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和田アキ子の再ブレークの原点となったMr.シャチホコのモノマネ芸の魅力とは?

ラリー遠田作家・お笑い評論家

近年、芸能界の女帝・和田アキ子にどうも元気がなかった。2015年を最後に『NHK紅白歌合戦』からも声がかからなくなり、歌手としての存在感も薄くなりつつあった。バラエティ番組でも、共演者の会話のテンポについていけない場面がたびたび見受けられるようになっていた。

だが、和田は見事に復活を遂げた。2021年9月にリリースされた新曲「YONA YONA DANCE」が大ヒットを記録したのだ。YouTubeで公開されているMV動画は驚異的な再生回数を叩き出し、TikTokでもこの曲を使った動画が数多く投稿された。

この曲が流行っている理由は、楽曲自体の良さに加えて、それを自分のものにして歌いこなしている和田の歌唱力の高さにある。彼女のソウルフルな歌声が、リズミカルな楽曲と見事な調和を見せている。相反するように見える2つのものが、それぞれの個性を生かしたまま融合することで、今まで誰も聴いたことがないような傑作が生まれた。

そんな和田の再ブレークの前に、彼女のタレントとしての魅力に光を当てていた人物がいる。ものまね芸人のMr.シャチホコである。和田の真似をする人は今までにも数多く存在していた。そのほとんどは歌手である和田の特徴的な歌い方を真似るものだった。しかし、Mr.シャチホコが目をつけたのは、バラエティ番組に出て普通に話をしているときの和田だった。

前に出した両手を軽く振りながら、ところどころ言葉を詰まらせてしゃべる。「カメラ」のことを「キャメラ」と言い、自分が知らないタレントが登場すると「何をされてる方なの?」と尋ねる。

今まで誰も意識していなかったような和田のしゃべり方や動きの細かい特徴をよく捉えていた。彼は2018年にこの新ネタで一気に注目を集めて、和田に扮して数多くのバラエティ番組に出演した。

優れたものまねは優れた批評でもある。彼のものまねによって、私たちは和田アキ子というタレントを新しい視点から楽しむことができるようになった。

芸名の通り、彼はもともとはMr.Childrenの桜井和寿の歌マネを得意としていた。あるとき、芸人のまちゃまちゃが経営している会員制の飲み屋で、和田に詳しい彼女からものまねをしてみてはどうかと勧められた。これがきっかけで彼は和田アキ子のしゃべり方や歌い方を徹底的に研究するようになり、ついにはそのものまねをマスターした。

ものまねは題材選びと切り口が重要だ。和田アキ子という使い古された題材を「普段のしゃべり方」という新しい切り口で料理したところが画期的だった。

『林先生が驚く初耳学!』という番組では本人との共演を果たし、本人に気に入られて靴を譲り受けた。幸いにもサイズはピッタリだったという。

コロッケにものまねされた美川憲一など、タレントがものまねをきっかけに再ブレークを果たした事例は今までに数多くある。和田も、Mr.シャチホコにものまねされたことで改めて注目が集まり、それがのちの再ブレークを後押ししたと言えるのではないか。

ものまねは真似される本人がいなければ成り立たないものだが、本人の方がものまねに救われることもある。勝手に真似されても「笑って許して」くれる和田の懐の深さが、結果的にMr.シャチホコと本人の両方を引き上げることになったのだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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