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若い女性が忽然と消える「金正恩の聖地」の救われない実態

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(デイリーNK)

 相次ぐミサイル発射で強硬姿勢を見せる北朝鮮だが、その一方で、国内は悲惨な状況にある。

 最近、ウズベキスタンに進出している北朝鮮レストランの女性従業員5人が、集団脱北したとする事件が伝えられた。5人はいずれも韓国に到着したとされる。

 だが、韓国統一省の発表によると、今年6月までに韓国に入国した脱北者の数はわずか19人。コロナ前の2019年までは年間1000人を超えていたが、国境警備が極めて厳重になり、脱北が難しくなっていることが原因と思われる。

 しかし、脱北のニュースはしばしば伝えられている。中国国境に面した両江道(リャンガンド)で女性2人が行方不明となり、脱北した可能性が浮上している。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 三池淵(サムジヨン)市の新武城洞(シンムソンドン)で、トゥルチュク(クロマメノキの実)を取っていた20代女性2人が、先月17日に忽然と姿を消した。それから10日以上経ったが、行方は全くわからず、地元の安全部(警察署)と保衛部(秘密警察)が、家族、同僚などを対象に事情聴取を行なっている。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 金正恩総書記とその一族にとって「革命の聖地」である三池淵は、国を挙げての再開発工事で、新築の建物が立ち並ぶニュータウンへと変貌を遂げた。しかし、気候は夏でも清涼で、農業に適していない。コロナ対策の移動統制も厳しく、深刻な食糧不足が伝えられている。

 新武城洞では住民の8割が絶糧世帯(食べ物が底をついた世帯)となり、秋の収穫後に返済する条件で、食糧を借りて生き延びている人が多かった。

 2人は空腹に耐えかねて、トゥルチュク採集を口実に、脱北したのではないかと噂されている。実際、市民は「機会さえあれば中国に逃げる」と堂々と話しているほどだという。

 現地には2019年、トゥルチュク飲料工場が建てられた。市民はトゥルチュクがなる8〜9月ともなれば、動員かけられて、昼夜を分かたずトゥルチュク採集を強いられ、相当な不満が溜まっていた。

 三池淵市の新築マンションには、成分(身分)の良い人が入居し、食糧配給も正常に行われていると言われてきたが、それは市内中心部に限られ、郊外の住民には一切配給がなく、極貧生活を余儀なくされている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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