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台風で休業。使用者が有休消化させるのはアリか

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 今日(2018年9月4日)は、筆者は、14時から京都地方裁判所で原告3300人を擁する大飯原発差し止め請求訴訟の口頭弁論期日の予定でしたが、裁判所の判断で期日指定が取り消しとなりました。今日の関西は、最大級の台風直撃を前にして、学校などは臨時休校になる例も多く、朝から交通機関もすいており、それも昼からは全面的にストップする例も多いようで、全体的に臨時休業といった雰囲気が流れております。

 台風だということで、前日から早々に公共交通機関の停止が予告され、粛々と実行される、というのは過去にそれほど記憶がありません。日本社会が「24時間戦えますか」から、安全重視の社会に移行しつつあるのかな、などと考えるのは早計でしょうか。

 社会が安全重視の思考にシフトし、会社などの事業所が無理をせずに休業としているのなら、それは良いことだと思うのですが、もう一方で、務め人にとっては、休業で賃金が支払われなければ死活問題となります。この辺、法律がどうなっているのか。休業と賃金の関係を簡単にまとめてみました。

1 「使用者の責めに帰すべき事由」による休業は休業手当が必要

 労働基準法では休業の場合の賃金について以下のように定めています。

(休業手当)

第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

 ここで、「使用者の責めに帰すべき事由」とは、民法上のそれよりも幅が広く、「使用者の故意・過失または信義則上これと同視すべきものよりは広いが、不可抗力は含まれない」と解されています(東京大学労働法研究会編『注釈労働基準法 上巻』428頁)。

 使用者の不可抗力でない限り、原則として、休業でも平均賃金の6割は支給しなければならない、といえるでしょう。

 自然現象で、使用者の不可抗力といえるものの典型は、阪神大震災などの巨大地震ですが、台風の場合でも、朝から終日交通機関がストップしているような場合には、これに該当すると思われます。また、建設現場など屋外業務についても、場合によりこれに該当することもあると思われます。

2 使用者に故意過失がある場合の休業

 一方、休業について使用者に故意や過失がある場合については、この労基法の条文とは別に、民法536条2項により、賃金全額の請求が認められます。労働事件で典型的なのは違法解雇で就労できなかった場合の賃金ですが、他にも、企業の生産調整による一時帰休も、使用者側に責任があるとされる場合も多く、使用者の帰責性なしとは簡単には認められません。この場合も使用者側に100%の賃金支払義務があることになります。

3 天変地異による休業は無給で良いが・・・

 天変地異により休業となった場合は、前記の通り、無給(ノーワークノーペイ)でよいのですが、荒天が「天変地異」と認められるかは、かなり基準が曖昧といえます。今日についても、関西地方は、午前中は交通機関は動いていました。夜までには台風は通過する予定です。このような場合に、内勤の労働者について、使用者の判断で休業したからといって、使用者の「責めに帰すべき事由」がないといえるかは疑問があります。

 結果として、天変地異とはいえない場合、休業手当すら支払わないのは、労働基準法に違反することになります。荒天により終日休業とする場合でも、使用者は最低でも6割の賃金保障はすべき、というのが、穏当な判断と言えると思います。

 また、例えばサービス業で、客足が遠のくことを理由にして休業にする場合には、先の生産調整の例に近づき、むしろ、100%の賃金を支払うべき、ということになります。例えば、今夜、台風は日本海上に去って行きますが、昼間の経済活動が停滞する以上、繁華街はガラ空きでしょう。それにより休業にしたからといって、使用者の賃金支払義務は100%ある、ということです。

4 一方的な有給処理は違法

 また、このように判断が悩ましい場合でも、使用者が労働者に対して一方的に休業を通告した上、勝手に有給休暇として処理するのは違法です。有給休暇の取得は労働者の権利であり、使用者側の都合で法律上の危険負担を処理する道具ではありません。

 荒天の場合は、学校などが休校となり、または、通勤が不可能とはいえないまでも、本数や速度の低下などで困難になる場合もあります。このような場合、労働者の側から、有給休暇を申請して休むのは権利です。

5 日給制や時給制で働く労働者の困難

 月給制の労働者の場合、台風など荒天による臨時休業については、あまり理屈を詰めず、欠勤控除しない場合も多いと思われます。問題が多いのは、日給制や時給制で働いている人たちで、使用者の不可抗力による休業であれば、賃金が支払われないのが原則となります。祝日が増えると生活が困窮する困った現象にも通じる経済的な困難が生じます。制度論としては、このような賃金体系の場合に、労働者に対して、何らかの補償をする制度の創設は、検討すべきだと思われます。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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