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安倍首相の新目標「2021年度、財政赤字をGDPの3%以内に」の虚実 財政再建より賃上げと投資減税を

木村正人在英国際ジャーナリスト
「財政赤字をGDPの3%以内に」を目標に掲げるという安倍首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

雲散霧消した20年度基礎的財政収支「黒字化」目標

[ロンドン発]日本の財政は果たしていつまで持つのでしょうか。読売新聞が「政府は、2021年度の財政収支の赤字額を名目国内総生産(GDP)の3%以内にすることを新たな財政再建目標として掲げる検討に入った」と報じました。

6月にもまとめる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に盛り込むそうです。

欧州連合(EU)は安定成長協定で財政赤字GDP比3%以内、政府債務GDP比60%以内に抑えることを目標にしてきました。読売新聞によると「日本も同水準の目標を掲げることにした」と言います。

しかし、EUは欧州債務危機をきっかけに構造的財政赤字(財政赤字から循環的要因、一時的要因を取り除いたもの)をGDP比0.5%以内に抑制する中期財政目標の尊重を掲げています。

日本は2020年度の国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、国債の元本返済や利子の支払いにあてられる費用を除く収支)黒字化を目指してきましたが、達成は不可能なのが現状です。

幻の成長実現シナリオ

内閣府は基礎的財政収支に関し、昨年7月時点の成長実現シナリオで25年度に黒字化すると試算していましたが、今年1月、27年度に先送りしたばかりです。

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27年度に名目GDP成長率3.5%(17年度2%)、消費者物価上昇率2%(同0.7%)を達成しているというシナリオなので、実現する見通しは限りなく低いと言わざるを得ません。

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小泉政権時代に11年度の黒字化が掲げられていたこともありましたが、目標達成はどんどん先送りされ、いよいよ棚上げされそうな雲行きです。

EUのギリシャやイタリアは基礎的財政収支を黒字化

国際通貨基金(IMF)のデータをもとに各国の基礎的財政収支の推移を見てみましょう。

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ドイツが主導した構造改革で財政再建を進めたEU加盟国はギリシャでさえ15年以降、基礎的財政収支の連続黒字化を達成しています。EUの債務大国イタリアも11年から黒字化し、22年には対GDP比で約3.7%の黒字になる見通しです。

世界金融危機で「財政赤字」と「経常赤字」という2つの赤字を抱えた国は国債金利が上昇して深刻な債務危機に陥りました。

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しかし日本は膨大な政府債務を抱えていても、健全な経常黒字国です。海外の日本国債保有者は全体の6.1%(昨年12月末時点)に過ぎず、日銀の金融緩和策で長期金利は0.1%未満に抑えられています。

当面、日本政府が資金繰りに困る心配はありません。経常黒字が続く限り、長期金利も上昇せず、政府債務がどれだけ積み上がっても大丈夫と日本政府は考えているのでしょうか。

GDPの240%に達した日本の政府債務

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超高齢化時代の到来で医療・年金・介護の社会保障給付費が17年度の120兆円から、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる25年度には149兆円に膨れ上がると予測されています。

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日本経済が内閣府のシナリオのように名目GDP成長率3.5%を達成できるならまだしも、IMFデータからは日本の成長率はEUの劣等生イタリアやギリシャを下回っていることが分かります。

日本の人口が減少する中、社会保障給付費の拡大で巨額の借金を抱えることは大きなリスクにつながります。短期的には資金繰りに問題がなくても、中・長期的には危機の引き金になりかねません。

日本の財政が破綻するとIMFでも助けることができません。

日本の就業率は高い

かと言ってEU型の緊縮財政を導入することに筆者は否定的です。就業率で見ると日本はEUの優等生ドイツと同じ75.3%です。フランスは64.8%、イタリアは58%、ギリシャは53.5%と非常に低くなっています。

経済協力開発機構(OECD)データで作成
経済協力開発機構(OECD)データで作成

イタリア、ギリシャには何度も取材で訪れていますが、緊縮財政で状況が改善したと言うより、だんだん深刻になっているという印象を強くしています。既得権が守られすぎて、成長の原動力となる優秀な若者が次々と国外に飛び出してしまったからです。

日銀の金融緩和という一本足打法だった安倍晋三首相の経済政策アベノミクスにも限界が見えてきました。

お年寄りや女性による労働参加で非正規雇用が4割になる中、同一労働同一賃金を実現し、富や所得を分配させる必要があります。これからはお年寄りにもできるだけ長く働いてもらわなければなりません。

日本は就業率が高いので、サービス残業を撤廃、正規雇用と非正規雇用の格差をなくし、お年寄りや子育て世代にも働きやすい環境を実現して賃金の底上げをしてやれば、将来不安も減り、個人消費も増えていくはずです。

セクハラは絶対に許してはいけません。女性の社会参加の妨げになるからです。

富や所得の再分配と投資減税を

日銀の資金循環統計をみると、企業に20.1兆円、家計に23.5兆円の資金余剰が生じ、政府が19.2兆円を借り、海外への投資が21.6兆円に達しています。

日本で貧困問題が発生するのは、労働者が搾取され、富や所得の再分配がうまく行われていないからです。

勤労者所得保障や生活賃金(最低限の生活水準の維持に必要な生活費から賃金水準を設定)のような制度を導入して富や所得の再分配機能を強め、お年寄りや低所得者世帯の生活を保障してやる。その一方で、国内に投資した企業には投資減税を適用して成長を促していく必要があります。

公共医療サービスを見ても日本ではデータの活用を阻む古い仕組みがたくさん残っていて、改革を進めるのが難しくなっています。データは貨幣と同じ価値を持つものなのに、日本は米英に比べて対応が非常に遅れています。

人工知能(AI)、ロボット、ビッグデータ、IoT(モノのインターネット)などの先端分野への投資減税や学生の教育支援も欠かせません。

経常黒字が続いている間に債務レベルをコントロールし、1日8時間、週5日真面目に働けば家庭を持って子育てできる持続可能な社会を実現することが大切だと思います。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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