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【性教育】富山で「駅ナカ保健室」10代女子が下校途中、産婦人科医に月経の悩み相談

若林朋子北陸発のライター/元新聞記者
JR富山駅で産婦人科医が中・高校生の相談に応じる「駅ナカ保健室」開始(筆者撮影)

 女性や子どもの心身の健康を支援するNPO法人ハッピーウーマンプロジェクト(HWP)がJR富山駅の南北自由通路で「駅ナカ保健室」をスタートした。毎月1回、午後3時から6時まで中学・高校生らが産婦人科医や助産師らに月経や性の悩みを無料で相談できる取り組み。初回の4月18日は、下校途中の生徒ら15人が訪れ、性教育や月経に関する啓発パンフレットなどを手に取っていた。「駅ナカ」にあえて相談窓口を設けた理由とは――。

 産婦人科医の鮫島梓さんとHWP理事の小林涼子さんは、県内の学校などで性教育をしたり相談を受けたりするうち、中高校生にとっては産婦人科を受診するハードルが思った以上に高いことが分かった。このため、人通りの多い場所で相談ニーズをキャッチする駅ナカ保健室を企画。初日は医師2人、看護師1人、助産師1人、フェミニストカウンセラー1人、富山大学医学部の学生6人が参加した。

中学生が月経不順の悩みを相談

 スタートから間もなく、富山市内の女子中学生2人連れがテントの中に入り、鮫島さんとじっくり話し込んでいた。取材の許可が出たので傍らで聞くと趣味などについても語り、女の子からは時々、小さな笑い声が漏れた。終始、和やかな雰囲気だったが、2人とも月経不順の悩みを抱えていた。

目隠しのために設置したテントの中で中学生の相談に応じる鮫島さん
目隠しのために設置したテントの中で中学生の相談に応じる鮫島さん

「月経がしばらく来ていない」という相談に、「成長過程では不安定なこともある」と丁寧な説明で応じた。月経痛・月経前症候群・月経不順の資料を渡して説明し、「この先、不安なことがあれば産婦人科の受診を」と勧める。もう1人は月経初日の出血が多く、前日の食欲が旺盛になると相談した。出血については量を具体的に確認して「心配ない」と伝えた後、食欲についても「しっかり食べていいよ」と助言した。テントから出てきた2人に利用した感想を聞いてみた。

「親には月経について聞いたけれど、病院に行くまでは勇気がなかったので、こういう機会があってよかった」

「今日は45分授業だったので早めに学校が終わった。気軽に話せる場所と出会えてうれしい」

 2人はこう語り、テレビの取材にも応じて、明るい表情で帰って行った。

富山大学医学部の学生6人が参加

 この日は女子生徒を対象としていたが、遠巻きに見ていた男子高校生も近寄ってきて富山大学医学部医学科6年生の志村優至さんと言葉を交わしていた。志村さんはこの日、唯一の男性の参加者。男子高校生にパンフレットを紹介しながら語る言葉には親しみやすさと説得力があった。

 志村さんは性教育の出前講座などを行う「ピアエデュケーションサークル(以後、ピアサークルと表記)」のメンバーである。県内の学校に出向いて生徒と交流していたが、2021年以降はコロナ禍で思うような活動をできていない。「性教育は大学生にとっても重要」と、大学のオリエンテーションに組み込んでもらうための働きかけもしており、今年は希望者にオンラインで講演を行った。

富山大学医学部「ピアエデュケーションサークル」のメンバー
富山大学医学部「ピアエデュケーションサークル」のメンバー

 志村さんはもともと、ほかの大学の理工学部に在籍し、医師になりたい気持ちが募った末に医学部を再受験した。社会に開かれた学びの機会を求め、「医療者が病院で待っているだけではいけない」とピアサークルに加入した。駅ナカ保健室での役割を次のように考えている。

「『男(女)はこうあるべき』という性別にとらわれた価値観ではなく、いろいろな生き方が尊重されたらいいと考えます。そこで、性教育を通じて出会った人の生きづらさに耳を傾けるようにしています。中高校生との交流では仲間意識が高まり、性教育の敷居を下げることができる気がします。性の多様性や避妊方法などを、年齢の近い自分たちだからこそ伝えられると思います」

保健体育の授業だけでは足りない

 ピアサークルからは看護学科の女子学生5人も参加していた。いずれも3年生で、1年時に加入したけれど、コロナ禍で性教育の出前講座は全て中止となり「この活動が初めて」とのことだった。のぼり旗の横に立ち、行き交う中高校生に声を掛けていた助産師志望の榎本愛未さんに話を聞いた。

「高校までの保健体育の知識では、性教育は全く足りてないと思います。男女一緒で積極的に質問もしにくい授業内容でした。大学でピアサークルに入ってから知ったことも多かったです。今回の取り組みを生かし、積極的に地域に出ていろんな話ができる助産師になりたいです」

マスクと一緒に配布されたPRチラシ
マスクと一緒に配布されたPRチラシ

 20歳前後の女子学生5人は、相談窓口への「引き寄せ効果」をもたらしていた。駅ナカ保健室を遠巻きに見守る高校生に近づいて行って、マスクとPRチラシを配り「大人に話せないことも気軽に相談してほしい」と声を掛けていた。

 ピアサークルの顧問で富山大学医学部看護学科准教授の笹野京子さんによると、ピアエデュケーション(ピア)とは、仲間と一緒に正しい知識とスキル、行動を共有し合うことであり、大学生にとっての仲間とは同世代や少し若い生徒を指す。ピアサークルは2015年に発足し毎年、中学校や高校の文化祭に出向いて「ピアカフェ」を開催。学生が生徒と交流しながらの性教育では試験管にコンドームを装着する機会を設け、コンドームの使用期限を確認するよう助言するなど、医学部の学生だからこそ率直に性の知識を伝えてきた。

配布された啓発パンフレットなど
配布された啓発パンフレットなど

県議会議員で産婦人科医の種部恭子さんも参加。「若者が産婦人科を受診するハードルは高い。まずアウトリーチとしてこのような相談の場をたくさん設けることが大切」と話した
県議会議員で産婦人科医の種部恭子さんも参加。「若者が産婦人科を受診するハードルは高い。まずアウトリーチとしてこのような相談の場をたくさん設けることが大切」と話した

 HWPは医療だけでは女性の健康に関わる問題が解決できないと2004年に「女性が望む産婦人科について考える会」として発足、2006年に現在の名称でNPO法人化した。富山県内で保育所から一般企業までの性教育(セクシャリティ教育)、デートDV防止、ハラスメント防止、コミュニケーションなどの出前講座を開催。県の委託事業として妊娠SOS、不妊・不育などの相談業務も行っている。

2019年10月からLINE相談

「妊娠・出産悩み相談サポート事業」では電話に加えて、2019年10月からLINEでの相談も始めた。その中で2割程度、月経についての相談が寄せられていた。また、中高校生の相談は、身の回りの大人に相談すれば解決するのにできていない場合や、ネット上の情報を鵜呑みにして医師に相談すべき時機を逸してしまうケースもあることが分かった。小林さんは気軽に相談できる窓口の必要性について次のように話す。

「まずは月経の悩みに耳を傾けます。駅ナカ保健室は『無理に痛みを我慢しないで産婦人科に行こう』と背中を押す場所にしたいと思いました。体は大事であり、アウトリーチで関係を築きながら『産婦人科医は怖くない』と伝えます。月経の悩みをきっかけに、避妊やデートDVなどの深い相談にもつなげていきたいのです」

小林さん(中央)らハッピーウーマンプロジェクトのメンバー
小林さん(中央)らハッピーウーマンプロジェクトのメンバー

「何でも聞くよ。気軽に話してね」というスタンスを知ってもらうために、人通りの多い「駅ナカ」を保健室とした。「人目に付きやすく、あまりにもオープン過ぎないか」という意見もあったが、「月経について相談するのは恥ずかしいことではない」というアピールになると考えた。県内の多くの高校生が行き交うJR富山駅をあえて相談の場としたのである。

初日の相談者は15人

 初日の相談者は15人。内訳は中高校生本人と中学生の保護者だった。鮫島さんは「思った以上に多くの人が来てくれた」と話した。1組につき20分前後、話を聞いて分かったのは心理的・物理的の両方で産婦人科の受診に対する距離を感じていることだった。

「産婦人科では必ず内診されるという誤解があり、周りに知られたくないなどの理由から行きたくないという心理とともに、富山県内では通いやすい場所に産婦人科の医療機関が少ないことが分かりました。だから受診する子はかなり状況が悪くなってから来ているのです。また、相談に来た女の子は月経についてすでにネガティブな思いを持っていることが多いようです」

 鮫島さんは「月経の時、体のために自分ができることをまず実践しよう」と、できるだけ早めに痛み止めの薬を飲むことや、ゆったりした服を着る、保温を心掛けるなどの助言を送った。

「月経は『病気じゃないから我慢すべき』と思ってしまいがち。ケアを知ってほしい」と話す鮫島さん。日ごろは女性クリニックWe!TOYAMA(富山市)や富山大学附属病院で診察にあたる
「月経は『病気じゃないから我慢すべき』と思ってしまいがち。ケアを知ってほしい」と話す鮫島さん。日ごろは女性クリニックWe!TOYAMA(富山市)や富山大学附属病院で診察にあたる

 まずは女性の産婦人科医や助産師らが、月経をはじめとした体の相談に乗ることで正しい情報を伝えることができ、生徒の不安はほぼ解消できる。その上で必要な人には医療機関の受診を勧める。これらが駅ナカ保健室の役割である。小林さんには「男子生徒を対象に泌尿器科の医師による相談にも応じたい」という構想もあるそう。当面は今回のメンバーを中心に、女子生徒を主な対象として月に1度のペースで続ける予定である。次回は5月30日に開催予定。

※写真はすべて筆者撮影

※参考

・NPO法人「ハッピーウーマンプロジェクト」ホームページ

https://happy-woman-project.net/

・富山大学ピアサークル公式Twitter(駅ナカ保健室への参加も含めた活動予定を告知している)

https://twitter.com/peer_yacha?s=20&t=IbrjTR0aZSRG0_mQpfcwjQ

※富山県の性教育についてはこんな記事も書いています。

・【性教育】10代の中絶が少ない富山 出前授業に奮闘する産婦人科医たち

https://news.yahoo.co.jp/byline/wakabayashitomoko/20180713-00088891

北陸発のライター/元新聞記者

1971年富山市生まれ、同市在住。元北國・富山新聞記者。1993年から2000年までスポーツ、2001年以降は教育・研究・医療などを担当した。2012年に退社しフリーランスとなる。雑誌・書籍・Webメディアで執筆。ニュースサイトは「東洋経済オンライン」、医療者向けの「m3.com」、動物愛護の「sippo」、「AERA dot.」など。広報誌「里親だより」(全国里親会発行)の編集にも携わる。富山を拠点に各地へ出かけ、気になるテーマ・人物を取材している。近年、興味を持って取り組んでいるテーマは児童福祉、性教育、医療・介護、動物愛護など。魅力的な人・場所・出来事との出会いを記事にしていきたい。

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