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在日ベトナム人調査(2)コロナで生活面も課題山積、帰国困難・買い物に行けない・日本語学習機会失う

巣内尚子研究者、ジャーナリスト
海外に移住労働に出る人の多いベトナムの農村(筆者撮影)

 新型コロナウイルスにより、日本に暮らすベトナム人の技能実習生や留学生の間で、生活状況が苦しくなる人が出ている。ただし、ベトナム出身の技能実習生や留学生の困難は今に始まったことではない。このため筆者は今回、アンケート調査の結果をもとに、新型コロナウイルスを受けた技能実習生や留学生の課題を提示したうえで、以前からの課題についても伝える。

 今回は、新型コロナウイルスの流行とそれに伴う移動・行動の自粛による生活面の課題に着目する。

◆約60%が「新型コロナウイルスの影響を受け生活面の問題がある」と回答

 筆者は2020年5月26日から6月4日にかけ、技能実習生と留学生を中心とする在日ベトナム人を対象に、インターネットを使ったアンケート調査を実施した。その結果、在日ベトナム人77人(うち女性42人、男性35人)から回答を得た。

  アンケート対象者の在留資格・職種別、男女別の内訳は、技能実習生43人(女性23人、男性20人)、留学生19人(女性13人、男性6人)、エンジニア5人(すべて男性)、経済連携協定(EPA)の介護福祉士候補者2人(すべて女性)、その他の在留資格3人(女性2人、男性1人)、在留資格なし5人(女性2人、男性3人)となっている。

  アンケートでは性別、出身地、学歴、来日前の世帯収入や職業、仲介会社の利用状況、渡航費用のための債務の有無、来日時期などの基本的な情報に加え、新型コロナウイルスの流行とそれに伴う移動・行動の自粛による仕事面と生活面への影響などについて聞いた。

 この結果、アンケートで、「新型コロナウイルスの影響を受け生活面の問題がある」と回答した人の割合は、全体の55.8%となった。

 筆者は拙稿「在日ベトナム人調査(1)技能実習生・留学生らの約7割『コロナ受け仕事面の問題ある』、仕事減り収入縮小」で、「新型コロナウイルスの影響を受け仕事面の問題がある」と回答した人が回答者全体の66.2%に上ったことを伝えた。仕事面だけはなく生活面でも問題が生じているのだ。

※アンケートの結果をもとに筆者作成
※アンケートの結果をもとに筆者作成

 在留資格・職種別でみると、「新型コロナウイルスの影響を受け生活面の問題がある」と回答した人の割合が高いのは留学生だ。とくに女性の留学生で、「生活面の問題がある」と回答した人の割合が高い。

 技能実習生の中で、「新型コロナウイルスの影響を受け生活面の問題がある」と回答した人の割合は、技能実習生全体の51.2%となった。

※アンケートの結果をもとに筆者作成
※アンケートの結果をもとに筆者作成

◇「帰国できない」

 アンケートではさらに、「新型コロナウイルスの影響を受け生活面の問題がある」と回答した人を対象に、具体的な生活面の問題を複数回答で聞いた。

 この結果、「新型コロナウイルスの影響を受け生活面の問題がある」と回答した人の中で、「帰国できない」と答えた人の割合が67.4%となり、項目別で最多となった。男女別では「新型コロナウイルスの影響を受け生活面の問題がある」と回答した人のうち、女性の70.8%、男性の63.2%が「帰国できない」を選択している。

※アンケートの結果をもとに筆者作成
※アンケートの結果をもとに筆者作成

 新型コロナウイルスの世界的な流行を受け、各国が国境管理を厳格化し、航空各社が軒並み運航を取りやめている。そうした中、ベトナムに帰国できない人が多数存在する。

 帰国できない間、もしも仕事やアルバイトができなければ、収入を得られず、生活できなくなる。帰国できないということは、単に移動ができないというのにとどまらない問題を生じさせる。

 ほかに、「新型コロナウイルスの影響を受け生活面の問題がある」と答えた人の中で、「食品をはじめ生活必需品の買い物に行けない」と答えた人が30.2%いた。

 ベトナム出身の技能実習生や留学生は、生活費を節約するため、スーパーなどにコメ、野菜、肉・魚などを買いに行き、自炊する人が少なくない。フルタイムで働く技能実習生は、自ら作ったお弁当を職場に持参したり、昼食時間に寮に戻り自分で作った食事を食べたりするケースが多い。会社から昼食のサポートがある人が限られるためだ。しかし、新型コロナウイルスの流行とそれを受けた移動・行動の自粛により、食品をはじめ生活必需品を買いに出るのが難しい人が出ている。

◇居住の在り方に懸念、寮・住まいの感染対策に不安も

 「新型コロナウイルスの影響を受け生活面の問題がある」と回答した人のうち、「寮・住まいの感染対策が不十分」と答えた人は25.6%となった。

 技能実習生は通常、受け入れ企業が用意した寮に住む。この際、個室が与えられるケースはあまりなく、多くがほかの技能実習生との共同生活となる。2人部屋であれば良いほうで、中には一つの住居に5人以上で共同生活を送るケースもある。筆者のこれまでの聞き取り対象には、10数人で同じ住宅に住んでいるという人もいた。

 技能実習生の寮では、一つの部屋に複数の二段ベッドが配置されるか、複数の布団がしかれるなどし、ほかの技能実習生と寝起きをともにすることが多い。ひとたび誰かが何らかの感染症になった場合、部屋を共有する技能実習生の間で感染が広がるリスクがある。

 これは他国のケースだが、シンガポールでは海外からの移住労働者の間で新型コロナウイルスの感染が広がった。原因として、移住労働者が寮で共同生活をしていたことが指摘されている。シンガポールでは寮の規模が大きく、一カ所の寮で暮らす人数は日本より多いようだが、同じ空間で密着し生活することが感染リスクを高めることを示していると言える。(2020年4月17日付South China Morning Post、「How did migrant worker dormitories become Singapore’s biggest coronavirus cluster?」

 技能実習生は人口密度の低い地方部に居住していることが多い。だが、前述したように、ほかの技能実習生との共同生活が一般的なため、居住の在り方について、注意してみる必要がある。

 留学生に関しては、都市部の日本語学校や専門学校、大学などに通うケースが多い。この際、住宅費用を節約するために、留学生同士でアパートをシェアすることもよく行われている。留学生に関しても、居住の在り方に関係し感染への不安が生じていると考えられる。

◇情報へのアクセスに課題

 「日本語が十分わからないため新型コロナウイルス関連情報にアクセスできない」と回答した人もいる。新型コロナウイルスの感染状況やそれに伴う政府の施策などは、時々刻々と変化する。新型コロナウイルス関連の用語も専門的なものが多い。日本語の非母語話者にとっては情報を得ることは容易ではない。

 ほかに「インターネットないしテレビがないので新型コロナウイルス関連情報にアクセスできない」と答えた人がいた。

 筆者のこれまでの聞き取りでは、受け入れ企業が技能実習生の寮にインターネットの設備を設置せず、技能実習生がWi-Fiの電波を求めてコンビニエンスストアまで移動するというケースがあった。技能実習生のインターネットや携帯電話の使用が禁止されるケースもある。

 受け入れ企業が技能実習生の寮にテレビを用意することも多いが、そうではないケースも存在する。

 またベトナム人の技能実習生や留学生は、来日にあたりベトナム側の仲介会社(送り出し機関)に多額の費用を払うことが多い。この資金を借金で賄うことが一般的だ。来日後は働きつつ借金を返すのだ。返済が終われば家族に仕送りする必要がある。このため自由にお金を使えず、インターネットやテレビにお金を出せないこともある。

◆日本語教室の活動休止、学習機会失う

 各地の日本語教室の中に、感染防止のために活動を休止したところが出たことが、在日ベトナム人の暮らしに影響していることが見えてきた。「新型コロナウイルスの影響を受け生活面の問題がある」と回答した人の中で、「地域の日本語教室が活動を休止し、日本語を学ぶ機会を失った」と答えた人が16.3%いた。

 とくに学習機会が限られる技能実習生がこの影響を受けている。

 技能実習生はフルタイムで就労しており、もともと生活時間の中で日本語学習に振り向けられる時間が限定的だ。

 受け入れ企業によっては社内で技能実習生向けに日本語学習の機会を設けるところもある。中には日本語能力試験の受験勉強をサポートする企業もある。オフィシャルな学習の場がなくとも、日本人の社員が技能実習生と交換日記をしたり、会話したりし、日本語学習をサポートすることもある。ただし、筆者の聞き取りでは、社内に日本語学習の機会がないという技能実習生が少なくなかった。

 

 そもそも、40万人を超える技能実習生が日本の経済を支えているにもかかわらず、日本政府は技能実習生の日本語学習支援を十分行っていない。

 そんな中、地域の人々の取り組みが、かろうじて技能実習生の日本語学習を支えている。技能実習生にとって地域の日本語教室は貴重な学びの場だ。なんとか日本語を学びたいと、自転車で1時間以上かけ日本語教室に通う技能実習生もいる。

 だが、新型コロナウイルスを受け日本語教室が活動を休止する中、もともと限られていた日本語学習機会を失う人が出ている。(在日ベトナム人調査(3)に続く。)

研究者、ジャーナリスト

岐阜大学教員。インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者やフリーライターとして活動。2015年3月~2016年2月、ベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在し、ベトナムからの国境を超える移住労働を調査。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。ケベック州のラバル大学博士課程。現在は帰国し日本在住。著書に『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社、2019年)。

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