【W杯現地レポート】開催地ロシアはW杯をどう観ているのか? 「本当に楽しい、長いバケーション」
ロシアW杯のグループリーグの半ばを過ぎた時期のモスクワ・赤の広場周辺には人、人、人。現地観戦に訪れた各国のサポーターで溢れ返っていた。
日中は暑かった日差しも夕刻には収まる。湿度が低いためかなり過ごしやすい。さらに日本よりはるかに高緯度にあるモスクワの夜は長い。そんななかで各国サポーターが繰り広げる思い思いの”主張”が、とても心地よい。
タンゴを踊るアルゼンチン人。
サッカーをするアルゼンチン人を眺めるロシア人。
すでに敗退が決まったチュニジアサポーターはチャントを歌い、大盛り上がり。
セネガルサポーターは自国の音楽と踊りで周囲を取り込む。
イングランドサポーターにはあまり作り込んだことはせず、大きな旗を掲げて「イングランド!」と叫ぶだけ。しかもその旗の片方はオーストラリアサポーターが持っているという、謎の”ユルさ”。
出場していないウズベキスタン人も張り切って広場でボール回していたり。
ワールドカップを現地で観る最大の楽しみとは、見知らぬ外国人と声をかけあっていくことだ。どこの国が勝った、負けたはあまり重要ではない。外国語もそれほど。お互いの国の名前を読んで、サムズアップするだけ。その国に関連する単語をいくつか言うとよりよい。スウェーデンなら、”I LOVE IKEA”とか。
4年に一度のこの機会は、試合を観ずとも体験する価値のあるものだ。
「子供の頃は何もなかったロシアがここまで……」
そんな熱狂を見せているロシアワールドカップも大会折り返し点を過ぎた。これを開催する現地の人たちは大会をどう観ているのか。
6月22日、赤の広場近くでこの盛り上がりを眺めていると、女性に「日本から?」と話しかけられた。「日本の水戸に留学経験がある」というエレーナさん(42歳)がこんな話をしてくれた。
「サッカーには元々は興味が無いけど、ワールドカップは、本当に楽しい時間です。もちろん……ロシアが勝っているということもあるわよ(この時点でグループリーグ2勝)。子供の頃はロシアという国は本当に何もなかった。遊びたくでも何もなかったんです。これは日本で暮らしたからよく分かることです。でも少しずつ変わっていった。この流れのなかに今回のワールドカップがあるんです」
1976年生まれの彼女にとって、1991年のソビエト連邦崩壊は15歳の頃の出来事だ。その時代から比べると、自分の国は大きく変わった。そんなことを実感させる大会となっている。
「6月に入るまで盛り上がりはさっぱりでした」
しかし、こういった盛り上がりは”急に来た”ものだという。
6月19日、サランスクで日本-コロンビア戦を観戦した際、日本人留学生のグループに出会った。カザンでの留学生活を終え、コロンビア戦を観戦して帰国するのだという。埼玉県出身の大学生、中居智子さんは大会前からの雰囲気をこう話していた。
「大会前はまったく盛り上がっていませんでした。ロシア人の友人も『何か大会があるらしいね』というくらいで。私達留学生はカザンに日本代表がキャンプに来るので大騒ぎしていたのですが。でも現地の友達はそのことを知らない状態でしたね」
雰囲気がガラッと変わったのは、6月に入ってからだという。
「まずは、市内を回る警察の数が増えて(カザンは大会開催都市でもある)、『大会が近いんだな』ということが理解されていきました。決定的だったのが、大会が始まった後の『ファンフェスタ』(パブリックビューイング)です。ここがとても盛り上がったようで。ロシア人の友達もこれに何度も行って、『楽しかった』という話をしていました」
大会開幕後にぐっと雰囲気が盛り上がる感じは、今大会の日本とも似ているところか。
「この大会の誘致に関しては、本当によくやったと思う」
また、サランスクでのコロンビア戦の前、ファンフェスタのテーブルにカメラを置いて食事をしていると、ロシア人の若い男性ジャーナリストに「メディアですか?」と話しかけられた。話のなかで、こちらから「大会をどう観ているのか」という点を聞いた。
「とても長い時間のバケーション。そういったところだね。本当に楽しい時間だ。ロシア代表の開幕戦での5-0という勝利もインパクトがあった」
彼はあんまり英語が得意じゃないんだ、といいながらこう続けた。
「僕はロシアの今の政府も、警察も嫌いだ。一般のロシア人にとってはなかなか言いにくいことだけどね。だけどこの大会の誘致に関しては、本当によくやった。そう思っている。大会を通じてロシアの人々を眺めていると、元来はみんな笑うのが好きで、楽しいことが好きなんだということを思い出したよ」
今年3月の選挙の結果、プーチン大統領の任期がさらに6年延長になった。2000年から18年続く最高指導者の就任期間が、最長で24年となるのだ。テレビを始めとしたメディアは政権の影響下にある、と言われている。
モスクワ市内では穏やかな風景も
盛り上がりは確かにすごい。いっぽうモスクワ市内では「盛り上がっているエリアはすごいが、その他は意外と平穏」といった雰囲気も感じた。21日の夕方、市内外れにあるディナモ地域を歩いた。工事中だったディナモ・モスクワのホームスタジアム(大会の会場ではない)の前を会社帰りの人たちが通る。そこにはW杯の看板もなければ、雰囲気もない。筆者はドイツワールドカップも現地で観たが、あの時は街の端々までドイツの国旗が掲げられ、あらゆるところで大会のロゴを目にしたものだ。
短い夏に、降って湧いた熱狂。急に強火になったため、全体が温まるというか、局地的。
ロシアで感じた開催地にとってのW杯はこういったところだ。それでも、なんだかんだでヨーロッパの夏にW杯はよく似合う。6月15日から7月16日まで続く大会に「長いバケーション」とはピッタリの表現だ。秋になれば、また暗く寒い日々が始まるのだから。
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