賞した「ささかまディップ!」でした。
「ずっとアイデアはあったんですけれど、忙しさを理由にして手をつけてこなかった。もしコロナがなければ、これらの商品は世に出ていなかったかもしれません」。
「canささ」が新東北みやげコンテストで最優秀賞に輝いたとき、表彰式に同行していた社員の方は目に涙をうかべ「社長がどれだけ苦労してきたか見ていたので本当にうれしいです」と、取材に答えたそう。
「それを聞くと、私も泣きそうになります(笑)。厳しいときはありましたが、常に明るくいよう、冗談がいえる雰囲気でいようとは心がけていますし、社員ひとりひとりにはしっかり愛情をもって接するようにしています。だって、心の中で『大好きだよ』って思いながらいう『おはよう』と、ただ声を発しているだけの『おはよう』じゃ、相手への伝わり方が違うじゃないですか」。
今後の目標について聞きました。
「まずはコロナでつくってしまった借金をすごいサイクルで返して、今いる社員たちが『部長を目指したい』『社長を目指したい』と思えるような会社にすること。継続するということを一番に考え、いずれ適切なタイミングで継承していけたらいいですよね」。
笑顔を絶やさないリーダーのもと、これからも武田の笹かまぼこは地域に根差した商いを続けていくのです。
「canささ」「ささかまディップ!」の開発秘話は、「暮らす仙台」でご紹介しています。ぜひご覧ください。
宮城県塩竈市港町2-15-31
022-366-3355
撮影:堀田祐介