金正恩、ミサイル乱射の裏で「冬を越す食糧がない」
北朝鮮の金正恩総書記は今月10、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸州(ハムジュ)郡に作られた連浦(リョンポ)温室農場の竣工式に出席した。前例のない「ミサイル乱射」と同時に「民生重視」もアピールし、国民の不安を和らげようとする意図があるのかもしれない。
同農場は、280ヘクタールの敷地に852棟の温室が立ち並び、農場員の住宅も970戸に及ぶ。キャベツ、ほうれん草、大根、きゅうり、ナス、トウガラシ、サンチュなどが栽培され、年間生産量は1680トンに達すると、米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)の情報筋は伝えている。
しかし、派手な竣工式が行われる一方で、各地の農場は著しい不作となっている。
両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、恵山(ヘサン)市内の工場、企業所の従業員が、割り当てられた6カ月分の配給用のジャガイモを掘るために、先月末から農場に出向いているが、作況が昨年より悪く、皆が頭を抱えていると伝えた。
デイリーNKは去年10月、道内の三水(サムス)のジャガイモ畑を例に挙げ、1ヘクタール当たり8トンの収穫があるところが、その半分にも満たないと報じたが、今年はもっとひどいのだという。
春の日照り、その後の梅雨、台風など年々深刻化する自然災害に加え、コロナ対策で貿易がストップし、肥料やビニール膜などの営農資材が入荷しなくなったことも影響している。
情報筋は、毎年のように不足する肥料不足を克服できずにいるとし、国の支援がない限りは、数百ヘクタールに及ぶ畑に肥料をまくのは困難で、それに加え異常気象の影響もあって、毎年収穫量が減っていると嘆いた。
(参考記事:「北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
当局は、毎年年初に国民を大々的に動員して、人糞を集めさせ、堆肥を作らせているが、それだけでは、役不足のようだ。
気候的に稲作の難しい両江道では、ジャガイモが重要な炭水化物の供給源だ。しかし、年々ひどくなる凶作で、秋を迎えても食糧事情が好転していない。食糧価格も下がっておらず、住民の不満は高まりつつある。ジャガイモをおかずの一品くらいにしていたトンジュ(金主、ニューリッチ)ですらも、「今年は越冬用のジャガイモの確保に苦労している」という。
また、ジャガイモ配給が行われる現場にも、凶作の影響が現れている。昨年まで、従業員にジャガイモを配給する工場と企業所は、自前の畑で育てたジャガイモを質や大きさ、価格などを見極めて収穫していたが、今年はどうにか冬を越すために、ともかく量を確保さえできればいいと手当り次第に掘り出している。
それで得られるジャガイモは、世帯主1人あたり100キロから150キロ。家族全員分もらえるのなら、冬を越すには充分な量だが、配給されるのは世帯主の分だけだ。
本格的な冬が到来すると、山菜採りも野菜の栽培もできなくなるため、現地の人々は、冬を生き抜くために、例年以上に必死になっていることだろう。