ミサイル情報だけでないJアラート。どんな時にどう動く?
北朝鮮情勢が緊迫したのを受け、弾道ミサイルが発射された際にミサイル発射情報を国民に伝達するシステム、「Jアラート」について関心が高まっているようです。既にJアラートについて、いくつか記事も出ていますが、そのほとんどがミサイルに関する事に留まっています。ここでは改めて、Jアラートそのものはどういったものなのか、なにをするシステムなのか、警報を受け取れるにはどうすればいいか、などを解説してみたいと思います。
Jアラートは、正式名称を「全国瞬時警報システム」と呼び、総務省消防庁が2007年から運用を開始した緊急時に国民に情報伝達を行うためのシステムのことです。昨年ヒットした映画「シン・ゴジラ」でも、ゴジラの上陸に際し、巨大不明生物上陸警報をJアラートで伝達するシーンが登場しますので、名前を聞いたことがある方もいるかもしれません。
総務省消防庁はJアラートを「弾道ミサイル情報、津波情報、緊急地震速報等、対処に時間的余裕のない事態に関する情報を、 人工衛星を用いて国(内閣官房・気象庁から消防庁を経由)から送信し、市区町村の同報系の防災行政無線等を自動起動することにより、国から住民まで緊急情報を瞬時に伝達するシステム」と説明しています。つまり、昨今注目されるミサイル情報だけでなく、自然災害やテロ、武力攻撃といった、多様な緊急事態の情報を発信するシステムということです。
Jアラートは緊急事態が発生した際、通信衛星を通じて、国が市町村の防災行政無線のサイレン等の情報伝達手段を人手を介さずに直接起動して、瞬時に警報を鳴らす事が出来ます。具体的には消防庁からの送信により、自動的に市町村の防災行政無線でサイレンと警報を鳴らし、迅速に警報を国民に伝えることが出来ます。
今回は弾道ミサイルの発射に注目されていますが、様々な事態の情報伝達が想定されており、緊急事態の種類によって、防災行政無線で流れるサイレンの音や鳴り方、メッセージが異なっています。また、事態によっては防災行政無線が自動起動されないものや、自治体の設定に任せているものもあります(下は配信情報一覧)。
Jアラートでは、発生した事態に応じて、あらかじめ作成・送信された音声ファイルが再生(事前音声書換方式)されますが、事態に応じた柔軟な対応が求められる場合は、内閣官房で作成された文字データが送信され、受信機でデータに基づいた音声を合成する即時音声合成方式になることもあります。下は標準的な警報音とメッセージ例ですが、状況によっては異なるものも出されるそうです。
各自治体への情報伝達は人工衛星による通信を主としてますが、バックアップとしてインターネットや総合行政ネットワーク(LGWAN)も用いて、冗長性を確保しています。各市区町村の防災行政無線、コミュニティFMの自動起動といった機能の他、2014年からは3大携帯電話キャリアによる「緊急速報メール」(au、ソフトバンク)、「エリアメール」(docomo)や、スマホアプリによる配信が行われるようになり、瞬時に緊急情報を国民に多様な手段を通じて配信することが出来るようになりました。
2007年から運用を開始したJアラートは、東日本大震災時で市町村の整備率は半数を切っていましたが、震災時に整備していた市町村からは高い評価を得た一方、市町村によっては停電と非常用電源装置の不備、適切に設定されてなかった事により起動しなかった問題も見られ、課題が残りました。
震災後は整備が進むようになり、2014年には全地方自治体にJアラート受信機の整備が完了しました。また、Jアラートと連動した防災行政無線の自動起動装置も、2016年には地方自治体への整備が完了しました。しかし、防災行政無線自体の整備率は80%台に留まっており、また2014年5月の時点で、防災行政無線以外にも自動起動する情報伝達手段を整備している市町村は40.4%に留まっています。また、東日本大震災では、鳴っているはずの防災行政無線を聴き逃していた事例も多くあり、伝達手段の多重化が課題として残っています。
現時点でJアラートの警報を確実に受け取るには、複数の手段を用意することが重要になります。前述の通り、携帯電話やスマートフォンには「緊急速報メール」または「エリアメール」と呼ばれる機能があり、警報の対象地域にいる人はJアラートの配信情報を受け取ることができるので、個人で出来るJアラート受信手段としては最も手軽です。しかし、緊急速報メールの仕組みは、発信側が届いたことを確認する機能がなく、携帯電話・スマートフォンの状況によっては、受信し損ねる可能性が指摘されています。また、いわゆる「格安スマホ」では端末によって、受信に問題がある可能性も指摘されています。Jアラートの受信を少しでも確実なものにしたいなら、何らかのバックアップ手段を用意することが重要になってきます。
スマートフォンの場合、Jアラートに対応したアプリケーションから警報をプッシュ通知させることも出来ます。この記事はYahoo!ニュースに配信されていますので、これをお読みになっている方はYahoo!の利用ユーザーでしょうから、Jアラートの国民保護情報配信にも対応した「Yahoo!防災速報」アプリを使うといいかもしれません。
また、総務省ではJアラートとは別に、新たにLアラート(災害情報共有システム)と呼ばれるシステムの導入も進めています。これはJアラートを含む災害情報をテレビ、ラジオ、インターネット、スマートフォンなど、多様なメディアを通じて配信するシステムで、緊急性・速報性を重視するJアラートと異なり、継続的な災害関連情報の提供にも重点を置いた「公共情報コモンズ」として機能しています。前述したYahoo!防災速報もLアラートによる配信を受けています。
しかしながら、アプリによる配信も、ネットワークの問題が発生したり、パケット通信が出来ないと受信が出来ません。あくまで複数ある伝達手段の一つと位置づけ、他の手段と併用すべきでしょう。また、Jアラートを受信出来たとしても、ミサイル攻撃などの急を要する事態の場合、身を守るために直ちに行動を開始する必要があるので、あらかじめ適切な対応法を知っておかなければ、適切な対応は難しいでしょう。重要なのは、事態が起きている事を知り、そして行動に移すことなのです。事態が起きていることを知っただけで終わってはいけません。
内閣官房の「国民保護ポータルサイト」では、Jアラートなどの国民保護の仕組みの紹介や、パンフレットなどで知識普及を行っております。これを機会に目を通してみてはいかがでしょうか。