11月18日(土)・19日(日)は山手線の電車の一部区間運休に注意~なぜ起きる、どうすればよいのか~
※本稿には2023年1月7日に渋谷駅で筆者が撮影した写真が6点掲載されている。これらはすべて線路近隣のビルからビル所有者の許可を得て撮影したものだ。
渋谷駅では18日の外回り269本、19日の内回り254本の電車がすべて運休に
今週末となる2023(令和5)年11月18日(土)・19日(日)の両日は、首都圏の重要路線であるJR東日本山手線の利用に注意しなくてはならない。渋谷駅で線路切換工事が実施されるため、渋谷駅はもちろん、新宿駅などを挟んで大崎駅と池袋駅との間の電車が運休となる。しかも、後述のとおり18日と19日とでは運休となる電車の種類が異なるので注意が必要だ。
11月18日は外回りの電車が大崎駅から池袋駅までの間で初電から終電まですべて運転を取りやめる。外回りの電車とは、大崎駅から渋谷駅、新宿駅などを経て池袋駅に向かう電車を指す。通常であれば土曜日の渋谷駅には早朝4時37分から深夜0時33分まで269本、平均4分27秒間隔で外回りの電車が発着し、殊に16時台には平均3分32秒間隔で17本もの電車がやって来る。だが、18日には電車は1本も発着しない。
一方、11月19日は内回りの電車が池袋駅から大崎駅までの間でやはり初電から終電まですべて運転を取りやめる。内回りの電車とは、池袋駅から新宿駅、渋谷駅などを経て大崎駅に向かう電車を指す。通常であれば日曜日の渋谷駅には早朝4時49分から深夜0時48分まで254本、平均4分43秒間隔で内回りの電車が発着し、殊に8・10・11・13・14・15時台には平均3分45秒間隔で16本もの電車がやって来る。くどいようだが19日には電車は1本も発着しない。
これだけ長い時間山手線の電車が走らない理由は冒頭に挙げたように渋谷駅で線路切換工事が実施されるからだ。工事とは、山手線の電車が走行する外回り、内回り双方の線路、そしてこれら2本の線路の間に設置されているホームを最大で20cmかさ上げするという内容である。いまの説明では線路を切り換えてはいない。実は今回に至るまでJR東日本の渋谷駅では4段階5回にわたって実際に線路を動かす工事を行っており、最終段階となるこのたびの工事もJR東日本は線路切換と称している。
渋谷駅での工事はなぜ行われるのか
線路やホームのかさ上げは下を通り抜ける連絡通路の天井の高さを上げるためだ。現在の連絡通路の天井の高さは最も低いところで建築基準法ぎりぎりの2.1mしかない。しかも通路は平坦ではなく、ところどころで低い線路やホームをくぐるために傾斜付きと、利用しやすいとはとても言えない状況であった。
このたびの工事で連絡通路の天井の高さは少なくとも2.6m以上となり、併せて通路の傾斜も姿を消す。さらに、渋谷駅の中央口や東口と西口とをきっぷを買わなくても通行可能な東西自由通路の建設工事も行われるという。山手線の電車が長時間運休となるのは利用者にとっては困った事態ではある。けれども、これまでつぎはぎだらけで使いやすいとはお世辞にも言えなかった渋谷駅が便利になるのだから何とか辛抱していただきたい。
渋谷駅での線路切換工事によってこの駅を発着するJR東日本の電車が長時間運転されなかった出来事はこれまでに4段階にわたって5回起きている。第1段階は2018(平成30)年5月26日から翌5月27日までと同年6月2日から翌6月3日までとの計2回、第2段階は2020(令和2)年5月30日から翌5月31日までの1回、第3段階は2021(令和3)年10月23日から翌10月24日までの1回、第4段階は2023年1月7日から翌1月8日までの1回であった。第1・第2段階では埼京線・湘南新宿ラインが大崎-新宿間の両方向、第3段階では山手線の内回りが、第4段階では山手線の外回りがそれぞれ運休となった。外回り、内回りとがどちらも運休するのは今回が初めてとなる。
筆者はこれまで渋谷駅で線路切換工事が行われるたびにテレビ局からコメントを求められた。山手線の電車が運休になった場合に限って言うと聞かれる質問はだいたい次のとおりであり、一つ一つ答えていきたい。本稿をご覧の皆様にも参考になるであろう。
- なぜ長時間電車が運休になるのか
- 運休となる区間が渋谷駅の隣の駅同士の恵比寿-原宿間ではなく、なぜ広い範囲となるのか
- 線路切換工事と関係のない区間や方向の電車までなぜ影響を受けるのか
- 当日はどのように移動すればよいのか
人力での作業のほうが運休となる時間は短い
1の答えは人力での作業が多いからだ。今回の作業の詳細は明らかにされていないが、過去の例から言って、次のとおりとなるであろう。
まずは線路上に載せられた軌陸クレーンといって線路と道路とを走行可能な小型のクレーン車を何台も用いて線路やホームを持ち上げる。その間に油圧のジャッキを何台も据え付けて担当者たちが掛け声と共に線路やホームの高さを上げていく。最後に支えとなる部材をこれまた手作業で据え付け、ジャッキを降ろした後、外して終了となる。
人力での作業が多いことから、安全や作業効率に配慮して事前に念入りな計画が立てられているのが特徴だ。これまでの線路切換工事を筆者が見た限りでは、人の動線に無駄がないよう歩く距離はできる限り短く設定されると同時に、動線が交差しないように配慮されている。そして、一部の工程では渋谷駅を模した線路やホームを築いて試験施工、つまり模擬工事を行って担当者の習熟度を高めた。
今回の工事では線路のうち、レールやまくらぎが敷かれた軌道部分、それにホームが注目されているが、これらとは別に架線も気になる。線路の高さが上がったのに架線の位置がそのままでは、電車の屋根がつかえてしまう恐れがあるからだ。やはり筆者が過去の工事を見た限りでは、恐らくは一度架線を外し、再度取り付けると思われる。線路は一度にすべての工事場所でかさ上げされないので、強く引っ張られて架線が切れないようにするための配慮だ。ただし、架線を支える金具類はあらかじめ電車のパンタグラフが届く範囲で高めに置いておいてあるのではないであろうか。そして、今回の工事では何もしないか、微調整で済ませ、パンタグラフの伸縮でカバーするものと思われる。
いま挙げた一連の作業を重機を用いて一気に済ませてしまえばよいのにと考えたくなるが、そうもいかない。線路もホームも長さは200mを越え、これらを一度に持ち上げられる巨大なクレーンはそうは存在しないからである。仮にあったとしても、線路やホームのすぐ隣に他の線路であるとか建物が密集している渋谷駅に搬入することはまず不可能だ。超大型クレーンをどうしても使用したいのであれば、まずは駅前の道路を整備し、そのうえで駅舎を一度壊したり、隣の線路やことによると他社の線路を外したりといった作業が必要となる。これでは電車を1日か2日運休させるだけでは無理で、1カ月以上も電車を動かせないかもしれない。
運休となる範囲はなぜ広いのか
2番目の質問に進もう。答えは電車が折り返すための設備が渋谷駅の両隣の恵比寿駅にも原宿駅にも存在しないからだ。
山手線の電車は普段は環状運転を行っていて、1日に何周も同じ方向に走っている。したがって、他の一般的な棒状の路線のように終点で折り返す必要がない。ただし、大崎駅、池袋駅には車庫があり、車庫に出入りする電車が折り返せるようになっている。今回の線路切換工事のような機会はそう多くない。わざわざ電車が折り返すための線路を恵比寿駅と原宿駅とに敷くのは得策ではないとJR東日本は考えたようで、既存の設備を活用することになったのだ。
なお、11月18日は大崎駅で外回りの電車が、翌19日は池袋駅で内回りの電車がそれぞれ折り返す。折り返す方法については、池袋駅から渋谷駅まで内回りの電車が運休となった2021年10月の第3段階の線路切換工事に当たって筆者が記した「JR山手線内回り 2日間に及ぶ一部運休はなぜ生じるのか(大崎駅での折り返しについて追記・訂正あり)」をご参照いただきたい。簡潔に言うと、大崎駅では到着後すぐに内回りの電車に変身するのではなく、いったん車庫に戻る。池袋駅では構内に設けられた折り返し用の線路に入って比較的短時間で外回りの電車へと姿を変えていく。
工事とは関係ない方向の電車も影響を受ける理由は
3番目の質問に答える前に、今回どのように山手線の電車が運転されるのかを説明しよう。
11月18日は外回りの大崎→渋谷→新宿→池袋間が運休で、残る外回りの池袋→東京→大崎間で運転が行われる。運転間隔は日中で通常は約3分間隔のところ、約10分間隔に広がるという。
線路切換工事の影響を受けない内回りは、外回りの電車が運転される大崎→東京→池袋間こそ約3分間隔と通常どおりだ。しかし、外回りの電車が運転されない池袋→新宿→渋谷→大崎間は約5分間隔に延びてしまう。
一方、11月19日は18日の逆となる。内回りの池袋→新宿→渋谷→大崎間が運休で、残る内回りの大崎→東京→池袋間で運転が行われる。運転間隔は同様に約10分間隔に広がるそうだ。
線路切換工事の影響を受けない外回りは、内回りの電車が運転される池袋→東京→大崎間こそ約3分間隔と通常どおり。大崎→渋谷→新宿→池袋間は約5分間隔に延びる。
以上で理解できないのは、なぜ線路切換工事とは関係のない区間や方向を走る電車まで運転間隔が延びるかだ。これは、運休区間が生じた結果、残りの区間に電車を供給するためにどうしても電車の折り返し作業が必要となるからである。
仮に電車が無限にあれば、この先が運休となる大崎駅なり池袋駅に到着した電車をそのまま車庫に収容してしまえばよい。そして、始発となる池袋駅なり大崎駅の最寄りの車庫からどんどん電車を供給すれば、線路切換工事に関係ない方向の電車は山手線一周すべてで通常どおりの間隔で運転できる。
しかし、山手線の電車は現実には11両編成50本の550両しか存在しない。大崎駅なり池袋駅に到着したらもうその日は営業終了などというぜいたくな使い方では、1日に200本以上の電車を走らせることは不可能だ。となると、大崎駅と池袋駅とで電車を折り返して、池袋駅や大崎駅に電車を戻す必要が生じる。折り返す電車は、運休区間のない反対方向の線路に割り込ませなくてはならない。つまり、大崎駅なり池袋駅に到着した電車は東京駅などを経由して池袋駅なり大崎駅に向かわせないと、電車が足りなくなってしまうのだ。
山手線が運休! どうすればよいのか
4番目の答えはどの駅からどの駅に行きたいかによって変わる。ケースごとに説明しよう。
大崎-恵比寿-渋谷-新宿-池袋間を互いに行き来したいとき
埼京線や湘南新宿ラインを利用すればよい。11月18日・19日とも埼京線の電車は増発されるので、ほぼストレスなく利用できるであろう。
五反田駅を利用したいとき
大崎駅からは山手線で反対方向の品川駅に向かい、京浜急行電鉄本線に乗り換えて泉岳寺駅へ、同じ駅に発着する都営地下鉄浅草線で五反田駅へと向かう。
恵比寿駅からは東京メトロ日比谷線で中目黒駅へ行き、ここで東急電鉄東横線に乗り換えて自由が丘駅へ。さらに同社の大井町線で旗の台駅に向かい、再び同社の池上線で五反田駅へ行けばよい。なお、渋谷駅から行きたい場合は恵比寿駅に向かう必要はなく、東横線で直接自由が丘駅まで行ける。
※振替輸送について 運休となる区間が含まれるきっぷ、定期券などを利用の場合、京浜急行電鉄本線泉岳寺-品川間、都営地下鉄全線、東京メトロ全線、東急電鉄東横線渋谷-武蔵小杉間、同大井町線大井町-自由が丘間、同池上線全線を無料で乗車できる。
目黒駅を利用したいとき
大崎駅からは山手線で反対方向の田町駅に向かい、都営地下鉄三田線に乗り換えて目黒駅へ向かう。途中の白金高輪駅で東京メトロ南北線に乗り換える必要も生じるので注意してほしい。
恵比寿駅からは東京メトロ日比谷線で中目黒駅へ、そして東急電鉄東横線で田園調布駅に向かい、同社の目黒線で目黒駅に行く。渋谷駅からは東急電鉄東横線に乗って真っすぐ田園調布駅を目指せばよい。
※振替輸送について 五反田駅で挙げた路線に加え、東急電鉄目黒線目黒-武蔵小杉間も無料で乗車できる。
原宿駅を利用したいとき
渋谷駅と池袋駅との間で山手線に並行する東京メトロ副都心線の明治神宮前駅が原宿駅の目の前だ。副都心線の難点は新宿駅を通らず、新宿三丁目駅を発着する点で、新宿駅へのアクセスは同じく新宿三丁目駅を発着する東京メトロ丸の内線または都営地下鉄新宿線への乗り換えが必要となる。
代々木駅を利用したいとき
代々木駅と新宿駅との間で山手線の電車の隣の線路を走る中央線・総武線各駅停車の電車を利用するとよい。
新大久保駅を利用したいとき
新宿駅から中央・総武線各駅停車の電車で大久保駅を利用しよう。大久保駅北口と新大久保駅の改札口とは一本道で結ばれていて290mほどの道のりだ。
高田馬場駅を利用したいとき
新宿駅から西武鉄道新宿線の西武新宿駅に行き、ここから高田馬場駅へ向かうとよい。高田馬場駅自体は山手線の駅に併設されているので問題はないが、新宿駅と西武新宿駅との間は500mほど離れているので注意が必要だ。
※振替乗車について 五反田駅、目黒駅で挙げた路線に加え、西武鉄道全線(多摩川線を除く)も対象となっている。
目白駅を利用したいとき
鉄道にこだわるのであれば東京メトロ副都心線の雑司が谷駅が利用できるが、目白駅とはおよそ900m離れていて少々不便だ。池袋駅東口と目白駅前との間は都営バスの池65系統(池袋駅東口-練馬車庫前間)が運行されているのでこちらを利用するとよい。土曜日や休日は日中におおむね15分間隔でバスがあり、池袋駅東口と目白駅前との間は10分ほどで着く。
※振替輸送 都営バスは対象となっていないので大人210円、子ども110円の運賃を支払う必要がある。
ところで、振替輸送の対象となるきっぷ、定期券などにはIC乗車券の利用、それからSUICA/PASMO定期券の定期区間外での利用は含まれていないので、別途乗車した区間の運賃が必要となる。
11月18日・19日に実施される渋谷駅の線路切換工事、そしてこれに伴う山手線の一部区間の運休については以上のとおりだ。線路切換工事がどのようにして実施されたかについてはすべてが完了した後に改めて触れることとしよう。
山手線の電車が運休となって不便となり、同時に混雑が発生するのはやむを得ない。大崎-渋谷-新宿-池袋間を含む山手線品川-田端間は埼京線・湘南新宿ラインを含めて2015(平成27)年度に1日平均379万0318人が利用した。加えて、最も利用者が多かった駅間は今回運休となる区間に含まれている新宿駅と新大久保駅との間で1日平均153万4181人と大変な人数となっている。けれども、代替となる鉄道、バスの選択肢はたくさんあるから、当日になって山手線の電車の運休を知ったとしても心配はない。くれぐれも混乱することなく、何よりも無事に移動していただければ筆者も嬉しい。
参考文献
東京都都市整備局・都市基盤部・街路計画課、「渋谷駅の再編と基盤整備―渋谷駅のリノベーション―」、「土木施工」2013年2月号、オフィス・スペース
芹澤卓哉、「JR渋谷駅改良(第3回線路切換工事)~山手線内回りホーム拡幅~」、「JREA」2022年2月号、日本鉄道技術協会
安ケ平秀紀、「JR渋谷駅改良第3回線路切換工事概要―究極の安全と機械化推進を目指して―」、「新線路」2022年10月号、鉄道現業社