「ホンマに、それで終わり」駿河太郎が語る覚悟
NHK連続テレビ小説「カーネーション」、TBS「半沢直樹」など次々と話題作に出演する俳優・駿河太郎さん(42)。現在放送中のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」にも筒井順慶役で出演していますが、思いの奥底には「ホンマに、それで終わり」という覚悟がありました。
小林薫という存在
こういうインタビューをしてもらう時に、時々「目標とする役者さんはいますか」と聞かれたりするんです。でも、僕、基本的にそういう存在がいないんです。
ただ、一緒にお仕事をさせてもらって、俳優どうこうじゃなく「あ、こういう大人になりたいな」と思う方はいまして。それが小林薫さんです。
朝ドラ「カーネーション」(2011年)で僕が義理の息子役だったんですけど、その現場でいろいろなことを学ばせてもらいました。
僕が特に感じたのは“下に気を使わさない”ということでした。経験が浅かろうが、子役からやっていてキャリアがあろうが、誰もが緊張しない空気の作り方をされるんです。
決して、多くを語られる方ではないんですけど、現場での居方やふとした声かけで、みんながそこに居やすい状況をサラッと作る。ただ、その当時の僕は、そんなことも全然分からんままに一緒に居ましたけど(笑)、薫さんとの現場はとにかく楽だったんです。
僕もまだ役者としては、干支が一回りしたくらいの経験値ですけど、それでも自分が経験を重ねる中で、その時の薫さんの優しさが分かってくる。「ものすごくカッコいい先輩やな」とどんどん思えてくるというか。すごく素敵な背中を見せてもらいました。
それを今の自分ができてるかどうかは全く分かりません。だけど、自分の中では、ああいう大人になりたいと思っているんです。ま、すでにオレもエエ大人なんですけど(笑)。
僕の場合は脇役で作品に参加することが多いですし、映画だと特にワンシーン、ツーシーンで現場に入ることも多い。だから、薫さんの“居方”を発揮できる場がなかなかなかったんですけど、去年させてもらった、大阪・松竹座での座長公演「天下一の軽口男」では、自分なりにいろいろと考えながらやらせてもらいました。
僕がアタマでやる時には、誰も嫌な気持ちにさせたくない。その思いだけは大前提にあって。
皆さんに思いっきりやっていただいて、何かあったら、おこがましいですけど、ケツを拭くのはこっちがやりますと。そういうことを自分の中の軸として持つように心がけてはいました。
みんなで作るもんですし、みんながイキイキしてることが、絶対にお客さんにも伝わるはずやと思ったんです。逆に、みんなが委縮したり、仲が悪かったら、それはそれで伝わっちゃうと思いますし。だから、そうはならないように常に考えていたつもりではありました。
ま、これもね、もっと緊張感を持ってやった方がいいという人もいらっしゃるだろうし、どれが正解かどうかは分からないです。でも、僕が座長としてやらせてもらうのであれば、そういう形を目指したということなんです。
ホンマに、それで終わり
これまでいろいろな経験をしてもきましたけど、その中でも今回の新型コロナは、すごく考えさせられるきっかけになりました。
仕事は完全に止まりましたし、改めて、役者という職業がいかに受け身の職業なのかということを痛感しました。
僕らの仕事はオーダーが来なかったら終わり。ホンマに、それで終わりです。呼ばれてはじめて成立する仕事ですから。華やかに見える世界かもしれないけど、本当に“人に寄りかかっている職業”やと思いました。
だからこそ、今また作品に入らせてもらえることのありがたさ。これも、より強く感じるようになりました。
あと、紆余曲折はありましたけど、役者を始めて朝ドラだったり「半沢直樹」だったり、世間に、業界に認知されるような作品に出していただけた。そして、街中でも「あの作品、良かったです」と声をかけていただくことも増えてきた。その全てが、なんと恵まれた環境だったんだと。そういったことも再認識するきっかけになりました。
そして、その環境はもちろん自分だけで作ってきたわけじゃない。周りの方々がいてくださってできたことであり、それは十二分に分かっているつもりではあったんですけど、今一度、そこを見つめ直す。そんなきっかけにもなったと感じています。
今後のビジョンは「ない」
僕、クリエイティブなことが好きなんです。それこそ、この世界に入るきっかけになった音楽を作るのも好きですし。
音楽をやって、そこから役者に変わったんですけど、両方やっているからこそ音楽と役者の大きな違いも体感していて。
「0を1にする」のが音楽。「1を2以上に膨らませる」のが役者。そう感じています。
音楽をやっている時には、自分で曲も歌詞も書いていたので、まさに0から生み出すことをやっていました。これは本当にクリエイティブそのものというか、作り上げる仕事でした。
一方、役者はもともと台本もありますし、役の設定もありますし、求められているものがあるところからのスタートになる。既に1があるんです。それを5にするのか、30にするのか。人から求められたことの答えを返す中に、クリエイティブな要素がある。
形は違うけど、そのクリエイティブという部分に、僕しか出せないもの、自分というものを置きに行ける。それが好きなところなんだと思います。
もちろん、特に役者の仕事は監督がいますから。監督から「そうじゃない」と言われたら、結果「あ、そうじゃないんだ…」となりますけど(笑)、少なくとも一回は自分が考えたものを出すことができる。
それと、自分が良いと思ったものを出して、監督もそれが良いと思ってくださった。そうやって合致した時の何とも言えない喜びも、役者にはありますしね。
正解はないんですけど、正解はないからこそ、その感覚を味わえる。そして、面白い。そして、難しい。結果、ずっと続けられる仕事なのかなと思っています。
ただ、それこそ、オーダーがなくなったら終わりの仕事ですから。なので、とにかく次のオーダーが来るように、目の前の現場を目いっぱい頑張る。
だからね、今後のビジョンというか、自分がこうなりたいとか、こんな役をやりたいとか、そういう思いは、これがね、ないんですよ(笑)。それよりも「こいつにこんな役をやらせてみたい」ということが続けばいいなと。その思いがあるだけで。
ま、正直、こんな役がやりたいと思ったことがないわけではなかったんですけど、そういうのはね、大概そうはならないので(笑)。とにかく、目の前のことを一生懸命にやる。それしかないと思っています。
(撮影・中西正男)
■駿河太郎(するが・たろう)
1978年6月5日生まれ。兵庫県出身。ステッカー所属。2002年にシンガーソングライターとしてメジャーデビューし、08年から俳優として活動を開始。11年、NHK朝の連続テレビ小説「カーネーション」でヒロインの夫役を演じ、注目を集める。13年にはTBS「半沢直樹」に出演。16年には「夢二~愛のとばしり」で映画初主演。現在放送中のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」には筒井順慶役で出演している。