「低俗発言」連発に見る金正恩氏のカン違い
おととい、本欄で北朝鮮と韓国の「舌戦」が過熱している、と書いたばかりだが、きのう再び激しい応酬が交わされた。北朝鮮の対韓国窓口機関・祖国平和統一委員会が発表した「重大報道」の中で、韓国の大統領を名指しして「朴槿恵逆賊どもをこの地、この空から断固と除去する」と宣言。韓国政府がこれに対し、「北が挑発を強行する場合、わが軍は容赦なく懲らしめる。全ての責任は北にある」と警告したのだ。
(参考記事:マジギレか戦術か!? 金正恩vs朴槿恵の「舌戦」が過熱)
(参考記事:北朝鮮「先制攻撃」声明に見る金正恩氏の「メンタル」問題)
おとといも指摘した通り、北朝鮮は朴槿恵大統領を低俗な表現で繰り返し罵倒してきた。国家元首といえども人間である。仮に、国際政治上の何らかの展開があり、金正恩第1書記と朴槿恵氏が南北首脳会談を行う可能性が生じても、口汚く罵られた経緯があればうまく行くはずがない。
(参考記事:金正恩氏、「斬首作戦」にビビりながら朴槿恵氏を罵倒)
(参考記事:遂に「南北統一」を放棄した金正恩氏と朴槿恵氏)
また、北朝鮮は米国のオバマ大統領に対しても、常識的には思い浮かばないような表現まで用いて罵倒してきた。引用するのも憚られるような酷い内容だが、北朝鮮の行いを告発する意味でほんの一部だけ言及すると、「オバマのみすぼらしい姿を見るとおう吐ではらわたが煮えくり返る」といったような具合だ。
(参考記事:北朝鮮が差別表現でオバマ氏を罵倒する理由)
この一事だけを見ても、「米朝の対話なんかとうていムリだろうな」などと思わざるを得ない。
よほど愚かでない以上、金正恩氏とてその程度のことは想像がつくはずだ。それでも敢えて、北朝鮮がこうした低俗発言を繰り返す裏には、金正恩体制がまだ、米韓との外交戦で真正面から渡り合える段階にはない、との判断があるのではないか。そして、当面は核・ミサイル戦力の増強に注力し、いずれ強力な軍事的カードを握った段階で、外交戦をしかけようという魂胆なのかもしれない。
(参考記事:米韓に核と「オッサン部隊」で対抗する金正恩氏)
(参考記事:北朝鮮「ドローン部隊」が韓国を襲う可能性)
だが、本当にそうだとしたら、金正恩氏は大きな「カン違い」をしていることになる。
北朝鮮の人権問題を担当する国連のダルスマン特別報告者は、ジュネーブで24日まで開かれている国連人権理事会に、金正恩第1書記に対して「人道に対する罪」で調査する可能性があることを公式に通知するよう求める報告書を提出している。
(参考記事:北朝鮮「核の暴走」の裏に拷問・強姦・公開処刑)
(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「人道に対する罪」の実態)
「人権に対する罪」に問われるということはつまり、アドルフ・ヒトラーなどの虐殺者と同等に扱われるということであり、そんな国家指導者は、先進民主主義国からは絶対に相手にしてもらえない。罵詈雑言を並べようが並べまいが、そのことに変わりはないのだ。
(参考記事:北朝鮮の「公開処刑」はこうして行われる)
(参考記事:悪名高き公開処刑の「極秘プロセス」…北朝鮮「人道に対する罪」の実態)
あるいは、金正恩氏もそうと知りつつ、ヤケクソで悪口を言いたてているのだろうか。それこそ低レベルと言うべきものだが、核・ミサイル問題での暴走の裏に、人権問題をめぐるヤケクソ的な感情があるのは間違いない。
(参考記事:赤ん坊は犬のエサに投げ込まれた…北朝鮮「政治犯収容所」の実態)
(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」……残忍さを増す粛清現場を衛星画像が確認)
しかし悩ましいのは、私たちはこうした北朝鮮の言動を「低レベルだ」と断じていればよいのではなく、金正恩氏の暴走をどうにか止めなければいけないという点にある。そのためには、北朝鮮の人権問題をどのように解決し、北朝鮮の国民をどのような国づくりへと導くか、という観点が絶対に必要になると、筆者は考えている。
(参考記事:金正恩氏が「暴走」をやめられない本当の理由)