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北朝鮮戦、森保監督が求めた「長友佑都」という呪符。スペイン最強時代の控えGKと重なる

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:松尾/アフロスポーツ)

 集団をマネジメントするには、個性豊かな方がいい。例えば真面目さや勤勉さは取り柄の一つだが、そうした性格の選手ばかりだと、柔軟さや広がりや反発力が出なくなる。あえて異分子を入れるような手立てもあって、軋轢さえも緊張感を生み出し、集団のパワーにつなげることもあるという。

 それだけに、リーダーが多様なパーソナリティを束ねるには相応の求心力がいる。それぞれのキャラクターが違えば個々は強くなるが、乱立して勝手なことをやりかねない。自ずと一つにするのは難しくなるのだ。

 その点、サッカー監督も選手のキャラクターも含めた編成をする必要があるのだろう。

スペイン代表最強時代の控えGK

 代表チームは、キャラクター重視の傾向が顕著である。なぜなら、限られたトレーニング時間で、”集まったらほとんどすぐに試合”。その条件でグループの力を引き出すには、実力と同等にキャラクターも欠かせない。

 例えば、スペイン代表が覇権を握った時代(EURO2008、2010年南アフリカW杯、EURO2012で優勝)は、まさに多士済々だった。GKイケル・カシージャスを筆頭に、DFカルレス・プジョル、ジェラール・ピケ、セルヒオ・ラモス、MFシャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケッツ、ダビド・シルバ、FWダビド・ビジャ、フェルナンド・トーレスなど、それぞれ各ポジションの一流ばかりだ。

 ただ、最強時代に知られざる”縁の下の力持ち”がいた。FCバルセロナの下部組織育ちで、トップでもプレーしたGKホセ・マヌエル・レイナである。

 レイナは、ビジャレアル、リバプール、ナポリなどで長く活躍し、実力も十分と言える。バルサ育ちだけに足元の技術も高く、体格やパワーにも恵まれ、欠点が少ない。だが、代表での出場機会は限られていた。カシージャス、ビクトール・バルデスという英雄的GKがいて、彼らよりも年長者にもかかわらず、三番手が定位置だった。キャリアや実力を考えたら、不満を抱いても不思議ではなかったが…。

 レイナは陽気でオープンな性格で、勝利に対する野心も強く、一人のGKとして準備も余念ない。自分を律しながら、コミュニケーション力の高さで周りの雰囲気を良くすることができた。一人一人の選手に声を掛け、それぞれの絆を結び付けられる。いわゆるムードメーカーだが、はしゃぐだけではない。道化との境界線にいながら、その手前で尊敬される人間性だ。

 レイナのような存在があったからこそ、集団の士気が落ちなかった。不平不満を浄化。悪いムードを祓うような存在だったのだ。

長友佑都という呪符

 今年1月のアジアカップ、森保一監督が率いる日本代表は、レイナのようなキャラクターを欠いていた。チームの悪い流れを押しとどめ、反撃の機会を作る。チームを活性化させる元気印というのか。底抜けにポジティブで、闘争心も伝播させられる選手だ。

 今年3月の北朝鮮戦、森保監督は長友佑都をメンバーに選出している。左サイドバックに故障者が多く出たのはあったが、実力的にはすでに厳しくなっているだけに賛否両論はあるだろう。しかし指揮官が37歳の長友に期待したのは、キャラクターでチームの空気を良い方向に戻すことだったのではないか。

「ブラボー」

 そんな掛け声だけで、周りにいじられながら、笑いが生まれるというキャラクターは貴重である。

 事実、長友は集団を活性化させていた。そのキャラクターで、悪運のようなものを一時的に断ち切った。

「(後半に押し込まれる展開では)長友の起用も選択肢として考えていました」

 森保監督は、そう語っている。

「我々が圧力を受けていた時間帯で。アジアカップでも、あの展開で押し切られてしまいましたから。圧力を弾き返す、というところは当然ですが、投入も考えられましたね。ただ、(長友の)キャラクターでチームを変えるのではなく、他に代わった選手が仕事をして、もう一回、流れを引き戻してくれました。監督としては、彼らのことを称賛してあげて欲しいですね」

 結局、長友はピッチに立たなかった。能力的に序列が低かったのだろう。キャラクターはキャラクターだ。

 呪符は勝利を保証するものではない。

 レイナは2006年、2010年、2014年、2018年と4度のワールドカップのメンバーに選ばれているが、優勝は一度だけ。ピッチの混乱まで収束できないのだ。一方で、W杯でこれだけ多くベンチに座ったGKは珍しい。「その場に導いた」存在とも言える。

 ちなみに大会で唯一、レイナが出場した2014年W杯、オーストラリア戦は3-0で完封勝利に貢献している。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/35009e640ddb3ff56bdd97e54e3c43ca2f28cd35

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/08ba9281e54c3eb26f3309b6189e9b456f6fe7dd

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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