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日銀のサプライズ修正(実質利上げ)を受けての住宅ローン金利の行方。変動タイプが安心とは限らない

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀は20日の金融政策決定会合で緩和政策の一部を修正してきた。金融市場調節方針の基本的なところは変えずに、長期金利操作の運用のところで、国債買入額を大幅に増額しつつ、長期金利の変動幅を従来の±0.25%程度から±0.50程度に拡大した。

 これを利上げと受け止めるべきかどうかの判断は難しい。あくまで長期金利を日銀が容認できる変動幅を0.25%引き上げただけである。ただし、日銀の黒田総裁や、実質的に金融政策の判断に大きな影響を与えうる内田理事(企画担当)は、これまで変動幅の拡大は事実上の利上げに当たるなどと発言していた。このため黒田総裁や内田理事の言葉を借りて、事実上の利上げと判断したい。

 ただし、利上げといっても通常の中央銀行の利上げではない。通常の利上げはFRBやECB、イングランド銀行が行っているような政策金利であるところの短期金利を引き上げることである。今回の日銀は政策金利の短期金利はマイナスのままで引き上げていない。

 ということで、住宅ローン金利では、固定タイプが長期金利、変動タイプが短期金利(日銀の政策金利)に連動する。今回の長期金利の変動レンジの拡大によって、長期金利は一時、7年ぶりとなる0.460%まで上昇した。それまで0.250%で止まっていたことで、長期金利の上昇によって、これから借りる住宅ローン金利の固定タイプは金利上昇は避けられない。

 それでは短期金利(日銀の政策金利)に連動する変動タイプは問題ないのかといえば、ひとまず目先問題はないかもしれない。しかし、今回の日銀の修正がサプライズであるとともに、10年続けた異次元緩和の修正が始まったとの見方もできる。

 現在の日銀のマイナス金利政策そのものも経済や物価の実勢にそぐわなくなっており、次の修正はこのマイナス金利政策ではないかとの見方も強い。また、日銀が今回で修正を終えるということも考えづらい。

 欧米の景気が悪化し物価も低下することで、日銀が修正に動かなくて済む、というシナリオもなくはない。しかし、マイナス金利政策が非常時対応であることも考えると修正されてしかるべきである。

 マイナス金利政策が修正され、ノーマルな金融緩和に戻ったとしてもゼロ金利政策となるだけであり、変動タイプの金利が急に跳ね上がることも考えづらい。

 しかし、現物の物価上昇がこれからも継続するとなるなどすれば、欧米のような利上げが準備される可能性は当然ある。黒田総裁の任期が切れる来年4月以降は新総裁次第ではあるが、その可能性が高まることも予想される。それより以前に今回のようなサプライズ修正が起きる可能性も当然ありうる。

 このため変動タイプについて金利上昇は免れるという保証はなく、むしろ今後、変動金利が上昇する可能性は、今回のサプライズ修正もあって高まりつつあるとの見方も出来るので注意したい。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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